『7.5グラムの奇跡』砥上裕將

●今回の書評担当者●ゲオフレスポ八潮店 星由妃

 今月紹介する本は眼科専門の検査技師「視能訓練士」のお話です。
『書評』にする本は早めに決めて再読しているのですが今回は悩んでいる時にあるスタッフの何気ない一言で決まりました。
 その一言とは......「今どき裸眼って珍しいですよね?」と。

 そう、周りがコンタクトや眼鏡ばかりの中で唯一、裸眼なのが私だけなのです。
 年齢的には老眼鏡のお世話になっている世代なので周りの人も老眼鏡を手放せない状態の人が多いのが現状です。

 昨年、会社の方針で住環境が変わり、色々な事で神経を使い続け、疲れ過ぎていて眠れない日が続きました。
 ましてやコロナ禍でなかなか家族にも会えない中、家族が体調不良と聞いただけで心配で更に不眠に拍車がかかり、私の体調に顕著に症状が出たのは視力低下でした。
 学生時代、視力のいい家系の中で唯一、眼鏡をかけるギリギリの視力でいた私はなぜか年齢を重ねるとともに視力が良くなり今では1.5の裸眼で読書が出来ているのです。

 がしかし......なんだか、いつもより見えづらくなり眼科を受診した結果、なんと視力が半分に落ちていたことがわかりました。
 半分といっても0.5程度なので日常生活にはほとんど支障が無かったのですが夕方に見えづらくなり寝る前の読書が出来なくなっていました。

 思い切って先生に『頭痛もするし、肩凝りも酷いし、ついに老眼でしょうか?』と尋ねたら、先生から「元の視力が良かったから環境が変わり疲れが抜けなく見えなくなると頑張って意識的に見ようとしてしまうために目が疲れてますね。あと血流が悪くなって肩凝りが酷くなってるみたいだから、まず肩甲骨を回して血流を良くして読書したいなら度の低い老眼鏡(お医者さんはリーデンググラスと気を使ってくれたが)を100均のでも良いのでかけて読んだ方が良いですよ!」と言ってくれたのだった。

 私は早速、処方された目薬をし、肩甲骨ほぐしを毎日行い100均ではなく眼鏡屋さんで老眼鏡を購入し、見えづらい時だけ老眼鏡をかけ読書を楽しんだ。
 1ヶ月後、眼科を受診した際にはなんと視力が1.2まで回復しており肩凝りも治っていた。
 先生も驚くほど、短期間で視力が回復したのである。

 作中にある「あなたはお若いからまだ分からないかもしれませんが、健康であるということは目が、光が当たり前のように見えるということは奇跡のようなものです。あなたは、それを偶然生まれたときから与えられているから、その大切さに気付かないだけです。けれど一度失われれば、どんなにお金を積んでも、どんなに請い願っても、もう二度と与えられることはないものです。それが失われてからその大切さに気付くよりも、いまここで、その大切さに気付いてくれれば......(中略)誰よりあなた自身が辛く哀しい思いをしなくて済むでしょう」という箇所がある。

 確かに視力がいいままだったら私は何にも感じなかったし目のケアもしなかった。

 視力が落ち不便を感じ「見えない辛さ」を感じてから、この本を読むと『人の気持ちに寄り添う大切さ』を改めて感じることが出来た。

 視力が回復してから1年経った今でも私は定期的に眼科に通い、肩甲骨を回し、先生の言う通りに目のケアをしながら老眼鏡をかけずに読書を楽しんでいる。

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ゲオフレスポ八潮店 星由妃
ゲオフレスポ八潮店 星由妃
岩手県花巻市出身。課題図書は全て「宮沢賢治作品」という宮沢賢治をこよなく愛する花巻市で育ったため私の読書人生は宮沢賢治作品から始まりました。小学校では毎朝、〔雨ニモマケズ〕を朗読をする時間があり大人になった今でも読んでいて素敵な文章があると発声訓練のごとく、つい声を出して読んでいる変な書店員です。