『わすれられないおくりもの』スーザン・バーレイ
●今回の書評担当者●TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
いっしゃいませ。
まいど、礒部です。
本日ご紹介する本は、スーザン・バーレイ『わすれられないおくりもの』(評論社)。
アナグマは賢くて、いつもみんなに頼りにされていました。
友達みんな、アナグマが大好き。
そんなアナグマですが、自分の命が長くないことを悟ります。
そして、残されたみんなへ手紙を書き、永遠の眠りについたのです。
残された友はみな、悲しみに明け暮れます。
冬眠中、モグラは毛布をぐっしょり濡らしながら、どうしようもないかなしみを抱えて過ごしました。
春になり、みんなで集まって、やっとアナグマの思い出話をすることができるように......。
そこで、自分たちひとりひとりに残された、アナグマからの"わすれられないおくりもの"に気付くのです。
私のこの拙いあらすじでは全てをお伝えすることができないのですが、この本は、人生における、色々なことを教えてくれている気がします。
命のあり方。
友情。
知恵を受け継いでいくこと。
かなしみを受け入れて、素敵な思い出にすること。
それを、ずっとずっと大切にしていくこと。
わたしたちに、静かに語りかけています。
絵本の中に、眠りについたアナグマが、長いトンネルを若い頃のように身軽になったからだで、駆け抜けていくシーンがあります。
この描写にも、ふと考えさせられました。
アナグマの、年老いた自分を受け入れ、ジタバタすることなく自由な世界に旅立つ姿が、自分の持つ"死"に対するイメージに、新たな選択肢を与えてくれたように思います。
実は、この絵本は、ずいぶん長く私の本棚に眠っていました。
記憶は朧気ですが、たぶん、私が物心つく前に母が買い与えたもので、当時の私には全く内容が理解できず、本棚にしまっていたのです。
もう一度この絵本を開いたのは、高校生になってから。
じいちゃんの三回忌が終わり、しばらく経った頃でした。
二度目に読んだこのときのことを、今でも鮮明に覚えています。
高校生で絵本を読んだのはこの一度きりでしたが、小さかった自分には全く理解できなかったものが、今の自分にはこんなにも心に響くものなのだと。
わすれられない体験でした。
少しむずかしい内容の絵本だけれど、今はわからなくても、大きくなって本棚から取り出したとき、きっと大事だと思える一冊になるはずです。
自分も、まわりの人に"わすれられないおくりもの"をプレゼントできる人間でいたい。
もしかすると、今は本を届けるというかたちで、それをしようとしているのかな。
いつか、自分の中に"わすれられないおくりもの"が見つけられるといいなと思います。
アナグマのように。
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- TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
- 1983年大阪生まれ。5年前に関東へ嫁いできました。2022年3月30日オープンのTSUTAYA BOOKSTORE 下北沢に出向中。おいしいカレー屋さんをたくさん見つけるのが、今から楽しみです。