『『その他の外国文学』の翻訳者』白水社編集部

●今回の書評担当者●八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実

  • 「その他の外国文学」の翻訳者
  • 『「その他の外国文学」の翻訳者』
    白水社編集部
    白水社
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 なにか自分に残ることがしたいと思いたって通い始めた語学学校。こちらにも以前記したが、11月の1か月間で文字の基本を集中して教わり、絶対読めないと思っていた文字が少しずつ読めるようになったのが楽しくなり、今年の1月から本格的に初級Ⅰを習い始めている。そこから2か月たった今、日本語との文法や表現方法の違いに四苦八苦しながらも、自己紹介と簡単な会話ができるようになった。先生はネイティブの方で、高校時代京都に遊びに来る機会があり、そこで日本が大好きになったそうだ。3か月間集中して日本語を勉強し、日本の大学に留学した。3か月一生懸命やればある程度話せるようになりますよと、ご自身の経験と共に鼓舞してくれているが、いきなり京都の大学に留学してしまったため、イントネーションや語尾の変化の違いが勉強したものと違い、最初全くわからなかったけどねと笑いながら話してくれた。

 独学と違い、文化や生活の違いを生で直接聞けるところも語学学校に通う楽しさの一つ。授業中の30分くらいは教科書にないその国の歴史や文化、政治や流行りのもののことなど雑談をしている。自分が授業の歴史で習って感じていたものとの違いを知り、先生を通じてその国をとても好きになっている。

 担当が文芸書なので今まで多くの海外文学を扱ってきたが、いま習っている国の文学をしっかりと読んだことがなかった。小説や詩などを読んでみたいと思い棚をみていたら、先日出た新刊が目に入り購入した。「『その他の外国文学』の翻訳者」(白水社)である。

『その他の外国文学』とは書店などでいわゆる英米文学やフランス文学、アジア文学など大きな分類に入らず、その他でまとめられてしまうこともある言語や文学とのこと。そこではヘブライ語、チベット語、ベンガル語、マヤ語、ノルウェー語、バスク語、タイ語、ポルトガル語、チェコ語と9人の翻訳者の方がどのようにしてその言語を知り、習得をしてその国の文学を翻訳にするにいたったのか、さらにはその国の文化を知るための本やおすすめの文学作品が書かれている。中には言語を習得するための辞書や教科書などがなく、海外にカリキュラムがあると知ってそこに飛んでいく人や、自分で資料を調べ文法をまとめ上げた方などもおり、そのような方がいることでいまこの日本でその国の文学が翻訳され読めることの貴重さを知ることができる。歴史上公的に使用が禁止されていた時期もあった言語もあり、その国の言語を習得するということは、その国の歴史をも知ることでもあった。

『あまりなじみがないからこそ、訳す意味があると思っています。知らないことを知るのはそれだけで意味があると思います』『外国文学を読むって、その土地に根差した価値観みたいなものをじかに知ることができる。その体験自体がすごく重要かなと思います』『いろいろな外国文学が訳されれば、いろいろな物語、世界の捉え方が増える』──

 9人の翻訳者の方々が語ってくれたことを読み、様々な国の文学を読むことでその国の背景や根底を流れるものを知ることができ、理解できることも多くなり、想像力も働き他人にも優しくなれるのではないかと思った。知らないということが恐怖に変わることもあるからだ。

 国ごとにおすすめしてくださっている作品もどれも読んでみたくなるものばかり。今後の楽しみが増えた。

 今私が習っている初級Ⅰは来月4月でいったん授業が終了する。次の4か月も初級Ⅱとして継続するつもりだ。先生の国にもいつか行ってみたいし、できたらその国の書店でいろいろな作品を原書で購入してみたいと思う。そのためにはこの9人の翻訳者の方々のように情熱をもって言葉を習得したいと思う。

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八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
サガンと萩尾望都好きの母の影響で、幼少期から本に囲まれすくすく育つ。読書は雑食。読書以外の趣味は見仏と音楽鑑賞、ライブ参戦。東大寺法華堂と阿倍文殊院が好き。いつか見仏記のお二人にばったり境内で出会うのが夢。