『こんとあき』林明子
●今回の書評担当者●TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
いらっしゃいませ。
まいど。礒部です。
さて。1年間、毎月1冊ずつご紹介してきましたが、いよいよ今回で最後となりました。
ここでは色々なジャンルの本を紹介したいと思っていたものの、振り返ってみると絵本が多かったですよね。ちゃんと気付いていたのですが、やめられなくて(笑)
なので、もうここは開き直って大好きな絵本を。
『こんとあき』林明子(福音館書店)。
この絵本は、ぬいぐるみの"こん"のほころびを直してもらうため、"あき"と一緒に、おばあちゃんのところまで旅行するお話です。
この絵本の中で私が好きなシーンを、ご紹介させてください。
電車に乗って、お腹がすいたこんとあき。
停車時間5分のあいだに、こんはおいしいお弁当を大急ぎで買いにいきました。
いそげいそげ。
ところが、こんが戻ってきません。
とうとう発車の時刻。
あきは、たまたま通りかかった車掌さんの前で泣き出してしまいます。
しかし、こんを目撃していた、車掌さん。
こんがドアのところにいると教えてくれました。
あきが行ってみると、そこには、ドアにしっぽを挟まれ、お弁当をふたつ抱えたこんの姿が。
この一連のシーン...
あきが不安そうに待つ様子(電車の窓にほっぺをくっつけてこんを探しています)、泣き出してしまうあきのしぐさ、健気にしっぽを挟まれたままお弁当を抱える、こん。
もう、このどれもが愛らしくて愛らしくて、たまらんのです。
しっぽを挟まれたままのこんの表情が、本当になんとも言えません。
ぐっと堪えて踏ん張る背中と、うるっと一点をみつめて耐えているつぶらな瞳。
これはぜひ皆さんに見せながら、語りたい。
実際にお見せしながら語ることができないのが、とってももどかしいです。
そして、そのあとしっぽを挟まれたまま、ふたりでその場でお弁当を食べたり(あきがこんのそばを離れないところが、愛らしさ倍増)、それを見つけた車掌さんが怒らずにしっぽに包帯を巻いてくれるシーンなんかも、とてもとても好きです。
なぜ林さんの絵本が好きなのか、突き詰めて考えてみると、林さんの絵のぬくもりもさることながら、誠実につくられた絵本だと感じるからなのだと思います。
私が絵本を紹介したくなる理由。
世の中に出版されている絵本には、ものすごく色んな種類の形や大きさの版型があって、色んな手触りのもので作られているものがあります。
紙だけじゃなくて、ビニールや布。そして、中には小さな子供が口に入れても害のないインクや糊で作られている絵本があります。
赤ちゃん絵本には、危なくないように、角が丸く加工されているものが多いですよね。
こうして誠実につくられたものには、人のやさしさや思いやりを伝える力があるのではないかと思っています。
触れてみて感じることができるぬくもりが、そこにはある。
そんな素敵な本を、これからの未来を生きる子供たちへ、そして大人たちにも届けたいと思います。
では、横丁カフェはここまで。
今度は、自分のお店で、皆さんをお待ちしております。
ありがとうございました。
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- TSUTAYA BOOKSTORE 下北沢 礒部ゆきえ
- 1983年大阪生まれ。5年前に関東へ嫁いできました。2022年3月30日オープンのTSUTAYA BOOKSTORE 下北沢に出向中。おいしいカレー屋さんをたくさん見つけるのが、今から楽しみです。