『月夜のグルメ』舞城王太郎・原案/奥西チエ・漫画

●今回の書評担当者●丸善お茶の水店 勝間準

「ごっこ」という言葉を僕の年齢で使うのは恥ずかしいけれど、僕はよく「孤独のグルメごっこ」をやる。休みの日にうんとお腹を空かして一人で食べ物屋(今まで入ったことのないお店)に入って、井之頭五郎のように食べまくる、ただそれだけなのだがすごく楽しい。ただし、これは結構やっている人は多いのでは?とも思う。

 そんな僕の休日のストレス発散方法を書いたところでお知らせです。急なことですが今回をもって僕の出番は終わってしまいます。ですが、きっと第二、第三の食いしん坊書店員が現れ、世の中のグルメ漫画やコミックエッセイを皆様に紹介してくれるはずなのでご心配なく。

 では、僕が最後に紹介する食漫画はこちら『月夜のグルメ』。舞城王太郎さん原案、漫画は奥西チエさん。ここで、うん?となった方はいませんか? そうです、あの舞城王太郎さんが関わった食漫画なのです。さらにはこの漫画の絵は全て鉛筆描き、鉛筆だけでここまで食べ物を美味しそうに描けるものなのか? 読んだ人はきっとそう思うはず。では、ここで気になる内容を少しだけ。

 父がのこした手帳に導かれ、父が辿った道、そして味わった料理を主人公の朔良(さくら)が体験する。

 それぞれのお店で父がすすめる料理とお酒を堪能し、父の書き残した料理の感想に自分の感じたことを書き足していくその描写に心温まる。

 父とは一緒にお店には行けなかったけど、父の思い出に触れ、同じ経験をすることによって彼女は少しずつ知らない世界を経験し、成長していく。その姿に我が子の未来の姿と重なって胸がジーンとした。

 そして何よりも僕にとって憧れの塊のような漫画だ。

 何故なら朔良のように一人酒をする姿はお酒が全く飲めない僕にとっては非常に格好良くみえて、憧れる。若い頃はいつかお酒が飲めるようになってこんなことができると思っていたけれど、実際はお酒が飲めないから一人で居酒屋に入る勇気すらない。

 特に作中にでてきた「オムライスはビールに合う」と描かれており、その食べ合わせを試してみたい。その為にはお酒が飲めるようになり、居酒屋で一人酒ができねばと思ってはいるが、正直なところそんな未来はこない気がする。

 今後どこかで皆さんにお会いできたなら僕が一人酒をできたかどうかの結果を報告させていただきたい。

 それでは、今までありがとうございました。そして、ごちそうさまでした。

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丸善お茶の水店 勝間準
丸善お茶の水店 勝間準
1981年大阪市内の中華料理屋の息子として生まれる。新卒時に入社したスーパーを辞めた後なんとなく働き始めた書店で本を読む楽しさ、売る楽しさを知る。コミックエッセイ、食マンガ、食小説、食エッセイ大好き書店員。生まれて初めて買った本は『ミスター味っ子』。この機会に美味しい本を紹介したいです。それではいただきます!!