『金魚 いろ×かたち謎解き図鑑』大森義裕
●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美
先日、ノンフィクション本大賞の受賞式があった。『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)で受賞された川内有緒さんのスピーチがとても素晴らしかった。人との出会いは、効能なんか期待しなくても刺激と影響を与えるものだ。書籍だってそうだと思う。
私の働く書店は、もともと専門書をメインにしていたせいか、開店以来長い間「ノンフィクション」という棚が充実していなかった。理由はフィクション以外はノンフィクションになるので、その膨大な書物はそれぞれのジャンルに振り分けていたから。
理工書に異動になって、フィクション以外の書籍がこんなにたくさん刊行されているのだと日々驚いている。
今回紹介するのは『金魚 いろ×かたち 謎解き図鑑 どうしてデメキンやランチュウみたいになるの??』大森義裕著(化学同人)だ。専門書や実用書を見ていて思うのは、タイトルが長いということ。「実用」するものなのでなるたけ内容を誠実にわかり易く表記しているからだろう。
著者の大森義裕さんは長浜バイオ大学フロンティアバイオサイエンス学科教授で、2019年に金魚の全ゲノム配列の解読に世界で初めて成功した人だ。
金魚は、体形や体色、尾びれのかたち一つをとっても様々な種類があって、今も新しい品種が生み出されている。なぜこんなことが可能なのか。なぜなら金魚は他の魚類に比べて約2倍の遺伝子をもっていて、普通なら死んでしまうような遺伝子の変異が生じても、奇形として生き残りやすいからだそうだ。
たしかにデメキンや頂天眼、水泡眼、ピンポンパールなど、金魚に興味がなければ異様な姿をしていると思うかもしれない。私の好きな丸っこい金魚のシルエットは背骨をつくる遺伝子の変異によって通常よりより背骨が短くなったことが理由だそう。
本書ではまず、体形や尾びれなどパーツごとの特徴と遺伝子型が図になって説明されていて、実際の金魚の品種がどの特徴と遺伝子型の組み合わせなのか分かるようになっている。「1」ページにつき1種類が写真付きで解説されているので、金魚図鑑として眺めるのも楽しい。現在流通している金魚は200種類ほどで、変異種を組み合わせると理論上は2万種類以上が可能らしい。
さらに、ゲノム編集や別の生物の遺伝子を入れる方法で新たな品種の可能性はまだまだあるという。実際にクラゲやサンゴ由来の色や光る遺伝子を導入した熱帯魚がつくられているが、遺伝子組み換え生物になるので国内の一般家庭での飼育はできない。ゲノム編集や遺伝子組み換えの是非も含め身近な金魚から色々広がる一冊だ。
- 『無の国の門』サマル・ヤズベク (2022年11月3日更新)
- 『王朝奇談集』須永朝彦 (2022年10月6日更新)
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- ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美
- 東京生まれ。2001年ジュンク堂書店に入社。自分は読書好きだと思っていたが、上司に読書の手引きをして貰い、読んでない本の多さに愕然とする。以来読書傾向でも自分探し中。この夏文芸書から理工書担当へ異動し、更に「本」の多種多様さを実感する日々。