『パンクの系譜学』川上幸之介

●今回の書評担当者●未来屋書店宇品店 河野寛子

  • EVOL (イーヴォー) 1 (ビームコミックス)
  • 『EVOL (イーヴォー) 1 (ビームコミックス)』
    カネコ アツシ
    KADOKAWA
    836円(税込)
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 パンクといえば激しい音楽とファッション、反体制の主張や象徴のマークやデザインが思い浮かぶ。 『パンクの系譜学』を読むと、パンクに熱をあげ支えてきた文化の絡みは想像以上だった。そもそもパンクとは、抵抗から生まれた思想、社会運動、芸術までも含んだ生き方をいう。

 中でもジン(小冊子)が各時代のパンクスの活動の中で、常に発行され続けたのをここで知る人もいるはずだ。ミュージシャンの他に、アナキストや記者、芸術家たちは言葉やビジュアルを使って反発を表現し、今のパンクを 築きあげてきた。

 しかしパンクの持つ怒りについてわからないものは多い。何に憤り不満を抱えているのか。単純にカッコイイだけでは駄目なのか。こんな感覚を持つ人に本書は打ってつけだ。

 パンクの生まれるところには、その手前に必ず"抵抗"がある。いつ抵抗が芽ばえ、今まで残ってこれたのか。『パンクの系譜学』ではパンクの周辺から発生要因を探り、マニアでなくとも民衆であれば興味、関心を寄せる内容となっている。

 まずパンクは制圧や疎外によって生まれた抵抗から発生する。本書で語られる"黒い歴史"では、奴隷という境遇から彼らの抵抗を説明している。

 新たな土地に順応すべく、キリスト教に改宗した彼らは自由に出歩くことを禁止されていた。そこで白人たちの祈りの形を見よう見まねで覚え、やがてリズム主体の西アフリカスタイルで秘かに独自の讃美歌を作り出した。こうした讃美歌や労働歌の自由への渇望はやがてブルース、ロック、ガレージ、フォークと、その後の音楽シーンに続いてゆく。

 奴隷制廃止により、黒人たちの意識に「黒人=不運」「人種差別=悪」という新たな視点が自由と共にここで備わったのだという。「気づかない方が幸せだった」という時は、どれだけ事が小さかろうが後悔や呪いが生まれる瞬間だ。

 抑圧と疎外は、アメリカでは中心部と郊外の生活エリアで可視化され、イギリスでは階級社会の階層で生まれながらに自覚するしかなかった。こうした抵抗は、怒りの先は違えど世界各地で生まれた。それはインドネシア、ミャンマー、そして日本と、アジアにまでパンクシーンとして起こってきた。

 抵抗が発露し表現した時をパンクとするなら、今、抵抗はしているが表現しきれていない事が結構あるんじゃないだろうか。

 そこでもう一冊、併せて読んで欲しいのが漫画『EVOL(イーヴォー)』(カネコアツシ著/KADOKAWA)だ。『パンクの系譜学』の内容をそのまま漫画で説明できる正義と悪の結社の物語だ。

 アカリがパンクに芽ばえる瞬間は、黒人の新たな視点が備わる瞬間でもあるし、主人公達の能力の有無は、血統や格差の階級とエリアにも重なる。他にもスケートボードや性問題、象徴やジン由来のデザインなどは洒落ていて、二冊同時に読むと更に面白さも膨れ上がる。

 最後に、二冊買いをごり押ししつつ、パンクの芽ばえがどこかで起こることをやんわりと祈りつつ、静かに書店で吠えています "Oi!" 

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未来屋書店宇品店 河野寛子
未来屋書店宇品店 河野寛子
広島生まれ。本から遠い生活を送っていたところ、急遽必要にかられ本に触れたことを機に書店に入門。気になる書籍であればジャンル枠なく手にとります。発掘気質であることを一年前に気づかされ、今後ともデパ地下読書をコツコツ重ねてゆく所存です。/古本担当の後実用書担当・エンド企画等