『赤い蝋燭と人魚』小川未明 文、酒井駒子 絵

●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子

 ふと見た時計の時間や偶然すれ違った車のナンバープレートが自分の誕生日の日付と同じ並びだったら、なんだか嬉しくなって運命感じちゃう岡本書店恵庭店の南です。
 今月も読んでくださりありがとうございます。

 さて皆様、大人の絵本というものの存在をご存知でしょうか?

 有名なところでは数年前に話題になったエドワード・ゴーリー氏の絵本などが挙げられるでしょうか。
 今回は私が初めて買った大人の絵本、『赤い蝋燭と人魚』(偕成社)についてお話ししたいと思います。

 元々絵本は好きで、会社員時代(遠い昔)に給料日には1ヶ月頑張ったご褒美で絵本を1冊買うという自分への謎プレゼント企画を実行してました。
 その時に出会った絵本です。
 表紙の悲しげで寂しげで儚げな女の子の居住まいに心臓をドキュンされてしまったのです。
 ぐわっと本を掴んで他の絵本には目もくれず一目散にレジへGO。お持ち帰りしたのです。

 文は小川未明さん、絵は酒井駒子さん。
 夢のコラボ。
 物語は人間に育てられた人魚の女の子が見せ物として香具師に売られてしまう。というなんとも悲しい童話です。

 人魚のお母さんは北の海に独りで暮らしていましたが、娘にはどうにかして幸せな暮らしをさせてやりたいと願い、人間の優しさや愛情深さを信じて娘を託します。
 母の子を思う心は人間だろうと人魚だろうと変わらないのです。
 というか、この物語の中では人魚こそが理想の人間として描かれているような気がします。
 子を思うが故に人間に託し、裏切られて復讐する母、育ててくれた恩返しをしようとしたり、捨てられてもまだ希望を捨てない人魚の娘。
 反して、邪な人間として描かれているのは老夫婦と香具師。
 自分達の都合の良いように妄言を信じて金と引き換えに娘を売った老夫婦、珍しいものを手に入れようと人を騙す香具師。
 老夫婦は最初は人魚の娘を大事に育てていたのに、人魚が絵を描いた蝋燭が売れに売れて繁盛したことで欲が芽生え、一度芽生えた欲は金を儲けるほどにどんどん大きくなって、とうとう大金と引き換えに人魚の娘を売ってしまう。
 もっともっとと求めてしまうのは人間の性かもしれませんが、求めすぎると破滅に至るものです。
 この老夫婦にもそれが訪れます。

 さて、あれだけ幸せを願った娘を結局不幸にしてしまった人魚のお母さんの怒り悲しみは相当なものでしょう。
 売られた娘と香具師を乗せた船が南の国に向かう途中で大きな嵐に遭ってしまったのです。
 この嵐は母が起こしたのでしょうか?
 そして、人魚の娘はどうなったのでしょうか?
 海から離れ人間に育てられた人魚の娘が、嵐の海で無事にいられたはずはない。

 ですが、その後、山の上のお宮に赤い蝋燭が灯されると嵐がやってくるという記述があります。
 その赤い蝋燭は人魚のお母さんが塗っているのかもしれないけれど、もしかしたら人魚の娘が生きていてそして娘が塗っているのかもしれません。
 その可能性は低いかもしれませんが、そうであって欲しいと願ってしまいます。
 どこかに救いを求めてしまうのもやっぱり人間の性なのです。

« 前のページ | 次のページ »

岡本書店恵庭店 南聡子
岡本書店恵庭店 南聡子
大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。