『みんな蛍を殺したかった』木爾チレン
●今回の書評担当者●山下書店世田谷店 漆原香織
2022/08/25
From:kaori urushihara
Re:運命の出会いだったよ
初めての出会いは、NetGalleyだった。
タイトルと書影に惹かれ、読んでみようと思った。
だが日々の忙しさに後回しになってしまっていた。気づいたら閲覧期限最終日を迎えていた。
急いで読み始め、その美しい世界にどっぷり浸かり、読み終わった瞬間、『もう1回!』と再読を始めたのは午前2時半。翌日も朝から出勤だったが、読まずにはいられなかった。
さて今回、ご紹介させていただくのは、木爾チレンさんの『みんな蛍を殺したかった』です。
タイトルから心をくすぐられ、装画の美しさにノックアウト。
私自身オタク純度100%なので、基本好きな作家さんの作品を追っていく。そのため、なかなか新しい扉(作家)が開かれない私の、一推し激推し作家さんとの出会いだった。
きっと、この作品・この作家さんに出会うために私は書店員になったのだと言っても過言ではない。
だって、読了後すぐ再読開始したくなるなんて初体験をさせられてしまったのだもの...。
もちろん、読了後、伏線探しのために部分部分を再読することは今までもあった。しかしこの作品は、もう一度この世界に帰りたいと思い最初から通しで再読を始めたのだ。ちなみに、再読の読了は6時、9時からの勤務は辛かった...。そして、出勤して即購入した。それから何度も読んだ。また今回この原稿を書くという理由を手に入れ、積読している書籍を押し除け、再度読む時間を取れ幸せいっぱいである。
さて、気になるあらすじはと言うと...
京都のとある女子高に2次元から来たのかと疑うほど美人な蛍が転校してくる。なぜか蛍は自分もオタクだと言い、雪、桜、栞というオタク3人の部員しかいない名ばかりの生物部に入部し、それぞれの部員と関わりを深めていく...。スクールカースト底辺を自覚していた栞たちは、なぜ蛍が自分たちと仲良くしようとするのか訝りながらも、蛍のようになりたいという思いと、蛍と一緒にいることで周囲の反応が変わることに気づき、蛍と共に過ごすようになる。それが更なる不幸に繋がるとも知らずに...。
誰も幸せにならない物語であるのに、なぜか読了感はとても良いと感じる。ストンと心に落ちると言えば良いのだろうか...。
それとも、自分の中の決して他人には見せてはいけない黒い部分をすべて認められたと思えるからだろうか。
冒頭、栞の父親が栞に小説を書くことを勧めるシーンで、「同じ気持ちの読者(だれか)を救えるかもしれない」という台詞がある。
私は、この物語に救われた。
だから、今、自分が不幸だと感じている人にぜひ読んでもらいたい。もちろん不幸と感じていない人にもお勧めです!
- 『デキる猫は今日も憂鬱』山田ヒツジ (2022年7月28日更新)
- 『妖狐×僕SS』藤原ここあ (2022年6月23日更新)
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- 山下書店世田谷店 漆原香織
- 『推し活』という言葉が出来る◯十年前より、推し活人生を送っている人。趣味は読書と旅行(推し活は生き様なので趣味ではない)。旅行好きが高じてここ約10年ほど海外添乗員を生業にしていたが、コロナにより強制終了。山下書店世田谷店に拾っていただき本に埋もれる幸せな日々の現在に至る。文芸書とコミックを担当。