『都会のラクダ』渋谷龍太

●今回の書評担当者●明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花

 趣味趣向は人それぞれあるが、私は自他共に認める多趣味というブッフェスタイルで生きており趣味に順位をつけるような無粋なことはしたくないが、音楽の中でSUPERBEAVERというバンドの音楽は毎日聴くほど大好きだ。夫と喧嘩して落ち込んだ(怒り狂った)日も、激務確定の職場に出勤する日も自分を慰め奮い立たせてくれる彼らの音楽に救われた回数は数えきれない。

 コロナ禍で払い戻ししたライブや舞台のチケットの数は思い出したくもないけど、あの日ステージ上で強烈なライトを浴びながら歌いだした彼の姿を私は一生忘れることはないし一生忘れたくないと強く思う。

 今回紹介させていただくのは彼らのバンドとしての自伝的小説『都会のラクダ』。

 ボーカルの渋谷龍太氏によるバンドの結成から現在までの軌跡が軽快な文章で綴られており、彼らのファンとしては本当に彼らが今現在活躍してくれていることに感謝し、彼らをよく知らなかった人たちには彼らの音楽と共にこちらも機会があれば一読してもらえたらファン冥利に尽きる。

 高校時代になんとなく始めたバンドがメジャーデビュー、と聞いたらとても華やかな成功者としての姿を思い浮かべてしまうが、実際の彼らは所属レーベルを一度離れて0から音楽と真剣に誠実に向き合い一歩ずつ前へ進んで行き様々な経験を積み重ねて同レーベルとメジャー再契約を果たした。メジャー落ちしたバンド、なんて不名誉なレッテルなんて彼らには関係ない。ただただ人として誠実に、バンドマンとして音楽に対して真剣に取り組んできた彼らだからこそ、彼らの音楽は聴く人の心を激しく揺さぶる。彼らの音楽の全ての作詞作曲を担っているのがギターの柳沢氏なのだが、一曲一曲彼ら全員の想いが乗せられており、その理由やルーツをより味わえる1つがこの作品である。

 さらっと年表にしたら見る人間からしたら簡単なプロフィールなのかもしれない。私も彼らを知るまでは同じように感じることもあったと思う。当時の彼らの苦労などに対して失礼になるかもしれないが、私は0の無敵さに心底しびれた。0で真っ白な状態はドンドン詰めていくだけだし、白は何色にでもなれるしたとえモノクロだったとしてもどこまでも極彩色になれる楽しみがある。今がピークではなく、まだまだこれからどんな色にもなれる、もっともっと見たことのない景色も感じたことのない感動も彼らとなら一緒に体験できると私は彼らの姿を見るたびにワクワクが止まらなくなる。

 一進一退な日常が続く中で、人それぞれ自分にとっての最優先事項は様々だと思う。音楽を聴いて「明日も頑張ろう」はあっても「誰かを大切にしよう」と思わせてくれる彼らの音楽はきっと誰かにとっての大きな突破口となり、大きな声でアイラブユーを贈りたい愛しい人に気付かせてくれ、何気ない日が美しい日だと思わせてくれる最前線で頑張る彼らの音楽が誰かに届くきっかけとなる一冊となることを願っている。

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明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
山口県岩国市育ち。13日の金曜日生まれの宿命かホラー好き、読むのはお昼派。ジャンル問わず気になった作品は何でも読みたい欲張り体質。本を読む時に相関図を書くのが密かなマイブーム。