『わたしの武器を仕込んだら』オガワサラ

●今回の書評担当者●明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花

  • わたしの武器を仕込んだら(1) (comic POOL)
  • 『わたしの武器を仕込んだら(1) (comic POOL)』
    オガワ サラ
    一迅社
    990円(税込)
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 社会人デビュー時、今とは違う業種に就いていた。勤務初日に最初に取った電話が「お前の会社に火をつけるぞ!!」というエネルギーに満ち溢れた内容で、私はこれから何十年こんな無法地帯の社会で生き抜いていくのかと震えたし、その数日後に完全に流れ弾な案件に巻き込まれ「若い子が一緒に謝ってくれたら相手もあんまり怒らないから」という当時の上司から生贄に捧げられた時の経験は今でも私の中でおもしろい思い出として強く心に残っている。社会って理不尽で満ち溢れたところで疲れることもありますよね。

 大人になってよかったと思うのは、自分が汗水かいて稼いだお金で自分の機嫌が取れることだと思っている。ちょっとした買い物も、年間通して悩みに悩んでの奮発した買い物も先月頑張った私からのお賃金という名の贈り物だ。

 自称ポジティブウーマンな私が今回紹介させていただきたいのがオガワサラさん著『わたしの武器を仕込んだら』(一迅社)。初めて読んだときにすごく共感したし、何だか自分のポジティブさを肯定してもらえた気さえした。

 主人公の叶英は大人になるにつれて自分の好きなものを素直にかわいいと言えなくなっていたが、新入社員のイマドキな後輩の自分の好きなものを大事にできる姿を羨ましくも思いながら本来自分が好きなのに手にすることのなかった可愛い下着をお酒に酔った勢いで購入する。初めて身に纏った憧れのデザインの下着を着た自分を鏡で見た叶英の姿が、自分でも知らなかった新しい扉を開いた瞬間で一番好きなシーンだ。

 理不尽なクレーム客に対応をしながらも、目まぐるしい業務をこなしながらも「こちとら世界一かわいい下着を着用しているので...」と魔法の言葉のように心の中で繰り返す叶英に激しく同意する。好きなものを纏うことによりストレスフリーで過ごせるだけでなく、自分に少しだけ素直になれた叶英の姿は全ての働く人にだけでなく、厳しい社会の中で戦う全ての人に共感できるはずだ。

 叶英の場合は可愛い下着が武器だけど、頑張る自分の装備に1つ好きを忍ばせることで少しでも心強く思えることがある。嫌なことがあった時も何か1つ自分の武器を持つことで心のHPは多少回復することもある。私は好きなコスメを使ってメイクをし、好きなアクセサリーをつけてると自分が無敵の勇者になったような気分になる。目まぐるしくて理不尽な社会に立ち向かうのに、一番の最強装備は自分の好きなものって最高に素敵なことだと思うから今日も私は自分を奮い立たせるアイテムとして好きなものに守ってもらっている。

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明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
山口県岩国市育ち。13日の金曜日生まれの宿命かホラー好き、読むのはお昼派。ジャンル問わず気になった作品は何でも読みたい欲張り体質。本を読む時に相関図を書くのが密かなマイブーム。