『まるごと 腐女子のつづ井さん』つづ井

●今回の書評担当者●明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花

  • まるごと 腐女子のつづ井さん (文春文庫)
  • 『まるごと 腐女子のつづ井さん (文春文庫)』
    つづ井
    文藝春秋
    990円(税込)
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 親友、なんていう言葉では少々収まりが悪い友人がいる。彼女とは気付けば30年以上の付き合いになるので『幼馴染』という言葉がしっくりくる。もしも私がこの先の人生で歴史的何かを成し遂げる、もしくは世紀の大犯罪を起こしたら彼女に聞けば私のことは何でも知っているから家族よりも先に彼女の元を訪ねることをおすすめする。そんな生き証人みたいな友人がいることが私の人生の財産の1つである。

 今回紹介させていただくのは全国の好きを謳歌している人すべてに一度は読んでいただきたい、つづ井さん著『まるごと 腐女子のつづ井さん』(文春文庫)。所謂オタクなつづ井さんと愉快なご友人たちとの熱量マグマ級のオタクライフをのぞき見できる。しかもこの1冊、既刊のコミックス3冊がギュッと1冊の文庫本にまとめられたスペシャルナイスな1冊なのである。発売された当時、あまりの太っ腹具合に息をするよりも早くお会計に走った。

 つづ井さんたちの間でたびたび開催される選手権の中でも一番好きなのは『恋人がいそうなクリスマス選手権』という彼氏に貰ったプレゼントを自慢し合うという設定で各々プレゼントを用意し順々に架空の彼氏とのエピソードを披露していくクリスマス会はぜひ読んでもらいたい。これだけ聞くと少なからず地獄絵図を想像するかもしれないが、全力で楽しんでいる彼女たちの姿に羨ましさを感じずにはいられない。

 そう、彼女たちはいつでも全力で好きを謳歌しているのだ。好きなことを一緒に楽しめる友人がいるということはとても幸せなことだと実感させてくれる。読み返すたびに冒頭で紹介した幼馴染に会いたくなるのだ。私達もオタクの端くれなので、会えば近いことをしている。

 以前お互いが好きな作品の各キャラクターをイメージした指輪が販売された時に推しキャラクターとの架空の結婚披露宴の座席表を作ろうとしたり、彼女の推しの誕生日会を我が家で開催した時はこのまま住み着く気かと疑うレベルの大量の推しグッズを持ってやってきたり、周りから見ればいい年をしてと思われるかもしれないが、全力で好きというエネルギーを放出し合ったり、くだらないことで笑い合えるのは最高の幸せだ。

 そういえば彼女との唯一の喧嘩は幼稚園の頃、当時大流行していた月に代わって悪者退治をしてくれる作品の主人公が持っているステッキを彼女が買ってもらった少し後に買って貰った私は同じものを持っていることが嬉しくてそれを持って遊びに行ったところ、自分のステッキを取られたと勘違いした彼女とステッキを引っ張りあいになり、結果ステッキが壊れてしまった。自分のステッキを奪われ破壊されたと泣く彼女、自分の所有物だと信じてもらえなかっただけでなく破壊されて泣く私。あれこそ地獄絵図だった。

 出会った日のことを私は忘れてしまったけど、以前彼女から聞いた内容は今と対して変わらなかったので、今回も同じ台詞で誘おう。「おーい、遊ぼうよ!」

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明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
山口県岩国市育ち。13日の金曜日生まれの宿命かホラー好き、読むのはお昼派。ジャンル問わず気になった作品は何でも読みたい欲張り体質。本を読む時に相関図を書くのが密かなマイブーム。