『五匹の子豚』アガサ・クリスティー
●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子
小学生の時、本気で妖怪ポストを探したことがあります。岡本書店恵庭店の南です。
今月も読んでくださりありがとうございます。
ちなみに妖怪ポストに投函しようと思ってたのは、鬼太郎さんへのラブレターでした。
ライバルはユメコ。
さてさて、やってまいりました、満を持してのクリスティー。
そう、今月はアガサ・クリスティーの『五匹の子豚』について書かせていただきます。
アガサ・クリスティーといえば、『そして誰もいなくなった』とか『アクロイド殺し』とか『オリエント急行殺人事件』とかが有名ですね。私も大好きです。素晴らしいトリックに悶絶しました。結末を知っていてもなお、また読みたいと思わせる傑作中の傑作です。
しかし、せっかく書かせていただくのならば、あんまり有名ではなく、なおかつ個性的な作品が良いと思い『五匹の子豚』をチョイスしました。
物語は16年前の殺人事件について調べて欲しいとの依頼から始まります。
芸術家の夫を毒殺したとしてその妻が逮捕され、終身刑に。その後獄中で病死しています。
依頼してきたのはその夫妻の娘であり、事件当時は5歳でした。
娘は母からの手紙を持っており、そこには「私は無実だ」との記述が。
そして探偵のポアロは、事件当時夫妻の館に居合わせた5人の関係者の元を訪ねます。
みなさんも分かりましたね。
この物語は、娘の母が犯人であっても、他に犯人がいたとしても、後味が悪いんです。
そう!!イヤミスなんです!!!!
私がイヤミスというものを認識したのは、かのイヤミスの女王・湊かなえさんの小説でしたが、それよりも前に実はイヤミスを読んでいたとは。
クリスティーがこの『五匹の子豚』を発表したのは1942年。
その当時にこのような小説を書くとは、いやはやミステリーの女王は伊達ではありませんね。
そしてさらに面白いのは、物語の構成にあります。
第一部では、調査の始まりと事件や裁判に関わった人々を訪ねて、その当時の出来事や人物の印象などを聞き、第二部は事件現場に居合わせた5人それぞれの手記、第三部ではその5人と夫妻の娘を集めての調査結果と推理の披露となるのです。
ポアロがやったことといえば、人の話を聞いたことのみ。
マジでこれで謎が解けちゃうの?って思いますが、解けちゃいますよ。ドロドロに。
ポアロは、基本的に灰色の脳細胞だけで事件を解決しちゃうんですが、このお話では特にその傾向が顕著です。
人物そのものに焦点が当てられていて、物的証拠や状況証拠に頼らず、人の心理を辿り事件の真相を探り当てています。その過程が実に見事です。
私が初めてアガサ・クリスティーの本を読んだ時は、翻訳がもっと昔っぽいというか仰々しい感じで訳されていました。
しかし今の本はすごく読みやすくなっていますね!びっくりしました。
昔の小説だからとか、海外の小説だからとかで手が出にくいかもしれませんが、どうぞ騙されたと思って一度読んでみてください。
みなさん、きっと「クリスティーに騙されたーーー!!」ってニンマリしちゃうと思いますよ。
- 『首無の如き祟るもの』三津田信三 (2022年12月15日更新)
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- 岡本書店恵庭店 南聡子
- 大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。