『この闇と光』服部まゆみ

●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子

小学校のスキー学習の日、なぜか家から学校までスキー靴で歩いて行っていた昭和の子供、岡本書店恵庭店の南です。
もちろん帰りもスキー靴です。靴ズレを覚えたのはこの頃かもしれません。
今月も読んでくださりありがとうございます。

今回は服部まゆみさんの『この闇と光』について書かせていただきます。
でも、この本はすんごいトリックがあるのでなかなか書きにくいのです。
なので「まずは読んでください!」と強くお願いしたい次第です。大変申し訳ありません。
読んでからまたこの書評の続きに戻ってきて欲しい!!どうかどうかお願いします。

さて、読んでみてどうでしたでしょうか?
度肝を抜かれませんでしたか?
私は初めてこの小説を読んだ時、雷に打たれたような衝撃を感じました。

なんだ、この物語は!! こんなのアリなのか!?

当時の私はなんの先入観もなく、ちょっとだけ昔のどこか外国の王国のお話だと思って読んでいましたから、中盤以降の天地がひっくり返る様に唖然としたものです。

闇と光、悪と善、虚構と現実、全てが曖昧となって、しまいには反転してしまう。
囚われていたのはお父様といた日々であったはずなのに、解放後の方が疎外感を感じてしまう。
本当の両親に俗物的な印象を持ち、お父様に自身への愛情と価値観の共鳴を感じてしまう。
目が見えるようになってこの世の万物の美しさに驚嘆するがそれも少しずつ色褪せて、結局見えない中で想像した美への憧れを超えるものはないと気付いてしまう。
なんて虚しい物語であろうか。光そのものが美しいのではなく、闇の中での光こそが最高に美しいとは。

この小説を読んだ時、私はグレーゾーンというものを意識したことはありませんでした。
良いものは良い、悪いものは悪い、とはっきりしていないと気が済まない性格でした。
だから、この物語の結末が良いのか悪いのか自分で判断するのが難しかった。

ですが、歳を重ね、人生をそれなりに歩んできた今は、ハッピーエンドじゃないけれどこんな結末も良いかなと思えるようになりました。
もちろん主人公の両親にしてみたらたまったもんじゃないでしょうが、主人公はこの先も長い人生を歩いていかなければならない。
自分の人生は自分のもの。たとえ他者の理解を得られなくても、道を選ぶ権利は自分にあるのだと思います。

もちろん、この結末に納得いかない読者の方もたくさんいらっしゃると思います。
悪いことをしたのに罰せられないのはおかしいし、主人公は洗脳されているのではないかと思ってしまう箇所もありますもの。
しかし、それもまたこの小説の面白いところだと思うのです。

それぞれに解釈が違って、それぞれに与える影響が違う、そこが素晴らしい作品だなと思う所以なのです。
どうぞ、数年経ってからまた読み返してみてください。以前とは異なる感想を抱くかもしれません。
多様性が叫ばれる現代にこそ是非読んでほしい名作です。

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岡本書店恵庭店 南聡子
岡本書店恵庭店 南聡子
大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。