『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』仁平綾

●今回の書評担当者●明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花

  • ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由 (だいわ文庫)
  • 『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由 (だいわ文庫)』
    仁平 綾
    大和書房
    858円(税込)
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 亡くなった祖父はトンネルを造る仕事をしていた。
 全国様々な場所で仕事をする祖父が帰って来るのは盆と正月ぐらいなので、学校が長期の休みに入ると同時に祖父が生活をする会社の社員寮に遊びに行っていた。祖母はまかないさんとして社員寮の掃除や多いときは40人ほどの屈強な社員たちの胃袋を満たし、家族の元を離れて暮らすみんなのお母さんでもあった。全国様々なところから人が集まったその社員寮に遊びに行くと聞いたことのない方言シャワーを連日連夜たっぷり浴びた私は休み明けには全国ミックスな言葉で話すようになり、帰宅するとイントネーションのデトックスに苦労した。まるで海外旅行のようだなと今になって思い出すが、私は海外に1度も行ったことがない。

 海外未経験の私が今回紹介させていただくのは、仁平綾さんの『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』。ミーハーな私はニューヨークという響きだけでワクワクしてくる。テレビなどでしか見たことのないニューヨークの街並みはただただお洒落で何時間でも眺めていられるし、そこに暮らす人は刺激を感じる日々で毎日自分自身をアップデートできているのかと羨ましいなぁ、なんて思っていた私のためにあるような本じゃないかと店頭で見つけた時にすぐに飛びつき、毎度のことながらレジまで直行便だった。

 仁平さんの実際に体験したニューヨークでの生活を通してのニューヨークの魅力だけでなく、人懐っこくて、だいぶおせっかいなニューヨーカーをもっと好きになる。
 確かにアメリカンドリームの象徴のような街ではあるが、なぜニューヨークにこんなにも惹かれるのだろう。古き良き建物と人々がうまく共存する街は最高にかっこいいし、何よりそこで生活する1人1人が『自分』というものをきちんと理解して上手に表現できているのが素晴らしいし、どこか義理人情に溢れたところも大好きだ。

 仁平さんの言葉はとても優しく、日常の中で感じた発見を読み手側にも実際に体験したように気付かせてくれ、広くいようと意識はしている自分の視野がまだまだ小さいことも発見できるけど、決してグィーッと強引に押し広げるのではなく「こんな窓もあるよ」と優しくも導いてくれる気がする。[だれの、どんな色も、美しい]という第6章は特に大好きだ。

 そういえば、あの社員寮ではよく誰かと誰かが様々な意見を全力でぶつけていたけどみんなどこか楽しそうにしていた。なんであなたはそう思うのか、私はこう思う、というような話を誰かが始めたら周りにいた他の人も続々参加して毎回どんちゃん騒ぎだった。
 あそこにいたおじちゃんたちは、私にとっての身近ななんちゃってニューヨーカーだったのかもしれない。

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明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
山口県岩国市育ち。13日の金曜日生まれの宿命かホラー好き、読むのはお昼派。ジャンル問わず気になった作品は何でも読みたい欲張り体質。本を読む時に相関図を書くのが密かなマイブーム。