『Another 2001』綾辻行人

●今回の書評担当者●さわや書店イオンタウン釜石店 坂嶋竜

 綾辻作品を読んでいると、常に少年のイメージが浮かんできます。
 読者を驚かせてやろうという綾辻さんの無邪気さが少年というイメージを産み出していると思うのですが、特に『Another』『Another 2001』に目を向けてみると、その少年は座敷童子の姿をしているように感じられます。

 綾辻作品と座敷童子の繋がりを指摘したのは1996年に法月綸太郎さんが書いた文庫版『黒猫館の殺人』の解説が最初ですが、いつの間にかひとり増えているという座敷童子は、クラスに増えた〝もうひとり〟(そしてそれは誰なのか)という「Another」シリーズの基本設定と繋がります。
 襲いかかる理不尽な運命や不思議な事件と向き合う薄倖の少年。綾辻作品に時たま出てくる、モチーフのひとつです。

 本作でも、主人公の比良塚想は『Another エピソードS』の経験を胸に、3年3組に襲い来る災厄と闘います。
『Another』のときは急な転校生や対策係が風邪で休んだために状況が悪化しましたが(「何が起きているのか」を描いた前作では必然的な展開でした)、本作の対策係は見事な指導力を示し、クラスの真剣度も前作より増しているように思えます。

 しかし――。
 きちんと対策ができなかったために災厄が始まった前作と比べて、できる限りの対策をしたのに災厄が始まった本作の方が絶望は上でしょう。
 思わず応援したくなるほどにけなげな想も知恵を絞り、先達の力を借りながら災厄を止めるため、友人達と奔走します。しかし、2001年の災厄はのちに史上最凶と呼ばれる災厄で――。

 本格ミステリとホラーを融合した本作では、災厄によって多くの人が理不尽な運命に巻き込まれ、残酷な死を迎えます。
 愛に満ちた心温まる物語が読者に生きる希望を与えることがあるように、残酷で血みどろの物語によって救われる読者がいることもまた確かです。
 座敷童子もまた、幸福のみをもたらす存在ではありません。
 立ち去ることで家を没落させることもある座敷童子ですが、たまたま見つけたキノコがたまたま毒キノコで、たまたま使用人を含めみんなで食べ、一家がほぼ全滅した例があります。惨劇をもたらす存在でもあるのです。


『Another』が持つ感染力の高さは「#Anotherなら死んでた」というハッシュタグが一気に広まったことからも自明でしょう。
 不幸な偶然による死が、不自然なほど連鎖してしまう――。
 そんな状況に立ち向かう少年の物語を楽しむひとたちがたくさんいたからこそ、大きなムーブメントになったに違いありません。

 とはいえ、ただ恐怖や残酷さに満ちた物語を産み出せば、それだけで読者に届くというわけでもありません。作品の根底に熱いこだわりとクールな美学があるからこそ、物語を必要とする多くの人々に届いたし、これからも届いていくのです。

 さて。
『Another』の目次には「What?...Why?」「How?...Who?」というように、物語の途中途中で読者が考えるべき疑問詞が道標として示されていました。
『Another 2001』では疑問詞の代わりにイニシャルが並んでおり、そのパートにおける重要人物を示してくれています。その人物名を道標として読み進めれば、袋小路に迷い込むことなくこの長大な物語を最後まで楽しむことができるでしょう。

 しかし、それでも。
 それでも、本作の終盤で、読者は驚きの声を上げるはずです。
 無邪気な座敷童子はすぐ近くにいるのですから。

 最後にひとつ。
 座敷童子と言えば柳田国男の『遠野物語』です。本作を読み終えた方は『遠野物語』の第十八話を読んでみてください。新たな発見があるかもしれません。

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さわや書店イオンタウン釜石店 坂嶋竜
さわや書店イオンタウン釜石店 坂嶋竜
1983年岩手県釜石市生まれ。小学生のとき金田一少年と館シリーズに導かれミステリの道に。大学入学後はミステリー研究会に入り、会長と編集長を務める。くまざわ書店つくば店でアルバイトを始め、大学卒業後もそのまま勤務。震災後、実家に戻るタイミングに合わせたかのようにオープンしたさわや書店イオンタウン釜石店で働き始める。なんやかんやあってメフィスト評論賞法月賞を受賞。