『私はだんだん氷になった』木爾チレン

●今回の書評担当者●山下書店世田谷店 漆原香織

  • 私はだんだん氷になった
  • 『私はだんだん氷になった』
    木爾 チレン,紺野 真弓
    二見書房
    1,870円(税込)
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 今回ご紹介させていただくのは、先月に引き続き木爾チレンさんの作品!『私はだんだん氷になった』です。
 なんと、この作品は昨日(9月21日)発売ホヤホヤ!
 本の雑誌社様より横丁カフェへの参加ご依頼をいただいた時、私みたいなペーペー書店員がそんな大それたことを...と不安があったが、2022年中にチレン先生の新刊が出ることを聞いていたので、『どうしても推したい』という気持ちが勝ち書評を書かせていただくこと決意したのが、今年の春。
 そうしたら、今回まさかの書評公開前日が発売日という絶好のタイミング!
 いや、やはり、私はチレン先生に出会うべくして書店員になったのだ。運命だ!と一人で悦に入ってしまった。
 と、またもやオタク全開ですが、しばしお付き合いくださいませ。

 さて皆さま、何かハマっているもの、推しているものはございますか?
 この『私はだんだん氷になった』(‎二見書房)は推しを持つ全ての人に刺さる作品である。

 日本人女性初エベレスト北東稜ルートでの単独無酸素登頂に挑む主人公・絢城氷織がインタビューを受ける場面から物語が始まる。インタビュアーからの亡き父の無念を受け継いでの挑戦かという質問に、氷織は『それも、もちろんあります』と答える。それも、との答えに再度インタビュアーが他の理由を尋ねる。その問いに『罪を・・・償うためです』と答えた氷織の罪とは...。

 学生時代、氷織はアイドル沼の住人で、彼女の黒歴史が物語の中心になるのだが、複雑に絡み合う登場人物の関係性、前作に続き絶望感に満ち溢れた世界。
 またもや、中毒性のある物語を爆誕させてくださった。てぇてぇ(尊い)...。
 随所に張り巡らされた伏線が、自分の中で紐解かれていく快感。
 一度目は純粋に物語を楽しみ、二度目は人物相関図を書きながら楽しんだ。そして、この原稿を書くために、さらに読む。
 何度読んでも、楽しい。

 自分の中に『黒歴史』があると思っている人にも読んで欲しい。というか、読むべきである!氷織とどっちが深い闇か考察するのも、楽しいかもしれない。

 さらに、推しもいないし、オタクでもないという方にも未知の世界を知る絶好の機会としてお勧めする。
 なぜなら私自身、同担拒否のガチ恋勢な上、猪突猛進型なため本人以外の『なりきり』にハマる世界は知らなかった。そのため、この作品の世界は驚きの連続であり、とても新鮮だった。新しい扉を開くチャンスです!

 ちなみに、『私はだんだん氷になった』には先月ご紹介させていただいた『みんな蛍を殺したかった』の世界が出てくる。どちらを先に読んでも楽しめるので、ぜひ両作品とも読んで、チレンワールドにハマっていただきたい。

 2022年秋、チレン旋風が巻き起こる!!

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山下書店世田谷店 漆原香織
山下書店世田谷店 漆原香織
『推し活』という言葉が出来る◯十年前より、推し活人生を送っている人。趣味は読書と旅行(推し活は生き様なので趣味ではない)。旅行好きが高じてここ約10年ほど海外添乗員を生業にしていたが、コロナにより強制終了。山下書店世田谷店に拾っていただき本に埋もれる幸せな日々の現在に至る。文芸書とコミックを担当。