第245回:まさきとしかさん

作家の読書道 第245回:まさきとしかさん

親子の愛憎、人間の業を二転三転の展開のなかに描きこむストーリーテラー、まさきとしかさん。近年では刑事が主人公のシリーズが大ヒット。ご自身では「ごく普通」という読書経験を通して培ってきたものとは? デビューまでの苦労や、あまりに強烈なので読書遍歴とは関係のない友達連れ去り事件も記事にしました。まさきさんの来し方と魅力的な人柄をご堪能ください。

その3「SF小説を交換する」 (3/10)

  • 人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)
  • 『人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)』
    新一, 星
    新潮社
    605円(税込)
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  • なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)
  • 『なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)』
    直子, 安房
    偕成社
    2,200円(税込)
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  • だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)
  • 『だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)』
    佐藤 さとる,村上 勉
    講談社
    748円(税込)
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――高校生時代にプチヤンキーになったというのが気になりますが、その前に、中学生時代の読書生活を教えてください。

まさき:中学生時代、仲の良い友達がSF小説が好きだったんです。その子は短篇が好きで、眉村卓、筒井康隆、小松左京といった王道の作家たちの短篇集を読んでいて、私にも「読んで」と言って何十冊も貸してくれたんですよ。それを読んでいました。特に眉村卓さんが好きだったかな。
 その友達の発案で、交代でSF小説を書きはじめたんです。そうしたら主人公がタイムスリップする場面で私の順番になったんです。読ませどころですよね。私は、今日が昨日になって、明日が今日になって、つまりタイムスリップした、みたいなことを2行くらいで書いたんです。そうしたら彼女が「タイムスリップのシーンはそういうもんじゃない」と駄目出しして、「私が書き直すから」って。彼女が書き直したものはまあ臨場感ありましたね(笑)。さすがだなって思いました。彼女は勉強もできたんですよ。中学校の時もそこそこできて、同じ高校に行ったら学年トップになっていました。
 他に中学生の時に自分から進んで読んだのは、星新一さん。ショートショートの中にリーダビリティと意外性、知性と品性と風刺が全部含まれているじゃないですか。それにびっくりして、星さんの本を全部読みました。SFだけじゃなくて、製薬会社の社長だった父親のことを書いた『人民は弱し官吏は強し』などの本も読みました。

――交換SF小説以外に創作はしていませんでしたか。

まさき:その頃は詩を書いていました。ペンネームもあったんですよ。「まどか流伊」です。字面が格好いいし響きもいいと思って決めて、サインも練習しました。今、失笑漏れてますけど(笑)。

――いや(笑)。そのペンネームから察するに、歌詞みたいなものを書いていたのですか。銀色夏生さんみたいな感じかな、と。

まさき:作詞は大学生の頃に自分の中でブームがきました。中学生の時に書いていた詩は暗いです。苦しい、誰も分かってくれない、みんなキラキラしやがって馬鹿野郎、みたいな感じの詩ですね。ああ、いろいろ思い出してきました。白地に黒いドットのノートがあって、受験勉強の合間にそれに詩を書いていました。人に見せることはせず、自分の中で暗い気持ちとともにその詩を抱きしめていました。

――おうちの経済状況も大変だったかと思いますが、映画とか部活とか、何か他に夢中になったり打ち込んだりしたものはありましたか。

まさき:中学時代はまったくないです。なにもないまま高校生になり、非行に走ることに夢中になりました(笑)。

――非行というのは具体的にどんなことを? 学校をサボるとか、タバコを吸うとか...。

まさき:そう、まさにそういう典型的なことですよね。でも私は臆病で、人生を駄目にしたくないという気持ちがずっと頭の中にあったんですよ。人に怪我させてはいけないし、事故で死んじゃうかもしれないから暴走族に入ってはいけないし、警察に捕まって少年院に入ってはいけない。そう思っていたので、すごく中途半端な感じの、本当に"プチ"ヤンキーでした。スカートを長くして、学校をサボって、友達のところに行ってタバコを吸ってコークハイを飲んで、夜は当時のディスコに行ったり、ナンパされに行ったり...。毎日そんな感じでした。
 家まで送ってくれると言われてちょっとやばい筋の人たちの車に乗ってしまって、「トイレに行きたい」と言ってなんとか降ろしてもらって、逃げたこともありました。

――危ない。では高校時代は、本は読んでいなかったのでしょうか。

まさき:よく考えると、童話を読んでいましたね。私、たぶん成長が遅いんです。みんなが小学生の時に読むようなものを高校生の時に読んでいました。佐藤さとるさん、立原えりかさん、安房直子さん...。特に安房直子さんが好きでしたね。読んでいると風景がぱっと浮かぶんですよ。特に「だれも知らない時間」(『なくしてしまった魔法の時間』所収)という、亀から1日1時間だけもらう青年の話とか、縄跳びを飛んでいると夕日の国が見えてきて、ラクダがそこに一人ぼっちでいるという「夕日の国」(同)とか。そういう、映像が浮かぶものが好きでした。佐藤さとるさんの『誰も知らない小さな国』も、内容はすっかり忘れてしまっているんですが、コロボックルとかふきのとうとか映像的に憶えています。

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