作家の読書道 第245回:まさきとしかさん

親子の愛憎、人間の業を二転三転の展開のなかに描きこむストーリーテラー、まさきとしかさん。近年では刑事が主人公のシリーズが大ヒット。ご自身では「ごく普通」という読書経験を通して培ってきたものとは? デビューまでの苦労や、あまりに強烈なので読書遍歴とは関係のない友達連れ去り事件も記事にしました。まさきさんの来し方と魅力的な人柄をご堪能ください。

その1「『若草物語』で空想する」 (1/10)

  • モチモチの木 (創作絵本6)
  • 『モチモチの木 (創作絵本6)』
    斎藤 隆介,滝平 二郎
    岩崎書店
    1,540円(税込)
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  • 続 若草物語 (角川文庫)
  • 『続 若草物語 (角川文庫)』
    L・M・オルコット,朝倉 めぐみ,吉田 勝江
    KADOKAWA
    880円(税込)
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  • 小公女 (岩波少年文庫)
  • 『小公女 (岩波少年文庫)』
    フランシス・ホジソン・バーネット,小西 英子,脇 明子
    岩波書店
    968円(税込)
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  • 小公子 (岩波少年文庫)
  • 『小公子 (岩波少年文庫)』
    フランシス・ホジソン・バーネット,小西 英子,脇 明子
    岩波書店
    880円(税込)
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――本日はよろしくお願いいたします。

まさき:私、本当に読書経験が少ないんですよ。今日のインタビュー大丈夫かなと思って、この間、朝倉かすみさんに私の読書経歴を軽くプレゼンしたんです。そうしたら「すごく普通でつまんないね」って言われました。

――あはは。まさきさんと朝倉さんは仲良しですよね。逆に、どんな読書経歴なのか興味がわきます。いつもいちばん古い読書の記憶からおうかがいしていますが。

まさき:本当に普通なんですよ。『モチモチの木』なんです。普通でしょう?(笑) 私は物心つくのが遅くて、小学生になってからの記憶しかないんです。だから『モチモチの木』を読んだのがいつかもよく分からないんですけれど、絵をすごく憶えています。弱虫だった豆太という少年が、おじいちゃんのために勇気を振り絞って山を下りてお医者さんを呼びにいくというざっくりした内容は憶えているんですけれど、とにかく絵の印象が強いですね。滝平二郎さんの切り絵が、怖いけれど綺麗で、綺麗だけど怖いみたいな、あの独特の感じを鮮やかに憶えています。

――読む本は学校の図書室で見つけていましたか、それとも家にあったとか?

まさき:学校の図書室に行ったことは1回もないです。うちの本棚に児童文学全集みたいなものがずらっと並んでいたんですよ。小学生の時は、その中から好きなものを繰り返し読んでいました。『若草物語』とか『小公女』とか『小公子』が好きでした。特に『若草物語』は読むというより、二次創作していましたね。私の推しは四女でした。

――エイミーですね。

まさき:そうです。いちばん人気がないキャラだと思うんです。次女のジョーが書いた小説を燃やしちゃったりして、本当にわがままだし。私はとにかく大人になりたくなくて、エイミーのような幼い人に惹かれました。それで彼女を主役にして、本当は三女のベスが猩紅熱にかかるのをエイミーがかかったことにして、みんなに注目されて心配されて、回復して愛されて大事にされる話を想像していました。ベッドに横たわってエイミーになったつもりで「うーん」とうなされる、というのを1人でやっていました。

――文章で書くのでなく想像して演じていたという。

まさき:そうですね。小学校低学年から4、5年生くらいまでそういうことをしていた気がします。
 実際に物語を書いたこともありました。「ママさんのケーキは世界一」というお話で、挿絵をつけたりもして。森の中にママさんと呼ばれる女の人が1人で暮らしていて、彼女の焼くケーキがすごくおいしくて、森に住むいろんな動物たちが食べにくるっていう。本当に小学生ならではの物語を書いていました。

――お話を作るのが好きだという自覚はありましたか。

まさき:そういう自覚はなかったんですが、でも文章を書くのは平均よりも少し上手かな、という自覚はなんとなくありました。
 私は本当に馬鹿な子供で、勉強ができなかったんですよ。3つ違いの弟は小学生の時から勉強ができたんですけれど、私は本当にできなくて。特に算数が苦手で、先生もそれが分かっているのに、父親参観の日に私を当てたんです。家のことにはノータッチだった父親がはじめて来てくれたのに、他の生徒が前に出てすぐ解いて席に帰るなか、私だけずっと黒板の前にいました。先生に「もういいよ」と言われて席に戻ってしょんぼりしていました。その後、父親はしばらく口をきいてくれなくって。ちょっとだけ「こうやるんだよ」と分数を教えてくれて、私は聞いても分からなかったんですが、怖いから分かるふりをしていました。
 でも、国語だけは100点を取ったり、読書感想文で賞をもらったりしていたんです。だからこの先私が生きていくとしたら、文章を書くということしかないんだろうなって、小学生の時から思っていました。

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