第245回:まさきとしかさん

作家の読書道 第245回:まさきとしかさん

親子の愛憎、人間の業を二転三転の展開のなかに描きこむストーリーテラー、まさきとしかさん。近年では刑事が主人公のシリーズが大ヒット。ご自身では「ごく普通」という読書経験を通して培ってきたものとは? デビューまでの苦労や、あまりに強烈なので読書遍歴とは関係のない友達連れ去り事件も記事にしました。まさきさんの来し方と魅力的な人柄をご堪能ください。

その9「刑事小説が大ヒット」 (9/10)

  • 熊金家のひとり娘 (幻冬舎文庫)
  • 『熊金家のひとり娘 (幻冬舎文庫)』
    まさき としか
    幻冬舎
    759円(税込)
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  • あの日、君は何をした (小学館文庫)
  • 『あの日、君は何をした (小学館文庫)』
    としか, まさき
    小学館
    792円(税込)
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  • 彼女が最後に見たものは (小学館文庫 ま 23-2)
  • 『彼女が最後に見たものは (小学館文庫 ま 23-2)』
    まさき としか
    小学館
    858円(税込)
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  • スカートのアンソロジー (光文社文庫)
  • 『スカートのアンソロジー (光文社文庫)』
    朝倉 かすみ,北大路 公子,佐藤 亜紀,佐原 ひかり,高山 羽根子,津原 泰水,中島 京子,藤野 可織,吉川 トリコ,朝倉 かすみ
    光文社
    748円(税込)
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――著作に関しては、『熊金家のひとり娘』や『完璧な母親』の頃から母と子の問題が大きなテーマだと感じていたんですが、ご自身ではあまり意識していなかったんですね。

まさき:そうなんです。私、母と子を書こうと思わないんですけれど、やっぱり自分の経験があるからか、書かずにはいられないんでしょうね。よっぽど根に持っているんだと思います(笑)。まだ消化できていないんでしょうね。

――本格的なミステリというより、ミステリ要素のある作品を書かれてきましたが、文庫オリジナルの『あの日、君は何をした』と『彼女が最後に見たものは』は、がっつり刑事が主人公のミステリですよね。それはどういうきっかけだったのですか。

まさき:刑事を主人公にしたミステリ小説に憧れてはいたんですが、自分には書けないという思い込みがずっとありました。プロットを考えつく自信がなかったし、警察組織や捜査方法のことを知らないし。でも、ある程度本が売れないと小説家をやっていけなくなると思って、どこかで自分を変えなきゃいけないという気持ちがありました。それで、読者層を広げるために、警察組織の勉強をして一回がっつり書こう、と。警察や捜査に関するノンフィクションを読んだほか、東野圭吾さんや横山秀夫さん、誉田哲也さんをはじめとする先輩作家の小説は参考書として舐めるように読みました。

――『あの日~』と『彼女が~』に出てくる、刑事の三ツ矢秀平と相棒の田所岳斗というコンビのキャラクターはどのように生み出したのですか。

まさき:『あの日~』ははじめての文庫書き下ろしだったんですよ。文庫書き下ろしってどう書いたらいいのか分からなくて、かすみちゃんに相談したら、「私だったら文庫書き下ろしはシリーズ化を狙うね」って言ってくれたんですよ。ああ、そうかと思いました。
 シリーズ化を狙うにはまず、魅力的なキャラクターが必要ですよね。それに、シリーズものって私の中では刑事が主人公のイメージだったんですよ。東野さんの加賀恭一郎シリーズとか、誉田さんの姫川玲子シリーズとか。それで、どんな刑事が魅力的か考えました。わかりやすく格好いい人ではなくて、私が日々思っていることを嫌味なく、説教臭くなく代弁してくれる人を考えていったら、三ツ矢という刑事になりました。でも三ツ矢1人ではバランスが悪いので、相棒の田所という、読者のツッコミを代弁してくれるキャラクターを作ったという感じです。

――三ツ矢は瞬間記憶力を持ち、すぐ沈思黙考するので「パスカル」と呼ばれている刑事。協調性はないけれど、マイペースなだけで悪気はないんですよね。新米の田所は彼に振り回されながらも、三ツ矢の能力を信頼している。これは大ヒットシリーズとなりましたね。

まさき:こんなにたくさんの方に読んでもらえるなんて思わなかったので、びっくりしました。かすみちゃんにお歳暮送らなくちゃいけない(笑)。

――シリーズは今後も続きますか。

まさき:第3弾は来年から取り組む予定です。私は本当に三ツ矢秀平というキャラクターに助けてもらって感謝しているので、許される限り書き続けていきたいです。ずっと三ツ矢という人間を生かしておきたい。

――朝倉さんとはいろいろ、仕事や小説についても語りあっているんですね。

まさき:そうなんです。デビューする前からずっと、どれだけ応募して落ちたか、全部報告しあってきたし、応募する前の原稿を互いに読んで感想を言ったりしていました。かすみちゃんがまた、読む目を持っているんですよ。すごく参考になりました。あの時代、かすみちゃんがいなかったら、私はきつかった。
 かすみちゃんがデビューした時は「すごいな」って嬉しかったし、『田村はまだか』で吉川英治文学賞を受賞した時は私も待ち会にいて一緒に喜びました。

――デビュー前から親交があるおふたりが今、どちらも活躍されて...というのがぐっときます。

まさき:このあいだはかすみちゃんと河﨑秋子ちゃんと、内山りょうちゃんという方とご飯しました。4人とも北海道新聞文学賞の受賞者なんです。内山りょうちゃんが私の文庫本を持ってきて「としかさん、サインして」って言ったら、かすみちゃんが「私が代わりにサインしてあげる」と言って「まさきとしか」ってサインして、「はい次」って河﨑秋子ちゃんも「まさきとしか」ってサインして、最後に私がサインしました(笑)。

――まさきさんは朝倉さんを「かすみちゃん」と呼ばれてますが、朝倉さんはまさきさんをなんて呼ばれているんですか。

まさき:「とちた」です。「としか」を全部た行にすると「とちた」になるので。それを知っている友人や読者の方も、私のことを「とちた先生」って呼んでくれたりします。

――まさきさんは今また北海道にお住まいですよね。北海道出身の作家の方々って交流がある印象です。

まさき:そうですね。こないだ桜木紫乃さんにちょっとだけお会いした時も、「いや~本売れてよかったね~」って言ってくださって。

――いま、桜木さんの口調を真似ましたね(笑)。

まさき:真似ました(笑)。乾ルカさんとはコロナ禍の前に一緒にケーキを食べたりしました。乾さんはクールビューティーで近寄りがたいイメージだったんですけれど、お話ししたらものすごく面白いんですよ。話しているうちに、あっという間に4時間とか経ってます。
 北大路公子さんにも何度もお会いしましたが、ほとんどが酒の席です。かすみちゃんが責任編集の『朝倉かすみリクエスト! スカートのアンソロジー』に北大路さんの「くるくる回る」という短篇が載っていて、それがすごく好きなんです。
 私も短篇を依頼されることがあるんですけれど、まだ書き方がよく分からないんですよ。油断すると100枚以上書いてしまうので、短篇を書く前は「くるくる回る」を読むようにしています。あれは現在、過去、現在、過去と行き来しながら進んでいくんですけれど、何もかもが見事で読ませるんです。だから、「くるくる回る」の構成を書き出して頭の中に入れてお手本にしています。
 北海道の作家のみなさんはいい人ばかりで、みんなが頑張っていることが私の励みにもなりますし、一緒に頑張っていきたいなあって思うんです。

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