『デッドエンドの思い出』よしもとばなな

●今回の書評担当者●宮脇書店本店 藤村結香

  • デッドエンドの思い出 (文春文庫)
  • 『デッドエンドの思い出 (文春文庫)』
    よしもと ばなな
    文藝春秋
    704円(税込)
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 心の淋しさを、悲しさを、心細さを埋めたい、そんな時。特に秋に読みたくなる小説がこの「デッドエンドの思い出」です。もう10年以上私にとってこの短篇集は宝物の1つです。

 沢山あるばななさん作品の中でも「なんで?」と自問自答したくなるぐらい好きです。本当に不思議なぐらいなのですが、パズルのピースがちょうどよく収まったみたいなぐらい、何度読んでも好き。
5篇の物語が収録されています。

「幽霊の家」地元で愛される洋食屋の娘とロールケーキ専門店の息子。ダントツに飯テロでもある物語でした。冒頭で2人が食べる、鶏団子と白菜と春雨だけのシンプルなお鍋(〆はうどん)を真似したことがあります(笑)。2人が体を合わせる描写があるのですが、こんな言葉でこうも生々しいのに愛おしく描けるの凄すぎるなと、初めて読んだ時に変に感心してしまった。表面だけを見たら最高のハッピーエンドなのに、ちゃんと「さみしさ」を大切にしていて...個人的に一番好きです。

「おかあさーん!」ある日突然、容疑者とは無関係に等しいのに、巻き込まれる形で被害者となってしまった主人公。事件後さまざまなことに直面しながらも未来を歩んでゆきます。彼女の心理描写が注意深いといっていいほどに丁寧に描かれていて、読み終えたあとタイトルの意味を考えて目が潤み...実は読むたびに毎回ラスト3行で泣くのがこの作品。私も「おかあさーん!」と叫びたくなってしまう。

「あったかくなんかない」主人公は小説家なので、ついついばななさんをイメージしながら読みました。見た目も中身もまるで天使のような少年・まことくんと過ごした日々。この物語はとても切なく終わってしまうのですが、まことくんの言葉や主人公に与えただろう影響を思うと「あったかくなんかない」かもしれないけれど、やはり「あったかい」でもあるのかなとしみじみします。

「ともちゃんの幸せ」その人の幸せはその人にしか決められない。そうは言っても、読み手からすると、ともちゃんの人生はどちらかというとハードモード。ハラハラします。先のことはわからない、神様が助けてくれるわけでもない。それでもたしかに"幸せ"があることを理解しているともちゃん、強い人です。

「デッドエンドの思い出」ばななさんが【これが一番好きな作品、これが書けたので小説家になって良かった】とまで仰った表題作。婚約までしていた男にひどい裏切りをされた主人公が、子どもの頃に虐待をうけてニュースにまでなった青年・西山くんと交流していく話。彼の言葉はわりとハッキリしていて容赦ないのですが、主人公をきちんと見てくれている優しさも感じて、なんだろう...この二人の関係というか、空気感というかが、ただただ心地よいです。

 感情を荒げたり、乱暴な言葉を使ったりしない登場人物たちの、穏やかで温かで少しさみしそうな声がラジオドラマのように聞こえてくる...そんな心地に浸れる物語集です。

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宮脇書店本店 藤村結香
宮脇書店本店 藤村結香
1983年香川県丸亀市生まれ。小学生の時に佐藤さとる先生の「コロボックル物語」に出会ったのが読書人生の始まり。その頃からお世話になっていた書店でいまも勤務。書店員になって一番驚いたのは、プルーフ本の存在。本として生まれる前の作品を読ませてもらえるなんて幸せすぎると感動の日々。