『愛の色いろ』奥田亜希子

●今回の書評担当者●宮脇書店青森店 大竹真奈美

「ポリアモリー」という言葉をご存知だろうか。
 複数の人を同時に、誠実に愛するライフスタイルのこと。それぞれ合意のもと同時にオープンに付き合うことらしい。

 まだまだ馴染みのない言葉だが、叶姉妹の叶恭子さんが、ポリアモリスト=複数愛者であることを公言されるなど、日本でも少しずつ認知されつつある。しかし恭子さんの恋愛観がソレですと言われても、ファビュラス過ぎていまいち現実味がない。

 では身近に何かなかったか。調べてみたところ、江國香織さんの『きらきらひかる』があった。妻と、同性愛者の夫とその恋人との三角関係を描いた恋愛小説である。なるほどアレがポリアモリーか!と、ぐっと親近感が湧き、黄色と緑が混じり合う装画に惹かれ手にしたのがこの作品だった。

 本作は、ポリアモリーを実践する男女が、共にシェアハウスで暮らしていくストーリー。複数愛者=ポリアモリストであることが、そのシェアハウスで暮らす唯一の条件。

 そこに暮らすのは4人の男女。黎子さんは伍郎さんのパートナーでありながら、良成くんとも付き合っていて、良成くんは千瀬ちゃんとも付き合っている。千瀬ちゃんと黎子さんは以前付き合っていた過去があり、伍郎さんには、一緒に暮らしてはいないが夕美さんという恋人がいる。黎子さんにも、寛奈さんという恋人がいるが、彼女には夫と息子がいる。と、ざっとこんな背景の4人だが、関係性が交差しすぎて何が何だかわからない。

「1対1」が正しい恋愛スタイルとされる現代社会において、理解し難いことばかりで頭を悩ますが、過去を振り返れば、世の中にポリアモリー的な背景は数多くあり、一夫一妻制の社会に添うこと自体、必ずしも自然なこととは限らないのかもしれない。

 好きな友達は何人いても、みんな好きで成り立つのに、恋人はどうして1人じゃなきゃいけないのか。
 我が子が何人に増えようが、それぞれに100%の愛を注ぐように、恋人が何人になろうと、それぞれへの愛が減るわけではない。
 愛する人の存在が、他の全ての人を愛してはいけない存在に変えるなんておかしい。

 そんな風に感じながら、複数人に誠実に愛と向き合い生きている人達がいるのだ。様々な感情に向き合い、悩みながらも、尊重し、信頼し、責任をもって、関係を築き上げ愛を育む。容易にできることではない。ポリアモリーを実践することの苦悩は、本作にも様々な形で描かれている。

「自分とは考え方が違うな」でも勿論いいし「これこそが自分の生き方かも」と救われる人もいるかもしれない。ポリアモリー自体の認識、それを実践している人達の存在や、LGBTなど性の多様性も受け入れることのできる、そんな自分、そんな社会でありたい。そんなふうに思う読後感だった。

「運命の赤い糸」は、別に赤くなくたっていい。
 愛の色は色々あってもいいと思うのだ。
 複数の運命が絡まって、一緒くたになった多色がたとえくすんで見えようと、一本の糸にたぐり寄せると、美しい黄色や緑だったりするのを、私は本作のページの隙間から垣間見たように思う。
 そしてきっと、その糸はあたたかい。そう思う。

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宮脇書店青森店 大竹真奈美
宮脇書店青森店 大竹真奈美
1979年青森生まれ。絵本と猫にまみれ育ち、文系まっしぐらに。司書への夢叶わず、豆本講師や製作販売を経て、書店員に。現在は、学校図書ボランティアで読み聞かせ活動、図書整備等、図書館員もどきを体感しつつ、書店で働くという結果オーライな日々を送っている。本のある空間、本と人が出会える場所が好き。来世に持って行けそうなものを手探りで収集中。本の中は宝庫な気がして、時間を見つけてはページをひらく日々。そのまにまに、本と人との架け橋になれたら心嬉しい。