『プラトン学園』

プラトン学園
  • 奥泉光 (著)
  • 講談社文庫
  • 税込820円
  • 2007年10月
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  1. 鉄塔 武蔵野線
  2. 生首に聞いてみろ
  3. プラトン学園
  4. 藁の楯
  5. さようなら、コタツ
  6. ボーイズ・ビー
  7. 日傘のお兄さん
  8. 東京大学応援部物語
  9. 文壇うたかた物語
  10. メールオーダーはできません
荒又望

評価:星3つ

 木苺惇一が新任教師として赴任したのは、孤島に建つ全寮制のプラトン学園。豪華すぎるほどの設備に最初は喜んだ木苺だが、知れば知るほど、何かがおかしい―。
 このプラトン学園、名称も奇抜だが、中身もかなり変わっている。午睡の時間が毎日決められていたり、教員の晩餐会が毎週開かれていたりする。さらに、実物そっくりの仮想現実ソフト「プラトン学園」のなかで、授業や部活動を行うこともできるらしい。しかも、そのソフトというのは…。
 これ以上書くと興味を削いでしまいかねないので控えるが、とにかく、読んでいくうちに虚実の境目が曖昧になっていくのが本作最大の面白さ。どこまでが現実で、どこからが虚構なのか。実際に木苺の身に起きたことなのか、それとも精巧につくられたバーチャル空間内の「キイチゴ」が体験していることなのか。てっきりこちら側だと思って読んでいたのに気づいたらあちら側に行っていたりして、いったい今はどっちなんだ? と混乱する。さまよった末にたどり着くのは、いったいどこだ?

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鈴木直枝

評価:星3つ

 「世にも奇妙な物語」をテレビで見終えた時に似た読後感がある。これって「在り」?。そもそも初めから変だった。大学卒業間近の就職内定、離島の全寮制学校の教師の職、恵まれた環境は青春学園そのもの。木陰で堀北真希が微笑んでいても不思議じゃない。しかし、その順風過ぎが仇(あだ)となる。幸せの絶頂からの急転直下は、正に奇妙な物語。
 死んだんじゃなかったの?私の前任者。掛け算にも苦労していたでしょ?さらさらと問題を解く生徒たち。キャッチボールも満足に出来なかったじゃない。甲子園?嘘でしょ。
 もっとぶつかってきて。かっこつけんなよ。他人に関われよ。空虚な何かに叫びたかった。
 事務連絡はおろか授業も空間の移動もパソコンがやってくれる。気に入らなければ削除してしまえばいい。面白いことは、ネットから見つければいい。そこには現実世界では得られない「何か」がある、ような気にさせられる。
 帯にある挑発的なコピーが、マニアックな小説を想像させたが、到って気軽に読める本。主人公が持つ暢気なお人よしの性格が、サイコ扱いされる分野の本を時にくふふと笑わせてくれた。

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松岡恒太郎

評価:星3つ

 不条理な学校に赴任する新任教師、もしくは現実とバーチャルな世界の狭間であがく主人公。どちらにしても目新しいとは言えない設定だけに、よっぽど自信がないと挑めないテーマのはず。
しかし著者はこの作品でそいつをやってのける。読み手である僕は、いつしか主人公木苺と彼を取り巻く脇役たちとが繰り広げる不可思議な会話や行動に興味を掻き立てられてゆく、描写も冴えております。
途中まではそんなワケで物語は順調に進んでいたのですが、しかし案の定と言うべきか迷走し始めるストーリー。
結局主人公らしからぬ木苺氏は、不条理で出口の見当たらない錯綜した世界をやや投げやり気味に漂い続けるに至る。
 万人が納得する結末が必要だとは決して思わないし、この小説自体は実際よくできているとさえ思っている。
しかし今更ながら、非日常への滑落小説は落としどころが難しいものだと、そう再認識させられた一冊だった。

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三浦英崇

評価:星4つ

 ゲーマーが道を踏み外して罪を犯した時、しばしば「現実と虚構の区別がついていない」といった、分かりやすい紋切り型で切り捨てられる訳ですが、そんな「境地」に達せられるような作品を世に送り出せるんなら、ゲーム屋冥利に尽きますな。

 って、そんな反社会的な発言をしてしまうのは、この作品の中で語られる仮想空間「プラトン学園」の出来が、あまりにゲーム屋の夢を体現してるからですね。ま、もっとも、現実と区別がつかなくなってしまう虚構なぞ、「現実から逃避したい」という願望を叶えるにはあまりに不向きで、つまるところただの「悪夢」に過ぎない、と思ったりもしますが。

 そして実際、主人公・木苺が「プラトン学園」に飲み込まれていくさまは、クソゲーのように不条理極まりなく、俺はこんなゲームやりたいなんて言ってねえ! と叫んでいいんだぞ、と忠告してやりたくなります。そう思うこと自体、既に作者の思惑にまんまと嵌められてるんですけどね。

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横山直子

評価:星3つ

新卒で全寮制の学校へ英語教師として赴任した青年が主人公。
その名も妙にかわいい木苺(きいちご)先生。
この全寮制の学校こそタイトルのプラトン学園。陸の孤島にあるなんだかわからないけど最先端の技術を完備していて、なんでもパソコンで処理、ネットで学園中をいろいろ検索できてしまうのだ。
この本が誕生したのが10年前なので、当時はかなり内容が衝撃的だったかもしれないけれど、10年後の今はそれが当たり前になりつつあるので、その事実にもちょっとビックリする。
で、学園設備は最先端なのに、そこの先生たちが揃いも揃って人間味あふれる個性豊かな人たちでこのギャップもなかなか楽しい。
木苺先生は学園に親しむ前に「マウスを握ったまましばらく放心」状態になってしまうくらいネット内学園にのめり込んでしまう。
そしてこの学園で不可解な失踪をした前任の教師からメールが届くようになり…。
ネットと現実、区別がつかなくなってしまう恐ろしさをひやりと感じる。
とっても読みやすい文体なのだが、しかし読みながらも「あれ?あれ?あれ?」と思いつつ、今どっちのだっけ?ネット?現実? 始終混乱しておりました。

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