『東京大学応援部物語』

東京大学応援部物語
  • 最相葉月(著)
  • 新潮文庫
  • 税込420円
  • 2007年11月
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  1. 鉄塔 武蔵野線
  2. 生首に聞いてみろ
  3. プラトン学園
  4. 藁の楯
  5. さようなら、コタツ
  6. ボーイズ・ビー
  7. 日傘のお兄さん
  8. 東京大学応援部物語
  9. 文壇うたかた物語
  10. メールオーダーはできません
荒又望

評価:星4つ

 連戦連敗の野球部を必死で応援する東京大学応援部。勝利という報いもなく、伝統と規律に理不尽なほどに厳しく縛られる応援部での活動を、彼らはなぜ続けているのか。1年間の密着取材にもとづくノンフィクション。
 東京大学。応援部(もしくは応援団)。それぞれ単体ならば、一般的なイメージはかなり固定化している。しかし「東京大学応援部」となると、途端に想像しにくいものとなる。東大生が応援団? いまひとつピンとこない。
 彼らはなぜ応援するのか。何のために応援するのか。その答えは、もちろん1つではない。部員の数だけあり、1人の部員の心のなかでも刻々と変わっていく。答えを出そうとして、彼らは悩み、考える。とことんまで自身の胸のうちを見つめ抜くその様子は、生真面目で純粋で、苦しげでさえある。そんな彼らに白けた目を向ける外野も多いだろう。でもそれでも良いじゃないか、心身ともにここまで熱く濃く打ち込めるものがあるのだから。
 単行本の表紙には直立不動のいかつい男たちの写真が使われていたが、文庫版ではかわいらしいイラストになってしまっているのがもったいない。単行本の、「いかにも!」の感じが断然良かったのだが。

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鈴木直枝

評価:星4つ

 人は人生にいくつのハードルを持ち、一体今は幾つめの障害を前にしているのだろう。東京大学合格。傍目には最難度の障害に思えるが、その次に彼らが選んだ応援部は、受験勉強以上に過酷な障害があるコースだった。
 体罰、先輩からの理不尽な命令、酷暑での星飛雄馬ばりの猛練習、必死の応援をあざ笑うかのように負け続ける野球部。努力に見合った成果が得られる勉強の積み重ねが得意な彼らに、それは「やってられない・空しさ」との対峙だったろう。もしかしたら初めての屈辱だったかもしれない。
 著者の最相は、1年に渡って同応援団に寄り添う。炎天下の合宿に、「辞めたい」「辞めるな」の瀬戸際に、恥ずかしそうに恋愛を打ち明ける夜に、1年が経過しても尚、迷い続ける部員の真面目さに。
 目が覚める本だ。こんなにも一生懸命になったことってあったかな。学年や学校を超えて、それでも「支えてやりたい」と思う人間がどれだけいるだろう。逃げていないか、困難に。
 OBの一人が「ぶよぶよした個性」というたとえを使って、自分が応援団に在籍した理由を語るシーンが心に残る。そこまでするから東大なんだ。

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藤田佐緒里

評価:星4つ

 私が通っていた大学は女子大だったのだけれど、近くに女子の数が圧倒的に少ない国立大学があって、そこの大学とうちの大学の仲がとってもよかったものだから、学生時分はその大学に入り浸るようにして、学園祭やらサークル活動やらをしていたものです。印象的だったのはその大学の応援部。彼らの晴れ舞台である学園祭では、学ランの面々が肩で風を切るようにしてステージへ向かっていき、後ろにはたくましいチアの女性たちが続く。そして繰り広げられるステージのかっこよさと言ったら、普段なら爆笑してしまうような学ランたちの馬鹿みたいな絶叫にも大げさな身振り手振りにも、それからチアの女性たちの仮面のような笑みにも、全部に感動して号泣してしまうほどだ。応援部というのは、そういう圧倒的な力を持つ不思議な集団なのである。
 というわけで、この作品は私にとっては非っ常〜に感動的な小説なのでした。こういう馬鹿馬鹿しいことをどのくらい一生懸命できるかに、人生はかかっているような気がする。応援部は、私にとっては一生の目標なのである。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 ドキュメントだから尚更泣けてくるのか、愚かしいと思っている自分に腹が立つのか、とにかくまんまとやられてしまった。時代にそぐわない彼らの生き様に、気づくと僕は嗚咽を漏らしていた。
 だって馬鹿げているじゃないか。東京大学という日本の最高学府に籍を置きながら、応援団などという封建的で非生産的な組織に身をおく若者たちがいるのだ。苦労は買ってでもしろ!だとか、人のために生きろ!なんて言葉は既にお題目となってしまったことくらい誰でも知っていると言うのに。
 権利ばかりを主張する世の中で、自分の利害に関係なく人の力になろうと汗を流す奴らがいる。記録のためではなく、栄光のためでもなく、人に誉められるためでも、ましてや自己満足のためでもない。
 苦悩する彼らの姿が、掛け値なしに美しく思えるドキュメント作品。事実は創作よりもドラマティックなのだ。

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三浦英崇

評価:星4つ

 そもそも体育会系の不条理だとか不合理だとかが死ぬほど嫌いです。「応援」という、一見他者への奉仕と見せかけて、実は自己陶酔の手段に過ぎない行為にも、一片の価値も見い出せません。ましてや、東京大学を終生の仇敵と決めている俺様です。嫌いなものの三段重ね、ジェットストリームアタックを前に、果たして読み通せるものかどうか、非常に危惧したのですが……一気に読んじゃいました。

 読み終わった後も、上記三件に関する見解を変えるつもりは全くありません。たぶんこれからも、スポーツの応援なんてみっともない真似は生涯しないでしょう。でも、応援したがる人に対して、あえて応援することの空しさを説いて回るようなことは、もうしないでおこうと思いました。

 応援する者たちにも、応援する者なりの理屈があり、熱意があり、人生がある、ということくらいは、認めてやらないといけないんだろうなあ、と思うし。大人だ。大人になったなあ俺様。

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横山直子

評価:星5つ

最初の一行目で思わず「わぁぁぁぁぁぁ〜なつかしぃぃぃぃ〜」と声が出ました。
北信州に位置する戸狩野沢温泉、なんとも心に響く地名ではありませんか。
戸狩を抜きにして私の学生生活は語れません。
四年間夏合宿に通いつめた思い出の場所。文科系の体育会と呼ばれた混声合唱団の夏合宿ですから、練習量も半端ではありません。
ひたすら歌い、そしてクラブ運営のために夜を徹して話し合い、そして感動の涙に明け暮れた…。
最初の一行からコロリときてしまったのです。
この文庫本にのめり込んだ事は言うまでもありません。
東京大学応援部のみんなも実に熱いぞ。
「分かるよ、分かるよ、そうだよね」といちいち反応してしまいます。
毎日のようにある厳しい練習、上級生と下級生のかかわり、それぞれの想いが交錯する。
誰が、なんのため、どうして、この応援部の活動をするのか!
いろんな想いをして、とことん話しつくして、そして迎えるそれぞれの晴舞台。
言葉にはならない何か、想いがあふれて出る涙、そして無心になってひたすらある一つのことに打ち込む強さ、美しさ…これを書いていてもなんだか熱くなってきます。
著者の最相さんが一年間にわたり、この応援部をそばでじっくりと見て、心でしっかりと感じ取った日々が綴られています。
感涙、感動の一冊でした。

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