『日傘のお兄さん』

日傘のお兄さん
  • 豊島ミホ(著)
  • 新潮文庫
  • 税込460円
  • 2007年11月
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  1. 鉄塔 武蔵野線
  2. 生首に聞いてみろ
  3. プラトン学園
  4. 藁の楯
  5. さようなら、コタツ
  6. ボーイズ・ビー
  7. 日傘のお兄さん
  8. 東京大学応援部物語
  9. 文壇うたかた物語
  10. メールオーダーはできません
荒又望

評価:星3つ

 幼い頃、いつも遊んでくれた日傘のお兄さんが突然訪ねてきた。お兄さんがロリコン疑惑で騒動を巻き起こしていることを知り、夏実は迷わず一緒に逃げることを決心する。(表題作)
 女の子を主人公とする4つの中短編。出色なのは、冒頭の『あわになる』。事故死した「私」が、わずかな間だけ、幽霊としてこの世を漂う。とりたてて未練もなかったはずなのに、ある再会がきっかけで、どうしようもなく後ろ髪を引かれる。オカルトめいた物語ではあるけれど、「私」のように狂おしいほどの思いを抱えた幽霊ってたぶんたくさんいるのではないかと、今までにない気持ちになった。
 他3篇は、照れくさくなるほどに女の子チックだったり、意外にもなまめかしかったりと、趣がばらばら。豊島ミホ色とでもいうものは本作だけではつかみきれなかったけれど、この先はぜひ、『あわになる』路線を突き進んでくれると嬉しい。

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鈴木直枝

評価:星2つ

 若い世代を扱った小説は得意なはずなのだが、どうにも乗り切れなかった小説だ。なんだかんだあって、けれど落ち着くところに着地して一件落着小説なのだが、設定が唐突で、行動が不可解だった。10年ぶりに会った(多分初恋の男の子が)突然現れて、中学生だというのに逃避行してしまうのだが、そこで行動を起こさせるための心理の描き方が足りなかった。だから共感も反感もなく、感情移入できないままに「あーあ終っちゃった」となってしまった。
 それに比べると、「好きなのに才能がない」と言われ美術の道で生きることを諦めた24歳の私が事故死してから成仏するまでを描いた「あわになる」は、40ページほどの短編ながら、時系列の順の付け方と優しさを感じる終末が秀逸。また、東京育ちだというのに、図らずも地方(しかも雪国)の私立大学に通うことになった女の子が、「あなたが好きなんです!」光線を撒き散らす最終作も、いたいけで可愛くて好きだった。
 豊島ミホは、その先の「希望」の表し方が上手い。雪解け後の「春」の明るさが気持ちいい。そんでもって最後は、「よし、私も頑張ろう」って思わせる。

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藤田佐緒里

評価:星3つ

 豊島ミホさんの小説を読んでいると安心できる気がするのは、たぶん、年齢が近いから、ということもあるような気がする。ここでこう来るか! みたいな驚きとか、私にとって突飛だと感じるようなできごとは彼女の小説の中では起こらない。でも、私にもとても近いものとして認識できる普通のことをこうしてドラマティックに描けるのは、あまりある才能の致すところなのだろう。同年代の人間としては、同じくらいしか生きていないのにこんなことができる人がいるということが信じられない。
 幼馴染みのお兄さんと逃避行に出た中学生の夏実。そのお兄さんは、ネットでロリコンだと騒がれているが、遊んでもらった子供時代の記憶を信じ、夏実はお兄さんを守ろうとする。豊川悦史主演のドラマ『青い鳥』を彷彿とさせるようなどこかくぐもった雰囲気のある作品。お兄さんというのは、いつだって少女たちの憧れなのです。

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松岡恒太郎

評価:星3つ

 この小説のデキは決して悪くない。いやむしろ、繊細で大人になりきれていない主人公たちの心模様が、上手に表現された良質な作品群だとさえ言える。
けれども、読み終わった僕の心のどこかにはザラつきが残った。そのザラつきはおそらく、二人の娘を持つ僕の父親の部分が過敏に反応したのだろうと思われる。
 表題作は、数年ぶりに再会した幼馴染のお兄さんと少女の逃避行が描かれた物語。中学生の少女と純粋だが少し病みかけている男との心のふれあいが描かれている。
 読み手によっておそらく受け取り方が随分変わってくるであろう四篇の物語。
純粋さと危うさを持ち合わせた少女の行動が、とりあえずお父さん目線の僕としては、気が気でなかったのだ。
 そんな中にあって『ハローラジオスター』はヨカッタ。壁にぶち当たりながら成長する彼女が、我が娘のように思えてホロリときちまった。

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三浦英崇

評価:星4つ

 俺は中高と男子校だったので、リアルタイムで十代の娘さんたちとの交流がほとんどなくて、大学入ってから塾講師のバイトやって、上から目線でしかその世代の女の子を見たことが無かった訳ですが。ま、つくづく感じたのは「女の子って、男の子よりはるかにしっかりしてんなー」ってことですね。

 この作品に出てくる女の子たちも、みんなしっかりしたいい子たちばっかで、更に俺の経験から来る印象を補強した次第。例えば、表題作のヒロイン・夏実。幼い日に遊んでくれた「お兄さん」と、逃避行を繰り広げる破目になるのですが、挙動不審で、見るからに怪しいお兄さんを終始リードし続けるその強さは、どっちが年上だか分からないくらい「お姉さん」ぽくて、見てて微笑ましい、と言うか、俺も一緒に連れてって(おいおいおい)と言うか、とにかく無性にいとおしくてなりませんでした。

 現実には間違いなく「犯罪」扱いでしょうけど、逃避行、してみたいです。

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横山直子

評価:星5つ

じんわりじんわりと心が温かくなってくる。
いわゆる少女と男の組み合わせ。
日傘のお兄さんこと中尾宗助24歳と、なっちゃんこと中学生の夏実が手に手をとって、東京から島根へと逃避行なのだ。
この二人、まだなっちゃんが幼児だった頃の知り合いだったが、ここ何年も音信不通状態だった。
ところが、ある事情を抱えてお兄さんがいきなりなっちゃんの前に現れて…。
なぜ日傘のお兄さんなのか?お兄さんの悲しい生い立ちが分かり、今の状況を目の当たりしたなっちゃんの行動、心の動きがなんとも純粋で胸に響く。
そうして、なっちゃんは大きく強く成長したのだ。
それがとても頼もしく感じる。いいぞ!なっちゃん!
それしても、「日傘おとこ発見」なんて、二人の逃避行の様子が携帯サイトで見られることができる!
いろんな情報を本人に聞く前に情報サイトで知ることができる!
そんなところはイマドキだなぁと感心しながら読みました。

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