『生首に聞いてみろ』

生首に聞いてみろ
  • 法月綸太郎 (著)
  • 角川文庫
  • 税込780円
  • 2007年10月
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  1. 鉄塔 武蔵野線
  2. 生首に聞いてみろ
  3. プラトン学園
  4. 藁の楯
  5. さようなら、コタツ
  6. ボーイズ・ビー
  7. 日傘のお兄さん
  8. 東京大学応援部物語
  9. 文壇うたかた物語
  10. メールオーダーはできません
荒又望

評価:星4つ

 前衛彫刻家の葬儀直後に、愛娘がモデルとなった石膏像の首から上が何者かに切り取られる事件が起きた。警察沙汰を避けたい故人の弟に頼まれて、ミステリー作家の法月綸太郎が探偵役を引き受ける。
 挑発的なタイトルにインパクトのある表紙。なにやらこれは面白そうだ、と期待度大。恥ずかしながらシリーズものということを知らずに読んだために「おや?」と思う場面があったり、誰がいつどこで何をした、という細かな流れが整理しきれず頭のなかがごちゃごちゃになったりもしたけれど、「こ、これは…!」と読めば読むほど止まらなくなった。
 謎解きにつながるモチーフがさりげな〜く随所に散りばめられているのだが、それがまた、本当に本当にさりげない。「おや、これはどこかに出てきたぞ」という既視感と、「でも、どこだっけ?」というもどかしさと、「まさかこれが伏線だったとは!」という爽快な敗北感がないまぜになる、この気持ち良さといったら、もう。緻密に組み立てられたパズルのピースが鮮やかにはまっていく快感を、ぜひご堪能ください。

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鈴木直枝

評価:星4つ

 怖いどころか、再再読したくなるミステリー。2005年版「このミス1位」は、合点納得だ。
 タイトルや装丁はおどろおどろしさを醸し出しているが、そんなの関係ねえほどにツボツボツボ!石膏彫刻家の病死から始まるストーリーは理解に難しくないのだが、誰がどいつに惚れたはれたの人間関係がやや面倒。「そんな小さな世界で何やってんの!」けしかけたい気持ちをじっと堪えて読み進めば、「あらまああらまあ」のトリックだらけ。犯人がギリギリまでわからないことに加え、今度はその動機究明が出来ない。こんなに考えさせてくれて743円は安いでしょ。
 父と同じ立体造形を学ぶ美大生の娘、翻訳家の義兄、共通の友人カメラマン、そのまた知人の(自称)よろずジャーナリスト、とその社会を覗き見したくなるような職業につく登場人物たち、石膏・現代美術という文化の先端。読者をワイドショーやカタログ誌に触れる感覚で、「見たい知りたい」気分にさせる素材提供が巧い。
 著者と同名のミステリー作家が根幹を曝す。生々しいのは流血よりも人の心だ。

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藤田佐緒里

評価:星5つ

 カバーを見て、これは私は読むのをやめたほうがいいな、と判断した。確実に眠れなくなる。怖くて、ではなくて、やめられなくなるだろうと見ただけでわかる本だったからだ。この本がうちに届いたころ、私は連日の酒宴とやらなくてはならないことの山に埋もれて(と言っても私がトロいだけで大して忙しかったわけではない)いたので、毎日一刻も早く眠りたかった。最終的に私の睡魔に勝ったこの本は恐るべき面白さで、結局酒を飲みながら一晩のうちに全部読んでしまったが、翌日の私の地獄のような一日は、あまり思い出したくない。
 出だしから順番に張り巡らされていく伏線は、最初は一本ずつが全部見えている。でもあるときその伏線が一本も見えなくなる。そこから謎が解き明かされるまでの展開の鮮やかさにはまいった。読むのがやめられなくなってしまうのは、この構成のすばらしい緻密さにあるのだと思った。こんなことを考える人間が世の中にいるのは、本当にすごいことです。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 しょっぱなから投げっぱなしのバックブリーカーのごとき挑発的なタイトルに驚かされたが、なるほどこいつは大きく出るだけのことはあって読み応えたっぷりの濃厚なミステリー作品でありました。
 高名な彫刻家の病死、時同じくして奪い去られた遺作である石膏像の頭部。捜索を頼まれた我らが法月綸太郎は、それが呼び水となって引き起こされる事件を追い、しだいに謎に迫ってゆく。
 しかし昨今のミステリー作家というのは、つくづくご苦労な仕事だとこの作品を読みながら頭が下がった。古今東西もういいかげん出尽くした感のあるトリックを踏まえ、さらにその上をゆく構成を口の肥えた読者達は求めてくるのだから。月面宙返りやトカチェフを超える新しい必殺技を編み出さなくてはメダルには届かないのと同じように。
 読者の予想のさらに裏を行く展開を、今回もぜひご堪能いただきたい。

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三浦英崇

評価:星3つ

 時々、考えるんですけど。自分が猟奇殺人の第一発見者になんかなった日には、毎晩毎晩それを思い出して、とてもじゃないけど眠れないだろうなあ、と。特に、生首だけとか、首無し死体だとか、そんなものに遭遇する機会は、できるだけ小説の中だけに留めておいてほしいものだ、と常々思う次第。

 で、この作品では、せっかくの美人が胴と頭の生き別れ、いや死に別れか。とにかく、あたら美人がもったいない、と思わせる事件でありまして。どうしてそんなにみんな冷静に推理とかしてられるんだろう?と思いつつも、論理を積み重ねては壊し、積み重ねては壊し、を続けて、ついに真相に至る名探偵・法月綸太郎の推理が冴えわたります……って冴えてるんだけど、どうしてこんなに地味な印象なのかなあ。

 事件は派手だけど、それを解決するための手段はひたすら「日常」だからなんでしょうか。もちろん、そういう推理の結果、解決してくれる方が安心なんですがね。

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横山直子

評価:星3つ

なんとも衝撃的なタイトルに生つばゴクリ。
表紙の白いシャツを着た女性のパチリと開かれた眼に心を残しながらページをめくった。
前衛彫刻家に石膏直取りによる人体彫刻とくれば、にわかに昔のミステリーサスペンスドラマが蘇る。
そう壁を掘りかえすと、出てくるのは人体の…。
えっと、これはちょっと違いました。^^;
彫刻家が「母子像」という連作をかつては身重の妻を、そして現在の娘をモデルに作成した直後に死亡、そしてその最新作が首を切り取られた状態で発見される。
モデルになった娘がある事実をつかみ、動き出す。そして…。
思いがけない人物すり替え、見破られそうな変装シーン、どれもこれも読みながらすぐ頭の中で映像化できそうでした。
いろんな伏線があり、何度読んでもその度ごとに発見があり、楽しめそう。
巻末には著者インタビューがあり、著者自身も「ああ、こんな伏線があったのか」なんて驚いていましたよ。

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