『藁の楯』

藁の楯
  • 木内一裕 (著)
  • 講談社文庫
  • 税込600円
  • 2007年10月
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  1. 鉄塔 武蔵野線
  2. 生首に聞いてみろ
  3. プラトン学園
  4. 藁の楯
  5. さようなら、コタツ
  6. ボーイズ・ビー
  7. 日傘のお兄さん
  8. 東京大学応援部物語
  9. 文壇うたかた物語
  10. メールオーダーはできません
荒又望

評価:星3つ

 「この男を殺してください」 孫を惨殺された資産家が、日本国民1億2000万人に向けて容疑者殺害を依頼した。謝礼は、10億円。
 自らの快楽のために少女2人の命を奪った凶悪犯。身柄を移送される容疑者に次々と襲いかかる10億狙いの殺害実行志願者。守る価値のない”人間の屑”を、警察の威信を賭けて捨て身で警護する5人の男たち。たしかに、刺激的なストーリー、ではある。
 だが、しかし。もちろん10億というのはくらくらするほどの大金だが、それだけのために殺人を犯す人間が、これほど次々と現れるものだろうか。その点がどうしても腑に落ちない。犯人憎しと義憤に駆られて凶器を手にとるのならば、まだ理解はできる。いや、金銭目的の犯罪など世のなかにいくらでもあるが、たとえそうだとしても、生活に困窮してやむにやまれず、などの理由があるはず。そのあたりの事情が多少なりとも描かれていれば、もうすこし読み応えがあったはずなのだが。
 と、考え出すとどうにもこうにもモヤモヤしてしまうので、四の五の言わずにスリルだけを楽しむのが良い、のか?

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鈴木直枝

評価:星4つ

 これでもか!想定外の応酬が続く。ひとり又ひとり。味方だと思っていた人間が消えていく。わずか2日間の物語だが、昨日から今日の私を振り返った時、同じ時間をこんなふうに生きている人がいる。その既成が衝撃的な一冊だった。
 愛孫を惨殺された資産家が犯人殺害に法外な謝金を付けた。ほどなく「殺されるよりは」と自首したものの、次なるは犯人護送という課題がある。逮捕=犯人殺害ではない。資産家は、犯人が生きていることが許せないのだ。そこでSP登場だ。首相や経財人など要人警護の印象だが、こんな活躍の舞台もあるとは警察官も大変だ。福岡東京間を「無事」送り届けるまでの顛末。想像以上に怖い。思う以上に非情。推理以上の急展開。新幹線?陸路?自分ならの交通手段を画策してみるが、10億という報酬に囚われてしまった輩に、並みの思考回路は通じない。機密なはずのSPの行動をサイトで逐次更新される手法も現代ならではの小説技巧だろう。
 ハードボイルドをぷんぷんと臭わせる中、主人公のSPがこれ以上ないという非常時にあって、癌死した妻の口癖を思い出し笑顔や視線を感じる様子が、せつない。「この人だけは」と願う人が、呆気なく死んでしまう。生きていることの意味をも問いかける佳作だ。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 移送を描いた物語は、あまた存在する。代表選手は冒険小説の金字塔『深夜プラス1』だろうか、景山民夫さんの『虎口からの脱出』なども記憶に新しい。     
とにかくその場合、前提として追ってくる敵は数が多くて強大であるにこしたことはないし、任務は遂行が困難であるほど盛り上がるのがお約束と言えよう。
 さてそこで今回のミッション、血も涙もない殺人犯の護送、福岡から東京まで、但し被害者の親族である財界の大物が犯人の命に十億という桁違いの懸賞金を掛け、更にあらゆるコネを使い護送を妨害する。
金に目が眩んだ一般市民が、警察官が、暴力団員が、そして自分以外のすべての人間が敵となりうる状況の中で、護衛を任された主人公警視庁護衛課の銘苅は、はたして無事任務を完遂することができるのか。
 展開が速い上に緊迫感が持続する。サスペンスの作品としては素晴らしく楽しめ二重丸を差し上げたいでき。しかし読後感だけがそれに反比例して重たくのしかかるのが残念ではある。

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三浦英崇

評価:星2つ

 問題設定の重さに比べて、決着があまりに軽い、ということは、エンターテインメント作品においてはしばしばあります。この作品を読んでいて「構想は壮大なのに、残念ながら打ち切りになっちゃったマンガ」っぽいなーと思ったのは、作者が元・マンガ家さんだから……じゃないわな、おそらく。

 多額の懸賞金をかけられた凶悪犯の護送任務に就いたSP。人間のクズを、自らの命を犠牲にしてまで守らなければならない状況に置かれ、職務への疑問を抱きながら、間断なく襲いかかってくる敵を撃退し続ける。テーマは確かに魅力的だし、戦闘描写も大いに盛り上げてくれたし、味方のはずの警察官や機動隊員ですら牙をむく、そんなひりひりとした緊迫感は、終始伝わってくるのですが……

 それだけに「こんな身もフタも無い最終解答でええんかいっ!」と突っ込みたくなるんです。それまでの展開がなまじっか素晴らしいだけに、正直、この終わり方には納得できなくて。

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横山直子

評価:星5つ

わが街に新幹線「のぞみ」が停車する!
これは当時、地元福山では大きなニュースの一つでした。
新幹線に乗る機会がめったにない私ですら、ほかの誰かに自慢したくなる嬉しさで、その日を指折り数えて心待ちにしていたほどです。
さて、福山駅と「のぞみ」、私にとってのキーワードが出てくるのは物語の中盤。
凶悪殺人犯のボディーガード役となった警察官五人、福岡から東京までの移送手段として、まずは高速道路を使うも行方を阻まれ、次に新幹線を利用するところ。
「おお!福山駅でのぞみに乗り換え!」しばし郷土愛にひたり、すぐさま気持ちを切り替える。
なにしろ全編手に汗握る迫力なのだから。
それにしてもなぜこんなにもただ一人の犯人移送が困難なのか!
それは犯人の首に10億円の報酬が付いていたからだ。
次から次へと息つく暇もないまま、追っ手が忍び寄り犯人の命を狙い、ボディガードの数もだんだんと減ってゆく。
凶悪犯人の命を守ることに疑問を感じながらも、職務を全うする警察官の気持ちがページをめくるごとに叫びになって迫ってくる。
最後の最後、許せないくらいの憤りを感じる急展開に思わず大声を上げてしまった。
「なに?なに?」と娘の声。
読後、タイトルをしみじみ見る。藁ほどの価値とは…。

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