『ボーイズ・ビー』

ボーイズ・ビー
  • 桂望実(著)
  • 幻冬舎文庫
  • 税込520円
  • 2007年10月
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  1. 鉄塔 武蔵野線
  2. 生首に聞いてみろ
  3. プラトン学園
  4. 藁の楯
  5. さようなら、コタツ
  6. ボーイズ・ビー
  7. 日傘のお兄さん
  8. 東京大学応援部物語
  9. 文壇うたかた物語
  10. メールオーダーはできません
荒又望

評価:星3つ

 母を亡くした12歳の隼人はある日、弟が通う絵画教室の近くに仕事場を構える70歳の靴職人、栄造と出会う。
 老人と少年、歳の差を越えた友情物語。兄としてのプレッシャーから淋しさを口に出せない健気な隼人と、他人との関わりをなるべく避けてきた偏屈者の栄造が、ほんのすこしずつ心を通わせる。何の共通点もない2人が出会い、とまどいながらも交流を深めていくことで、がちがちに固まったそれぞれの鎧がほどけていく。いってみれば定石どおりの展開で大きな意外性こそないけれど、安心して楽しめるというのも、また良いもの。
 自分だってまだ子供なのに必死で弟を守ろうとする隼人はいじらしく、ぶつぶつ言いながらも隼人の力になろうとしてしまっている栄造は微笑ましい。そして最後の場面の、陽だまりのなかにいるような温かさ。殺伐としたストーリーに疲れたときなどに、この優しく善良な物語がおすすめ。

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鈴木直枝

評価:星3つ

 さらりと読めるから、おじいちゃんと少年の心通わせ具合が鍵となる物語だから、児童書と決め付けるのは早合点だろう。
 私は2回通読した。1度目は「なんだ。こんな感じね」。悩むことなく悶えることなく淡々と結末まで運ばれてしまった。「しまった。これでは書評が書けない」と再読したところ、引っかかりの殴打をくらってしまった。思春期の子どもを持つ親として怠けてないか?見返りなしに誰かのことを思えるか、貴方のために何かをしてげたいと湧き上がる気持ちの欠如、そして、このまま年を重ねていつか死んじゃっていいのかよ<自分。
 「県庁の星」では、先の読める展開ながら、がっつんがっつんの気迫に、熱塊こみ上げるものがあった。本書は対極。子どもを残しての母親の病死や、その友人家族の不協和音などはある。が、著者の主眼は、その非常事態にはない。小学生の目線で毎日を刻んでいく。大人になって、見繕うことが上手くなったけれど、人生のジグゾーパズルは、ピースの1つや2つ足りないくらいがちょうどいいのかもしれない。不足分を補おうと踏ん張ることが、案外「ボーイズ・ビー」の続きになるかもしれない。

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藤田佐緒里

評価:星5つ

 私はこの小説が大好きです。老人と子供のふれあいを描くという、児童書的でステレオタイプな設定を使ったからこそ出来上がった、とても淡い、泣きたくなるようないい小説です。私はどちらかというと、この小説の主人公のような純粋で誠実な子供ではなかったから、それから彼のようなつらい経験もしなかったから、羨ましい気持ち半分、共感半分、というところでとても楽しませてもらいました。
 母親を亡くした12歳の隼人は、母がいなくなってから変わっていく自分の周囲の状況をうまく飲み込めないでいます。そんなときに出会ったのが、弟の絵画教室のそばにある靴屋のいじわるじいさん。何かを相談するというわけでも、教えを請うというわけでもなく、ただ共に時間をすごすという温かさが、お互いの心の塊をだんだん溶かしていくのです。その、ある意味ありきたりな設定を、ありきたりだと思わせない力がある本当に魅力的な作品です。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 何と言っても真っ赤なアルファロメオがかっこいい。そいつは靴職人栄造の自家用車なんですけどね。イタリアの靴への憧れがそのまま国への羨望となった栄造が、還暦の祝いに自ら購入したという車。
 思えばこのアイテムの登場で、はや勝負がついていた感がある。かっこいいじゃないかジジイ!と僕の左脳から前頭葉に向けて赤いアルファロメオが駆け抜ける。
 かたくなに他人と交わることを嫌って生きてきた七十歳の靴職人栄造と、母を亡くし、父を気遣い、弟を労りながら今にも弾けそうに日々を送っていた小学六年生の男の子隼人、二人の人生が交差し物語は転がり始める。
最初は反発しながら、それでもしだいに互いを求め合うようになる歳の差58歳の友達。いつしか二人の心の隙間が埋まりだしてゆく。
 心憎いほどに痛いところを付いてくる、僕にとっては見逃せない球筋、飛びつかずにはおれない絶好球の物語だった。

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三浦英崇

評価:星3つ

 この前「本音を思わず語っちゃって、少し後悔しました」って同僚から言われて、何とも複雑な気分に陥った俺なのですが……ええとそれは、俺が本音を語るに値しない相手ってことですかね? いやまあ確かに「ぶっちゃけ」とかいう品のない言葉が蔓延してる割には、真情を吐露する場面なんかめったにないのが実際のところですが、そんな諦めを一喝してくれそうなのが、この作品。

 複雑な家庭事情を抱えて一人悩む小学生・隼人と、職人気質が過ぎて孤独な日々を送る老人・栄造が、次第に心を通わせていく過程。本音と本音をぶつけあうことで、年齢差や世間のしがらみやその他もろもろの面倒をなぎ倒していく爽快感がたまりません。

 俺はしばしば本当に伝えたかったことを冗談に紛らわせてしまうため、嘘つき扱いされたり、まともに相手をしてもらえなかったりすることがしばしばですが、たまには彼らのように、真っ正直に本音をぶつける必要があるのかな、と。

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横山直子

評価:星5つ

12歳の少年のやさしく、そして大きく強くなりつつある心のありようが、細やかな読みやすい筆さばきで綴られる。
母親を亡くしたばかりの隼人、本当はわんわん泣きたくてたまらないのに、弟の前では健気にお兄ちゃんを頑張っている。
なにしろ父親は消防士として毎日大変な仕事をしているのだから心配はかけられない。
壊れそうな心を抱えて、必死に毎日をこなしていた隼人に一つの出会いがあった。
それは外車を乗り回すおしゃれな靴職人のおじいちゃん。
年齢は70歳と、二人の間にはかなりの年齢差があるものの、最初の出会いからなんだか惹かれるものがお互いにあった。
このおじいちゃん、職人気質で腕はめっぽういいのに、人付き合いはさっぱり。
ところが隼人と触れ合うようになってからゆるりと変わっていく。
「栄造はぐっときた。くそっ、俺はこんなことで感動するマヌケじゃないぞ」
自分の気持ちの変化にとまどう栄造さんが、なんともいいなぁと思った。
それにしても、兄弟そろって思い出の母親のプリンの味のくだりで、ムムムとうなりましたぞ。

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