先日、夫と喧嘩まではいかないが大きな争いの火種になりそうな小競り合いをした。その数日後から私が４泊５日の一人旅に出かけるタイミングでの出来事。私がこのまま帰らなくても平穏に暮らせよ、なんて憎まれ口を叩いてみたりしながら最寄りの駅まで送ってくれた夫の車から飛び出した。目的地に到着すると小競り合いのことなどすっかり頭から離れ完全に舞い上がっていたが、人生初めての一人旅に当初盛大な期待を胸に抱いていた私は慣れない都会のコンクリートジャングルで毎日のように迷子になり、滞在期間中何度も予定を切り上げて早めに帰ろうかと何度もみどりの窓口の前まで足を運んだ。
　いつもガラガラな地元のみどりの窓口と違い、常に人で溢れた都会のみどりの窓口は離脱することすら許してくれなかった。

　離脱することを諦めてホテルまでの帰り道の途中に購入した美味しそうなお菓子と駅弁を一人寂しくホテルで食べながら、人がたくさん溢れたこの土地で私は独りぼっちなんだと悲劇のヒロインごっこのように泣いてしまった。楽しい気分を作らねば！と旅行鞄に大切に入れていた本が今回紹介させていただく武内昌美さんの『泣き終わったらごはんにしよう』。旅行鞄に詰めたのは他でもない私。旅行の準備をする時に一等幸せな気持ちになれる本を持っていこうと持って来ていたが、ホームシックの私には栄養過多だった。

　主人公の中原温人は彼女や自分の家族、会社の同僚など周りの人をとにかく大切に想える素敵な料理男子。仕事でのトラブルで涙する人、家族との関係に思い悩む人が温人を次々と頼ってくるのだが、その時その時に温人が振る舞う料理はお腹も心も空っぽになった人を満たし、決して説教臭くない優しいアドバイスを送り読んでいるこちら側もハッとさせられる言葉をくれる。本の裏表紙に書かれているあらすじに「読めば大切な人とごはんが食べたくなる」という言葉は嘘偽りなく事実だ。心もお腹も満たしてくれる８作のショートストーリーのどの話もきっと私たちに身に覚えのある話で共感できる。読めば必ずあなたにとっての大切な人を思い浮かべずにはいられない。

　帰りの新幹線までの待ち時間、カフェで美味しそうな苺のタルトを注文するのをぐっと我慢し、夫の好きそうなお菓子などお土産を見て回るのにたっぷりと時間を使った。今回の旅の中でも１位２位を争うほどの大変充実した時間だ。元気だけは売るほどあると思っていたが、夫がのびのびとさせてくれているから日々が充実して元気盛りだくさんだったことに改めて気付けた。お土産がたくさん入った紙袋を持ちながらいつも重たいものをさっと持ってくれる夫のことを考えながらの帰り道、珍道中な旅の話を面白おかしく喋り買ってきたこのお菓子を食べながらお茶をすることを楽しみにしながら新幹線が早く最寄り駅に着くことを願った。