『夫の墓には入りません』垣谷美雨

●今回の書評担当者●ゲオフレスポ八潮店 星由妃

  • 夫の墓には入りません (中公文庫)
  • 『夫の墓には入りません (中公文庫)』
    垣谷 美雨
    中央公論新社
    748円(税込)
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 文庫化される際に改題された作品で「嫁をやめる日」が文芸書として発売された時のタイトルです。

 著者の垣谷美雨さんは10月30日公開の『老後の資金がありません』『姑の遺品整理は、迷惑です』『定年オヤジ改造計画』など高齢化社会などの身近な問題を題材に軽妙にかつリアルに読み手を飽きさせずに読ませてくれる。

 タイトルだけ見て読んでみたいと思わせてくれる作品が多く、実際に購読者は見事に私のように主婦層が多い。

 この『夫の墓には入りません』はなんて衝撃的なタイトルだろう!って思っている男性は何人ぐらいいるのだろうか? 私ぐらいの世代になると口々に「死んでまで嫁でいたくないからせめてお墓は別がいい」と良く聞く。

 夫が亡くなった時点で、自分は誰の妻でもなくなり、晴れて自由の身だと思うのが当たり前だ。が、どうも違うらしい。今までもこれから自分自身が亡くなるまで「◯◯家の嫁」なのだ。それも、夫が生きていた頃より、もっとずっと明確に「嫁」なのだ。

 日本は土地が狭く、ましてやお墓には代々の身内が何人も眠っている。死の世界ではどんな人間関係になっているのか? もちろん死んだ事が無いのでわからないが結婚したのは相手の事が好きなのであって相手の親の面倒をみたいからではない。都合のいいようにしか嫁さんをみられないのは姑もまた同じように都合の良い嫁になっていたからだろう。

 この本を読んで夫婦の在り方、互いを想う思いやりの仕方、夫の親族との付き合い方など、とても興味深く考えさせられました。

 主人公の「夏葉子」は人が良すぎると思うがまだまだこの国での嫁の立場は「夏葉子」と同じなのが実情だ。夫を亡くした女は世間から甘く見られるし誰も助けてくれないのだ。助けてくれたと思ったのは最初だけで結局はいいように「嫁」としてコキ使われるだけなのである。

 私の主観的の感覚かもしれないが地方に行けば行くほど「都合のいい嫁」が多く都会は逆に嫁の方が立場が強くなっている気がする。

 なぜならば都会の嫁は専業主婦が少なく働きに出て生活費を稼いでいる為、「◯◯家の嫁さん!」ではなく「◯◯さん!」と1人の人間として扱われているからだ。経済的にも嫁が働かなければ成り立たない程、重要なポジションで家族を支えている。

 もう『都合のいい嫁』でいるのを止めてみませんか! 「夫の墓」だから入りたくないと思うのではなく胸を張って「自分の入るべき墓」だと考え方がを替えればいいのだ。

「夫の墓には入りません!」と心の中で密かに思っている全国の奥様方に是非、勇気を持って本にはカバーをかけず堂々と読んでもらいたい1冊である。

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ゲオフレスポ八潮店 星由妃
ゲオフレスポ八潮店 星由妃
岩手県花巻市出身。課題図書は全て「宮沢賢治作品」という宮沢賢治をこよなく愛する花巻市で育ったため私の読書人生は宮沢賢治作品から始まりました。小学校では毎朝、〔雨ニモマケズ〕を朗読をする時間があり大人になった今でも読んでいて素敵な文章があると発声訓練のごとく、つい声を出して読んでいる変な書店員です。