『増補改訂 ぼくの沖縄〈復帰後〉史プラス』新城和博

●今回の書評担当者●HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎

  • ぼくの沖縄<復帰後>史プラス (ボーダー新書)
  • 『ぼくの沖縄<復帰後>史プラス (ボーダー新書)』
    新城和博
    ボーダーインク
    1,320円(税込)
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 阪神淡路大震災があったのは私が高校生の頃です。家にいた人間も猫も大パニックでしたが、平日だったので学校に行きました。当然のことながら閉まっていました。あとから新聞などで災害の状況が明らかになると、その被害の大きさに、徐々に驚きが大きくなりました。何が起きているのか分かっていなかったのです。

 これは私個人の記憶であり記録された出来事でもあります。歴史の証言者というほど格好のいいものでなくとも、やはり「あのときああだった」と語らずにはいられません。

『増補改訂 ぼくの沖縄〈復帰後〉史プラス』の著者、新城和博さんは1963年那覇生まれ。沖縄の出版社であるボーダーインクの立ち上げに携わりました。新城さんが1972年からの沖縄を年代記的に綴ったのがこの本です。

 1972年から始まるのは沖縄の「日本復帰」がその年だからです。戦後アメリカ統治下からの「復帰」により通貨、交通など大幅な変化が起こりました。変化はそれだけにとどまらず現代にいたるまで沖縄は様々なものに揺り動かされてきています。「復帰」後の沖縄では沖縄海洋博覧会や海邦国体開催といったイベントがあり、具志堅用高や安室奈美恵といった沖縄県人の活躍があり、首里城公園や美ら海水族館といった大型観光施設のオープンがありました。それらについても章として書かれています。

 しかしながらもっとも読まれるべき章は「10・21県民総決起大会」であり、「沖国大に米軍ヘリ墜落」であり、「教科書検定撤回9・29県民大会」なのです。沖縄がどのように扱われてきたのか、個人として沖縄の中から見つめ続ける新城さんの言葉が胸に刺さります。「二〇一二年 オスプレイ配備」という章ではこう書かれています。

「浦添にある、知り合いのブックカフェ『Bookish』では、夜、窓越しにオスプレイが飛行する姿を何度も見たという。店のカップが振動するほど、その距離は近かったそうだ。確かに不気味な話だ。これが復帰四〇年の年に、アメリカと日本が沖縄に対して行ったことだった。

 この11年後の2023年12月、米軍は鹿児島県の屋久島沖で起きたオスプレイの墜落事故を受け、同機の飛行を一時停止すると発表しました。オスプレイが配備された当時、上記のように書いた新城さんは飛行停止をいったいどのように感じ、語るのでしょうか。

 そんな中、沖縄県内では新しい動きとして1990年代生まれの20代~30代によるコラムプロジェクト「あなたの沖縄」という取り組みが始まっています。書き手それぞれの体験を通し沖縄についてコラムを綴る活動で、プロジェクトと同名の「あなたの沖縄」という名のZINEも発行されています。

「沖縄」とひとことで言っても人によって大きくとらえ方が違い、複数の個人がそれぞれ語ると思いもかけない視点が出てきます。私が感銘を受けたのは「アメリカンドーナツ」というコラムです。広大な普天間基地が真ん中に存在し、それを取り囲むようにドーナツ状に市街地が広がる宜野湾市。そこで物心つく頃から育った筆者は
「申し訳ないのだが私はお隣の浦添や那覇が少し苦手だったりする。(...)なにが苦手って『市の中にまで市街地が詰まっている!」ってところだ。」
 と書いています。これを読んだ時の驚きをどう表せばいいのかいまだにわかりません。しかし、これを読めて、知ることができてよかったと思っています。

 私は私をどう語るのか。沖縄と出会ってからずっと考え続けています。

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HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
大阪生まれ、沖縄在住。2006年から書店勤務。HMV&BOOKSには2019年から勤務。今の担当ジャンルは「本全般」で、広く浅く見ています。学生時代に筒井康隆全集を読破して、それ以降は縁がある本をこだわりなく読んでみるスタイルです。確固たる猫派。