WEB本の雑誌

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4月27日(火)

 とある書店で、「GWの給料日明けで売り上げは、どうですか?」と何気なく質問したら「いつもの2倍で、人員も増員しているの」と一瞬耳を疑い、そのまま腰が抜けてしまいそうになることを言われる。

 ついに出版不況脱出なのか…と思って小躍りしそうになったが、話を聞くとしっかり種も仕掛けもあって、実はその種と仕掛けに再度ビックリ。

 このお店はあるショッピングセンターに入っている書店さんで、このGW期間に限り、ショッピングセンターのポイントカードが2倍つくキャンペーンを行なっているそうなのだ。その期間になったらいきなり本が売れ出して、バブルの頃のような勢いで、お客さんが山のように本や雑誌を抱えてレジにやってくるという。

 この期間中、通常100円の購入で1ポイントが倍の2ポイントになるらしい。そしてこのポイントがある数まで溜まると商品券がもらえる仕組みとのこと。

 再版制度がもっと強固に運用されていた頃は、このようなポイント制に対してかなり風当たりが強いこともあって、ショッピングセンターやデパートのなかの書店さんでも、ポイント制から外れることが多かった。しかし、ここ数年の出版不況と、つい最近出た公正取引委員会から「もっともっと消費者のサービスを尊重し、ポイント制度や時限再版本の活用をしなさい」的なコメントが出たため、導入する書店さんが増えつつあるようだ。

 それにしても…。
 こんなことで本が売れ出してしまうなんて、ちょっと僕には想像つかないことだった。なぜ、いつも買わないのに、たかだかポイントが2倍になる程度で、一斉にサイフのひもが緩くなってしまうのだろうか。特典の商品券の割合というのも、僕が見た限り、それほどおいしい割合でもなかったから、なおさら不思議だ。

 そのことを次に訪問した書店さんで話すと、「杉江くん、今はほんとにシビアなのよ、特に女性はそういうことに敏感なの。スーパーやドラッグストアの特売と一緒で、少しでも得する方に動く傾向がものすごく強くなってるのよ」と言われる。そうか…、そんなものなのか…とひとり感心していると
「あのさ、杉江くんひとつ勘違いしていると思うんだけど…」
「えっ、何ですか?」
「そのお店が2倍売れているっていうのはね、お客さんの購買力が上がったってわけじゃなくて、いつも他の書店で買っていたものを、そこで買っているって可能性が高いのよ。全体的な書店の売り上げとしては、あんまり変ってないの。だからね、うちはここ数日、落ちてるの…」

 うーん、商売というのは難しい。

4月26日(木)

 綾瀬駅で清算しようと列に並んでいたら、こんこんと肩を叩かれる。落とし物でもしたのかとあわてて振りかえると先月まで契約社員で働いていた渡辺くんが立っている。約1ヵ月ぶりの再会を祝してビールでも…と思ったけれど時はまだ1時過ぎ。さすがにそれはまずいと駅前にあったドトールでアイスコーヒーで乾杯。

 たった1ヵ月でも何だか無性に懐かしく、思わず長話。お互いのお気に入り本で、今年待望の新刊が出るという噂の原リョウ・沢崎シリーズが出たらまた会おうねと約束して別れる。

 その後、仕事に戻り、駅前のY書店さんを訪問。すると今度はT店長さんからお茶に誘われ、先ほど出てきたドトールに舞い戻る。そしてまた同じアイスコーヒーを注文してしまう。うーん…。せめて違うものを頼めば良かったと、だるくなりだした胃をさすって後悔するが時既に遅し。Tさんから本の雑誌の昔話を聞いて胸を熱くする。

 常磐線を細かく移動し、最後の書店さんでまたもやお茶に…。書店さんはいつも忙しく仕事をしているので、こんな風にお茶に誘われることがそうそうあるわけでもなく、また迷惑になるんじゃないかとこちらから誘うこともほとんどない。何だか今日は非常にめずらしい展開だ。

 おとぼけ頭のバカ野郎(僕のことですが)は、またもやここですっかり今までのことを忘れてアイスコーヒーを頼んでしまう。ひと口目を飲んだところで胃がブルブルして思い出すが、またもや時既に遅しで。つらいけれど、さすがに水で薄めるわけにもいかず、隣りの女性が飲んでいたオレンジジュースを思わず奪いそうなるがじっと我慢。

 コーヒーは一日一杯で充分。今後は気をつけよう…、でもきっと忘れるんだろうなあ。

4月25日(水)

 新宿S書店Fさんを訪問したら、顔見知りの営業ウーマンS出版のSさんにバッタリ。かつては出版営業に女性は向かないと言われたが、なんのなんの。今は女性の方が多いくらいで、夜の飲み会も女性の方が元気が良いくらいだ。うーん、男として負けてたまるか…なんて考えようと思ったけれど、性別なんて関係ないか。

 Sさんと情報交換しつつ、先日の当欄で書いた横浜S書店Hさんの退職の話をしたら、僕と同じように肩を落としてガックリされていた。やっぱり営業マンはみんなこういう別れがつらいんだ…。

 Sさんと話していて、実は気づいたことがひとつあって、それはSさんにHさんの名前を出したとき「Hさんって○子さんですよね?」と突然聞かれたことなのだ。僕は営業していて、名刺交換をしてもよほど変ったヨミ方をする人以外、下の名前を覚えていない。名字だけが頭のなかにインプットされ、その後の訪問では、「○○さん、こんにちは」と名字を呼んで挨拶することになる。

 ところがこのSさんのように下の名前をしっかり覚えている営業マンがいて、よくよく思い出してみると、同じく顔見知りの営業ウーマンTさんと話していたときも、お互いの会話のなかで出てくる書店員さんを僕は名字、Tさんは下の名前で話していたことがあったのだ。

 うーん、女性は人と会ったときに、下の名前をインプットするものなのかなあ。
 よくわからないけれど、自分の努力が足らないように気がして思わずうな垂れる。

4月24日(火)

 発行人の浜本と顔を合わせたら、いきなり「ねえねえ、米びついらない?」と聞いてくる。自宅の模様替えをしたところ不要になったとのことで、どうも捨てるのはもったいないと感じているようだ。
 しかし、僕の家には、すでにあるので断ると、
「でもね、電子レンジも乗るし、炊飯器も乗るし、すごく便利なんだよ」と妙にしつこい。僕の家にあるのも同じようなラック型なので再度断ると、今度は引越し間近の松村に寄っていく。何だか僕もその米びつの行方が気になり、一緒に松村のところについていく。

「ねえねえ、米びついらない、電子レンジも炊飯器も乗るんだよ」と浜本。
「いりません。今度の部屋も狭いんです、キッチンにそんなもの置けません」ときっぱり松村。
「でもね、一人暮らしでも米は、ちゃんと米びつにしまわないとダメだよ、夏は米びつ先生を入れて虫除けしてね。それに、この米びつには、1・2・3ってボタンがあって、それを押すとその分量だけお米が出るんだよ。何で、1・2・3だかわかる?この組み合わせですべて出来るからだよ。」と突然米びつ営業マン化した僕。
「いりませんたらいりません!」と忙しそうな松村がぶちギレ、僕と浜本はうな垂れつつ、松村から遠ざかる。

 近くを通ったパートの石山が「何を話しているんですか?」と聞いてきたので、またもや米びつの押売りをふたりで始める。
 すると、何と石山家には米びつがなく、前から欲しかったと言うではないか!ついにあわれな米びつの貰い手が決まり、僕と浜本はホッと胸をなで下ろす。良かった、良かった。

4月23日(月)

 とても気分良く出社する。なぜなら僕が一番好きなサッカー選手のひとり中田英寿が約1年ぶりにゴールを決めたから。外国人枠とライバルに阻まれ、思い通りに出場できないなかで、あのレベルを維持できる中田はやっぱりすごい。

 カフーへの気持ちの悪いパス(凄すぎるパスが通ると僕は吐きそうになる)が通り、その後、実はここを一番評価して欲しいところなんですが、約40メートルの爆発的フリーランニングをこなしゴール前に詰める。右足のダイレクトボレー。うーん、書いているだけでゾクゾクしてしまう。最高だ!

 何度もあのシーンを思い出しつつ、ニヤニヤ仕事をする。今日は自信の1冊『日焼け読書の旅かばん』椎名誠著の搬入日なのだ。著者であり編集長である椎名と単行本編集の金子がふたり揃って大満足した1冊。営業マンだってやるときはやるんだというところを見せなくては!と勢い良く会社を飛び出す。自分のことながらビックリしてしまうほど盛り上がっている。これも中田効果か・・・。

4月20日(金)

 5月号で完全踏破を報告した池袋のジュンク堂書店を訪問。副店長のTさんと「店員さんはきっと2万歩近く歩いているんじゃないか」と話す。そうなのだ、あれはただ、棚をひと通り見ただけで、お店で働いている人達は、あっちへ棚差し、こっちへ誘導とウロウロしているから僕の何倍も歩いているはずなのだ。

 そう言えば、昨日訪問した横浜のM書店Yさんも「仕事で万歩計をつけていると2万歩越えるんだよ」と話していた。いやはや書店さんも肉体労働なのだ。

 さて、ジュンク堂に話を戻して、Tさんに「最近面白い本ないですか?」と聞いたら大絶賛で薦められたのが『体の贈り物』レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳(マガジンハウス)だった。
 Tさん曰く、「言葉にするとすごい陳腐になっちゃうし、うまく説明できないんだけど、とにかく帯と訳者あとがきどおりいい本なの。もし面白くなかったら私が責任取るから読んでみて」とのこと。読書眼のスルドイTさんがこれほど誉めるのもめずらしいのであわてて名物1階の集中レジにて購入。

 早速帰りの電車のなかで読み出す。いきなりぶっとんだのは簡潔明瞭な文章力。柴田さんの訳がいいのかそれともこの著者がうまいのか、多分両方なんだろうけど、とにかくスゴイ。ひとつひとつの行ないを描いていくだけなのにその奥深さが伝わってくる。もちろん話の方も(エイズ患者のホームケアの話)悲しくて、切なくて、暖かくて心のなかにあるすべてを揺さぶられるような内容で、思わずいろんなことを考え込んでしまう。ほんと言葉にすると陳腐だなあ。でも、Tさんがあれほど絶賛する理由がよくわかった。

 多くの人に読んで欲しい1冊。

4月19日(木)

 横浜営業に出かける。横浜の書店さんは一件一件、切磋琢磨していてやる気もあるし、面白い人がそろっていて、営業ルートのなかで非常にやりがいのある地域。月に1度の訪問を僕は楽しみにしている。

 S書店のHさんを訪問。
「ちょうど良かったぁ、電話しようと思っていたんですよ」とうれしいことを言われる。
何だ?注文か?と喜んでいたら、続けて出てきた言葉に突き落とされる。
「実は、今月いっぱいで退職することになって…」

 その後は気が動転してしまって、Hさんとの最後の会話なのにうまく話が噛み合わない。気もそぞろというか、約1年くらいのツキアイで交わした会話、態度などが頭のなかをグルグル廻る。

 例えばこんなことがあった。
 このS書店さんのすぐ近くの地下街にあるM書店さんは同じ系列のお店で、ある日そちらの担当のYさんと話をしているとき、お店にHさんから電話が入った。僕はピーンと来て、電話に向うYさんに「在庫移動の電話だったら、僕これからHさんの所に行きますから持っていきますよ」と伝えた。

 電話に出た、Yさんが僕を見て笑う。予想通りだった。Hさんのお店で未入荷だった新刊を手に入れたくて電話してきたのだ。チェーンの書店さんでは、このような形で支店間の在庫をやりくりしているところが多い。

 移動する本を袋に詰めながら、Yさんは恐縮して「杉江さんに申し訳ないからなんか既刊の注文しようか?」と言ってくれた。でも僕はそんなつもりで申し出たわけではないと断り、10冊の本を抱えてHさんのお店に向った。

 多分、他の営業マンから見たらなんてバカなことをしている営業なんだろうと思われるかもしれないけれど、僕はものすごく楽しかった。本10冊の重さ以上に心は軽くなった。

 あの時、10冊の本を受け取り、「ありがとう、すごい助かりましたよ」と笑いながら感謝してくれたHさんが、あと数日で退職するという。個人の問題なのだから、立ち入って退職する理由なんて聞かなかったし、仕事をやめることは別に悪いことではないのだから意見することもない。

 ただただ、今までの感謝と、もし今後この業界に戻ったら絶対連絡を下さいと寂しさを隠せずに、ボロボロになって伝えた。そして元気でと…。

4月18日(水)

『炎のサッカー日誌 2001.5』
 久しぶりのJリーグ平日開催日。今日はナビスコカップの1回戦2試合目、山形戦なのだ。チケットと真っ赤なユニフォームをカバンに詰めて、取次店廻りに出かける。こんな日に持ち物検査などされたら赤っ恥をかくことだろう。

 とにかく仕事はしないといけないので、『日焼け読書の旅かばん』を20冊ほど持って、飯田橋のT社、O社、御茶ノ水のN社と廻り、午前中が終る。お昼を御茶ノ水で食べた後、水道橋から都営三田線に乗って志村坂上のK社へ。取次店廻りはこれで終了。20冊の本が重く、右肩が痺れるように痛い。またT社とK社が駅から遠いため足が棒のようになる。でも、今日はサッカーが見られるんだからがんばろう。

 そのまま埼玉を営業して、直帰と考えていたのに、とんでもないことを思い出す。そうか!今日は部決日だから、印刷会社にFAXを入れなければいけないんだ。用紙も何もかも会社にしかなく、これはいったん会社に戻らないことにはどうにもならない。笹塚から駒場競技場までいったい何分かかるんだ?今までいつも直帰で消えていたから予想がつかない。思わず途方にくれる。

 気を取り直し、予定を都心営業に変更し、高田馬場の三省堂書店で開かれている「本の雑誌と仲間たち」フェアを見に行く。担当のTさんが、本の雑誌の大ファンなので気合を入れた看板、ポップ、帯などを手製で作ってくれて思わず感動。4人連名のサイン本もなかなか好調に売れているようでひと安心。フェアが終ったら一杯飲みましょうと約束してお店を後にする。

 会社に戻り、『日焼け読書の旅かばん』の部決を行なう。するととんでもないことに某社の部数が本日でないことが判明。だったら僕は会社に戻る必要もなく、いまさら、終業時間前に会社を飛び出すわけにもいかず、うーん、勘弁してくれと涙する。駅スパートで調べると笹塚から駒場競技場まで約1時間ほどで着くようだ。これなら、6時にぴったりに仕事を終え、どうにか開始数分で着くだろう…。目標到着時刻7時。

 10号通り商店街を駆け抜け、笹塚駅に到着。息も絶え絶え、ホームで電車を待つが、こんな日に限って全然来ない。特急電車が立て続けに通過するばっかりで、あと一駅で新宿なのに電車に乗れない。最悪。

 結局10分ほど待たされて、各駅停車が到着。が、今度は新宿駅の埼京線の乗換えがうまくいかず、またまた10分ほどのロス。ああ、こんなんじゃ前半終了してしまうじゃないかと怒りながら電車に揺られていると、コツンコツンと僕の頭を何かが叩く。今日という今日は非常に気持ちが荒れているので、「なんだてめぇ!」と怒鳴りつけようと後ろを振り返ると、それは同じように慌てた顔をしたサラリーマンが抱えているレッズの応援旗だった。これじゃ仕方ない。

 どうにかこうにか7時に浦和駅に到着し、さあ、タクシーを飛ばそうと思ったら、今度はタクシー待ちの行列、ざっと20人。ああ、最低の一日だと半分あきらめ、それでも試合が動いていないことを祈りつつ、列に並ぶ。

 それにしても疑問に思うのは、どうしてみんな駒場に向かう人なのに相乗りしないのだろうか?声をかけあい、4人で乗れば運賃も安く済むし、タクシーの回転がよくなるから、早く着くはずなのに…。でも誰もそんなことを言い出さず、ひとりひとりタクシーに乗り込む。効率が悪い。

 8分ほどタクシーを待って、競技場へ。とにかく急いでくれと運転手にお願いするが飛ばしようもない市街地なので諦めてくれと言われる。仕方がない。予定よりも15分ほど遅れて、やっと到着。おつりも受け取るのが面倒で、1000円札を渡して、入り口へ走る。その瞬間、長い笛の音とともに
「ウォーーーーーーー」という大歓声。
えっ?もしかして点が入っちゃったの?勘弁してくれよ。しかし、それにしては、歓声の後が静かだ。いつもならゴールの後にレッズコールなんてのが始まるはずなのに、妙に大人しい。何だ?何だ?と思いつつ、入り口で荷物検査とチケットを渡し、通路を走る。そしてまた、
「ウォーーーーーーーー、浦和レッズ!!!」
今度はレッズコールつき…。しばらくして場内アナウンスが続く
「前半15分、浦和レッドダイヤモンズ、トゥットのゴール」

 そう、始めの大歓声はPKを取った歓声で、次はそのPKを入れた歓声だったのだ。

 悔しくて泣きそうになりながら、今度は落ち着いて階段を登る。途中ビールを2杯買って立て続けにあおる。その後は悔しさを忘れようと、ひとり大声で応援する。

 とにかく結果は、3対0で圧勝し、どうにか2回戦に駒を進めることができた。まあ、いいか。

 今日の教訓*平日開催日は絶対埼玉営業直帰コースを取ること。何か仕事があったとしてもそんなものは翌日でもどうにかなるんだ!

4月17日(火)

 夜遅くまで『日焼け読書の旅かばん』の見本が届くのを待つ。金子とふたりソワソワした気持ちで煙草を吸い、「うまくあがっていればいいんだけどなあ」などとボソボソ話す。校正や束見本などで、だいたいの感じはつかめているものの、やっぱり現物を見るまで不安と期待が入り混じる。特に今回は金子と椎名が気合を入れて編集していたので、その想いが一層強い。

 8時頃、印刷会社D社のKさんが、出来たばかりの本を持ってやってきた。挨拶もそこそこに茶紙で10冊づつ包まれた梱包のむしり取る。営業マンとしてまず確認すべきことは、コードや定価の間違いがないかということのはずなのに、今日はそれどころではない。表紙をじっと見つめ、中をめくり、本の感触を楽しむ。
「いいんじゃないですか。」と感想をもらすと、金子も満足げに煙草の煙を吐き出した。
「うーん、苦労したからなあ。」

 帰りの電車のなかでじっくり読む。連載、そしてゲラの段階で読んでいるものなのに、まったく印象が変るのは本の持っている力なのだろう。

 どの単行本にも著者と編集者とそして営業マンの想いがこもっている。本屋さんの店頭でその想いが少しでも伝われば、こちらとしてはうれしい限り。

4月16日(月)

 昨夜、ぼんやり中山美穂とトヨエツの新ドラマ『LOVE STORY』を見ていたら、書店さんが出てきて思わずここはどこだ?と考え込んでしまう。これはもう完全に職業病だと思うけれど、テレビに映ったお店を店内風景だけで「どこどこのお店」と当てるのが結構楽しい。
 後日、その予想のお店に訪問して、「もしかして○○の撮影に来ていませんでしたか?」なんて聞いて答えがわかり、これがピッタリ当たると、思わず「俺もなかなかなもんだな」なんてひとり悦に入ってしまうのだ。

 昨日の『LOVE STORY』は僕の推測によると、新橋の文教堂書店さんに見えたんだけど、どうかなあ…。次のシーンがいきなり渋谷だったからあんまり自信がないけれど、あの喫茶店が入っているお店が他にあるんだろうか?なんてことをせっかくの休みに考えているのは、ほんとに病気だ!

 午後から営業に出かけ、新宿のY書店さんをのぞいたら、大手出版社の新入社員が研修に来ていて、品出しやらレジの手伝いをしていた。たった2週間とはいえ、自分たちの作った本(これから作るもの)が、どのように入荷し、並べられ、そしてお客さんに買われていくのか、店頭で研修するのはものすごく良いことだと思う。是非、この研修の気持ちをずっと忘れないで本を作って欲しいと伝える。

 それにしても本の雑誌社に新入社員は入らないのだろうか?何だか毎日同じ顔ぶれで飽きて来てしまったから、少し刺激が欲しいのだ。事務の浜田にそのことを伝えると、「うちは欠員補充だけだから、杉江さんが辞めれば、新しい人が入ると思いますよ」とシラーっと言われる。うーん、それじゃ僕が会えないんだけど。

 まあ、チビ会社だから仕方ない。先日、本の雑誌社は何人社員がいるのか?メールが来ていましたが、現在社員は、経理の小林、事務の浜田、本の雑誌編集の松村、単行本編集の金子、そして僕の5人。あとは発行人の浜本に、編集長の椎名と取締役の沢野で総勢8人で、ここにパートの石山さんと助っ人大勢が加わって、本の雑誌を作っています。

 そう言えば、ここ数年書店さんに新入社員が入ったという話もあまり聞かないなあ。

4月14日(土)

『炎の営業日誌&toto日誌 2001.4』

 熱が出ようが、病気になろうが、我が浦和レッズの試合には行くのだ…と気合を入れていたものの、どうもつらい。これでまた熱がぶり返しでもしたら、大変なので観戦仲間の吉田さんに電話し、指定席のチケットと交換してもらう。有り難いかぎり。

 試合開始30分前に余裕で駒場入りし、レッズ人生初の指定席観戦。おお、すごい静かじゃないですか!まばらな拍手に小さなため息、野次も呟き程度だ。そんななか、ひとり遠吠えしている僕が浮いているぞ…。まさか生観戦でタオルを口にくわれるわけにもいかず、これはつらい。

 試合の方は、ボロクソ審判にやられ、1対3で敗北。いやはやほんとミスジャッジの雨あられ。うーん、こういう試合が一番頭にくるもんで、この怒りはどこへ向けたらいいんだろう…。とりあえず、自転車を思い切り飛ばして、夜の浦和を疾走する。

『toto日誌』

 うーん、先週の1等4万円だかも外れてしまった。一番悔しかったのは、でっぱたお腹をゆさゆさ揺らしながら目黒さんが寄ってきて、「なあ、杉江、3等の300円だかは、当たったんでしょ?」と嫌味を言われたことだ。チクショー!

<先週の買い目>
札幌  VS 東京V 東京Vの勝ち(外)
鹿島  VS 磐田  磐田の勝ち(当)
柏   VS 広島  柏の勝ち(当)
F東京 VS 名古屋 名古屋の勝ち(当)
横浜M VS 浦和  横浜Mの勝ち(外)
清水  VS 神戸  清水の勝ち(当)
G大阪 VS C大阪 G大阪の勝ち(当)
福岡  VS 市原  福岡の勝ち(外)
仙台  VS 京都  勝ち、負け、分け(当)
大宮  VS 甲府  大宮の勝ち(当)
川崎  VS 山形  勝ち、負け(当)
湘南  VS 新潟  勝ち、負け、分け(当)
大分  VS 鳥栖  大分の勝ち(当)

10勝3敗。とほほほ。レッズを信じていれば当たったんじゃないか…。

マイナス1800円

<今週の買い目>

浦和  VS F東京 浦和の勝ち(外)
市原  VS 横浜M 横浜Mの勝ち(外)
東京V VS 柏   柏の勝ち(外)
磐田  VS C大阪 磐田の勝ち(当)
名古屋 VS 鹿島  名古屋の勝ち(当)
G大阪 VS 清水  勝ち、負け(当)
神戸  VS 札幌  勝ち、負け、分け(当)
広島  VS 福岡  福岡の勝ち(当)
山形  VS 横浜C 山形の勝ち(当)
川崎  VS 湘南  川崎の勝ち(外)
甲府  VS 水戸  水戸の勝ち(外)
京都  VS 大分  勝ち、負け、分け(当)
鳥栖  VS 大宮  大宮の勝ち(当)

 8勝5敗。
 なんだかいつもこんな感じ。それにしてもこの開催は当てたかった。なぜならいきなり1億円なんて当てたら人間壊れるもんだから、数千万の配当がちょうど良かったのに…。おお、それにしてもどうしたら当たるんだろう?どなたか当たった方、教えて下さい。

マイナス1800円
トータル マイナス 5400円

4月13日(金)

 昨日廻りきれなかった取次店K社へ直行。北赤羽駅から、とぼとぼと環状8号線沿いを歩いているといい感じの公園を見つける。目の前は荒川。身体が本調子じゃないことを言い訳にベンチでひと休み。ふっと看板を見上げると、なんとここから水上バスが出ているようで、浅草や品川やディズニーランドに行けるらしいのだ。今日みたいな陽気の日に船に乗るなんてさぞかし幸せだろうな…と一瞬、心がゆれる。

 サボりといえば、僕のサッカー観戦の相棒とおるは、カメラの営業をしつつ、いつもビジネスカバンのなかに海パンと水中眼鏡を忍ばせ、良いプールを見つけると、ざぶんと飛び込んでしまうとか。「ダイエットしないとね」とか訳のわからないことを言っているけれど、とにかくバレナイ秘訣は「室内プール」を選ぶことで、屋外だと思い切り日焼けをしてしまって困るらしい。

 あとは親友のS。こいつは建材商社の営業マンで、僕と同じようなルートをうろついているけれど、一時期漫画喫茶にはまってしまい、4時間も漫画を読んでいたつわもの。電話をすると「今日は『なにわ金融道』を全巻読破したぞ」と無意味に威張っていたもんだ。サッカー仲間のBもやっぱり営業で、伝説のサボりは山の手線を2周半してしまったとか…。

 うーん、こう書くとひどい社会人に見えるけれど、不思議なもんで、こいつらはみんな社内セールスナンバー1を誇る敏腕営業マンなのだ。社内で表彰されたりしているらしい。うーん、これが社会の謎というものなのか?

 さて、僕は…というと、レッズ観戦でサボろうが真面目に働こうが、何をしてもとりあえず社内セールスナンバー1に変りはない。なぜなら他に誰もいないから…。

 全然関係ないけど、一度あのセールス比較の棒グラフというのをやってみたい。壁に張り出されたグラフを見ながら、隣りの山下君(仮名)は、僕の2分の1か?と横目でチラチラ見つつ
「杉江さんセールスの秘訣を教えて下さい!」
「うーん、それはなあ、まずは挨拶だよ、ハハハ。」
なんて優越感に浸りながら、答えることを夢見ている。

 とここまで書いて気づいたこと。
 何もセールス比較で僕が勝つなんて決まっていないんだ。後から入った山下君に
「杉江さん、足引っ張るのもいい加減にして下さいよ、リストラ候補NO1って陰口叩かれてますよ。」
と言われて可能性もあるのだ。うーん、こっちの方がリアリティあるなあ。やっぱりセールス棒グラフなんてない方がいいんだ。

4月12日(木)

 病み上がりのため、会社でぼんやり座っていたいが、今日は取次店廻り。これをしないと23日搬入の『日焼け読書の旅かばん』が出せなくなってしまうから仕方ない。久しぶりの外廻りは高熱で想像以上に消耗してしまった身体にこたえる。しかし春の風が心地よい。会社にいるより健康的か。

 N社、T社と廻り、O社へ移動。O社の仕入れAさんが
「ああ、やっと紹介できます!」と興奮して奥からKさんを連れてくる。

 前々から噂を聞いていたKさん、なんと大のレッズサポなのだ。僕同様年間シートを購入し、毎試合観戦しているそうで、だいたいの観戦場所も近い。自己紹介もそこそこに、仕入窓口でレッズ談義を1時間。周りの人達に苦笑されていたのが少し気になるけれど、うーん、同じ出版業界であの駒場を埋めている人がいるなんてめちゃくちゃ嬉しいじゃないか!

 そこで、このKさんと「出版業界レッズ会」を発足することを計画。当欄を読んでいる出版社、取次店、書店の皆様でレッズファンという方、別に生観戦していなくても結構です。とにかくレッズが好きという方、是非、当HP宛てにメールを下さい。近いうち…と言っても、いつになるかまだ未定ですが、飲み会を開催しようと思ってます。その際に連絡させて頂きます。

 たまには暗い出版不況を忘れて、レッズ話で盛り上がりましょう!

4月11日(水)

 土曜の夜から40度を越える高熱に襲われ、月曜・火曜と会社を続けて休んでしまった。情けないが、人生初の40度越え。もう暑いんだか寒いんだかもわからず、上下右左意識不能に陥り目玉はぐるぐる、ついに立ち上がることもできなくなって、引きずられるようにして病院へ運ばれた。

 いつも病気をしないからこういうときは異様に弱気になる。肺炎か肝炎か…とにかくこのまま死ぬんじゃないか、ああ、こんなあっけないもんなのかと布団のなかで落ち込む。でも、レッズが優勝するまで生きていた。歓喜にむせぶ駒場をいたい。うーん、神様ナンマンダ。

 結局、原因は単なる風邪と疲労とのことで、無謀な生活を改めなさいと怒られる。良かった良かった。でもtotoは3本外れ。

 本日、熱は下がったものの、頭の芯が痺れているような感じがする。体力の消耗も激しく足元がおぼつかない。しかし『日焼け読書の旅かばん』の事前注文〆切日なので出社。
 
 ぼんやりした頭を何度も揺すり、夕刻までデスクワーク。まだまだリハビリ。

4月6日(金)

 本厚木のY書店さんを訪問。駅前のロータリーでペルー人バンドが「コンドルは飛んでいく」を弾いていた。大勢の人々がふっと歩みを止め、気ぜわしい日常生活から、つかの間の脱却を試みるかのように、うっとりと耳を傾けている。

 しかし、僕は大きな疑問で頭がいっぱい。
 なぜならこのペルー人達をしょっちゅういろんなところで見かけるからだ。新宿、池袋、船橋、柏、大宮、本厚木・・・。ひとり営業マン以上にあちらこちらの出動していることになる。いったいどうなっているんだ?

 僕が見かけているバンドは全部同一人物なのだろうか?それにしてはかなりの場所で見かけるし、同じ日に違う場所で見たこともあるような気がする。あれだけの機材を持っての移動となれば大変だろうし、でもちょっと太った人がいて、ノッポがいて、チビがいて、うーん、同じメンバーに見えるんだけど。

 はっと思い立って、大阪在住の相棒とおるに電話する。
「あのさ、大阪にもペルーの路上バンドっているの?」
「いるいる。梅田で見たことあるよ。」
「うーん・・・。」
「で杉江、用事は?」
「ああ、これだけなんだけ。」
「おまえねぇ、人のことネットで遊び人のように書いているけど、お前も少しは仕事した方がいいよ。」

 うーん、大阪にも出没しているとは…。謎は深まるばかり。

その後は、町田へ移動し、Y書店のOさんに約束していた浦和のラーメン屋さんの地図を渡す。「今度レッズ戦の帰りにでも寄ります。すごい楽しみ!」とそこから話は大脱線。

 やっぱり僕もちゃんと仕事をした方が良さそうだ。

4月5日(木)

 朝イチで編集長の椎名さんがやってくるが、打ち合わせ相手の単行本編集の金子が不在。それもそのはず前日徹夜で下版作業をしていて、先ほど真っ赤な目で家路に就いたばかりなのだ。しかし予定表のホワイトボードを確かめると「午後出社」の文字・・・いったい編集者って何者なんだ。おまけにいつも真っ黒に日焼けしている椎名さんも謎だ!

 ここ数週間、椎名さんと金子が頭を突き合わせて「ああでもないこうでもない」と打ち合わせしているのは、今月23日発売の新刊『日焼け読書の旅かばん』の編集について。今回は本にまつわる原稿が多いため、いっそシーナ本初の読書ガイドにしようとかなり大胆な構成を試みているのだ。写真も入れて、約130点もの椎名さんならではの、お薦め本をドーンと紹介する予定。

 椎名さんの鋭い発作的提案とその度に繰り広げられる金子の苦闘が、最終的に日の目を見、かなり良いデキになりつつある。多田進氏の装幀もカッコ良くあがり、うーん、これは営業として気合いを入れないといけないなあ、と気を引き締める。

 というわけでサイン会が決定!

三省堂書店神田本店
5月11日(金)午後5時30分スタート
4月23日(月)から整理券を配布する予定なので、是非よろしくお願いします。
詳細が決まり次第、HPにアップします。

4月4日(水)

 朝、お隣りのファミリーマートに寄ったら、「チョコエッグ」第1弾が売っていた。これはペット動物シリーズで、実は僕、この頃「チョコエッグ」を知らなくて、欲しくて欲しくて仕方なかったのだ。それにこのシリーズの中にある「日本猫」というのが、我が家で20年近く飼っているバカ猫小鉄にそっくりなのだ。そろそろ寿命が来そうで、先月からボケの症状が出だしてしまった。医者に行ったら表彰ものの長寿ですとのこと。うーん、淋しい。だから僕はチョコエッグの「日本猫」が欲しかった。こいつが出ればもし小鉄に何かがあっても、感情移入できるんじゃないかと思ったからだ。

 あわてて3個買い、会社に出社。1個目は「ゴールデンレトリバー」。僕は犬が大嫌いなんだと事務の浜田に投げつける。2個目・・・。
 なんといきなり出たのだ「日本猫」。それも僕が欲しかった黒白ぶち。おぉ、思わず大興奮。犬を拾っている浜田に見せつけるけれど、ちょっと怒っているような・・・。まあ、いいか。

「日本猫」をカバンに忍ばせ、気分良く営業に出かけるが・・・。

 某路線、某駅、某書店。
 ここは駅前の商店街にある小さなお店。しかし店長さんがいつも必死に仕入しているため、しっかりした棚を作っている僕が大好きなお店だ。

 お店に入っていきなりビックリしたのは、宮部みゆきの『模倣犯』がしっかり上下巻積まれていることだった。実は、この日ここまで営業してきたお店4件で、この『模倣犯』があったのは1件だけで、そこはいわゆる大手ナショナルチェーンの支店だった。他の書店さんはもうお手上げだよ・・・とこぼしていた次第。いったいどんな手でTさんが仕入れたのだろうか。

「すごいじゃないですか!『模倣犯』があるなんて!さすがTさんですね。」
と興奮したまま話しかけると、Tさんは冷静に
「杉江くん、よーく見てみな。」と言う。

 僕は何のことだかさっぱりわからず、積んである『模倣犯』を手にとり、観察する。そして、しばらくしてあることに気づいた。なんと「スリップ」がないのだ。ということは・・・。

「それね、定価で買ってきたの、大型書店で。いっぱい積んであったよ。でもうちは配本0なんだ。でもさ、オレお客さんに言えないよ。あの人とあの人と・・・って町の本屋なら何となくわかるでしょう。いつも宮部さんを買っていて、今度の新刊をずーっと待っていて買いに来る人達が。その人達に『入荷しませんでした』なんて絶対言えないよ。オレにだってプライドがあるし、それでお客さんに愛想つかされたら、こんなちっぽけな本屋終りだよ。いいんだよ、儲けなんて。とにかく今は信用が大事なんだ、生き残るためにね。」

 結局Tさんのお店には、『模倣犯』の新刊配本は0だった。ネットの注文で数冊仕入れられたけれど、すぐに品切となり、その後は出版社でも在庫なし。そしてTさんは大型書店に買いに行った。

 僕は愕然とTさんの話を聞いていた。いったいこんな商売が他にあるのだろうか。例えば爆発ヒットしている宇多田ヒカルのCDがレコード屋さんにまったく入らない。Asahiスーパードライが酒屋さんにまったくない。
 いや、浅草の演歌レコード屋さんにも宇多田はあるし、スーパードライだってどこでも売っている。それもちゃんとしたルートで。

 最後にTさんの言葉。

「あのね、これは読者を冒涜しているんだよ、出版社が。だってそうでしょう、この町には宮部みゆきを読むようは読者はいないって判断しているってことでしょう。もしくは欲しけりゃ電車に乗って買いに行けってことでしょう・・・。すごい商売だよね。」

 僕にも耳が痛かった。
 家の近くで本の雑誌社の本が買えない皆様、申し訳ございません。ただ本の雑誌社は勝手な配本はしていません。

4月3日(火)

 今年初め、立川に新たにオープンしたO書店さんを初訪問。なんとこのお店、800坪ワンフロアの超大型書店なのだ。噂には聞いていたけれど、いざエスカレーターを登って売り場に到達するとそのあまりの広さに一瞬足が止まる。ワンフロアーの迫力はすごい!

 担当の方に会うまでしばらく文芸書の棚を見て歩く。初めは自社の在庫など確認しながら仕事の目で眺めていたのだけれど、ふっと気づいたら、単なるお客になっていた。おっ、こんな本もあるのか?えっ、こんな本も在庫しているの?そんな驚きで何冊も手に取ってしまい、思わずレジへ。

 大型書店というと何でもあるように思われるけれど、実はそうではない。これは当たり前のことで、日本中の流通本(いわゆる絶版や品切じゃないもの)をすべて棚に入れようとしたら、800坪や1500坪、それこそ日本一のジュンク堂池袋店の2000坪でも足りないほど点数があるからだ。結局、大型書店といえども、どの本を棚に入れるか、というのは書店さん側の取捨選択に任されるわけで、棚作りという面では町の書店さんと一緒なのだ。

 それにしても、このO書店。何だか面白い本が並んでいる。「ゲーテ全集」なんていうのがきっちり棚に入っていて、なんと2巻は売れているではないか。他にもよそのお店で見ないような本が、ここかしこにささっていて、こういうお店が家の近くにあったら、休みの日はほとんど入浸りだろうなあと関心してしまう。

 その後、すっかり忘れていた仕事を思い出し、文芸担当のSさんに初対面の挨拶。棚の感想をもらしたらSさんとても恐縮していたけれど、やっぱり棚には気合をいれているようで、
「駅前のお店とも兼ね合いがあるんですが、これだけの大きさですから、新刊だけじゃなくて、じっくり棚から本を選んでもらいたいんですよね。そのためにしっかり棚を作らないと。お客さんの期待も大きいし、まだまだこれからですけど、ガンバリます。」

 小さなお店だろうと、大きなお店だろうと、熱意のある担当者が棚を作っている本屋さん。そんな本屋さんが町にある人はとても幸せなことだと僕は思う。

4月2日(月)

 あと少しで読了となる宮部みゆき『模倣犯』(小学館)を読み終えるために、長距離営業にでかける。千葉までの総武線の長い道のりでじっくり読書。営業の良い点はこういうところ。まだ上巻を読んでいる浜本や松村の顔が浮かぶ。会社に戻ったらじっくり結末を話してやろうと思わずニヤけてしまう。

 ところが、総武線が千葉駅に着くところで物語が佳境に入る。どうなる?宮部さんはいったいどう決着をつけるつもりなんだ?早く先を読みたい、ページをめくりたい。でもこれでこのまま駅のベンチに座って読んでいたら、本格的なサボりだ。こんな遠くで誰かにバレるとは思わないが、こんなときに限って、蚊の目玉ほどの小さな良心が顔を出す。
 必死の思いで『模倣犯』をカバンにしまい、S書店さんを訪問。
 
 S書店さんでは、4月号で取り上げた「翻訳家が選ぶ会心の1冊、嫉妬の1冊フェア」を展開していた。担当のUさんもこういった企画を千葉でもどんどんやっていきたいと話す。やっぱりフェアは書店さん独自の企画じゃないと面白くないというのが僕の考えなので、是非頑張って下さいと伝える。

 いったいフェアーって何なんだろう?そんなことを考えながら細かく移動し(だから『模倣犯』も読めず)、銀河通信の安田ママさんのお店に顔を出す。するとこんな売上だったんですよとリストを見せてくれた。それは安田ママさんが先日までやっていたフェアで「タイムトラベル」フェアの結果だった。リストを見ていると思わぬ本が売れていたりして、面白い。やっぱり血の通ったフェアは売れるのだ。

 読者(お客さん)は決してバカじゃない。これは先日会ったB書店の店長さん達も繰り返し言っていた言葉。レベルが下がったから本を買わなくなったのではなく、これだけいろんな物がある世の中、商品を冷静に観察し、判断する能力は上がってきているのだろうとも話していた。この業界は、今こそ地に足をつけ、読者の冷静な視線と戦わなければいけないと思う。もちろん、本の雑誌社も、もっともっと魅力ある本を作り、そして売るための努力をしなければいけないんだ。

 帰りの電車の中で『模倣犯』の続き。もう少しのはずが、ジワジワいろんな感情が湧き起こり、先に進めない。すごいの一言。

 結局、会社に戻るまでに読了とはいかず、浜本にも松村にも自慢できなかった。そんなところに深夜プラス1の浅沼さんから電話が入り
「杉江くん、『模倣犯』終った?すごいラストだよねぇ。えっ?終ってないの。実はね…。」とこっちが攻められてしまう。ああ、こんなことなら、ちっぽけな良心なんて駅のごみ箱に捨てて、ベンチでゆっくり読めば良かったと深く後悔する。

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