8月31日(金)
金曜日になるとふくらはぎがパンパンとなり、足の親指の付け根から伸びている腱がキーンと痛む。会社に着いて、皮靴を脱ぎ、ゆっくりと揉みほぐす。そうするといくらか楽になって、しばらくの間どうにかなる。また午後には駅のベンチで同じようなことをする。
これは、ほぼ毎日アスファルトの上を2万歩も歩いているからなのか。それとも靴の問題か、年齢的な問題なのか。営業マンというのもいつか引退しなくてはならないときが来るのだろうか。そしたら僕は何をすれば良いのか。ちょっと不安だ。
朝、そんなことを考えながら足を揉んでいると、事務の浜田が「ケケケッ」と笑う。浜田は基本的にカ行だけで生きている人間で、いい男を見つけると「カァー」と叫び、怒りに打ち震えると「キィッー」と吠える。おまけに甘えたいときは犬のように「クーン」と言い、腹が減ると「ゴォー」と啼く。
さて、本日の「ケケケッ」は人の失敗や何かを見つけたときの擬音である。いったい僕の何を見つけたというのだ?
「わたし昨日新宿の海森に行って飲んだんですよ。」
「名嘉元さん元気だった?」
「元気でしたけど、そうじゃなくて、そこでイシケンさんという人に会ったんです。浮き球の…。」
「何?あの酔っぱらいのイシケンさんに?」
「そうです、そしたら杉江さんの浮き球での、あんなこともこんなこともいっぱい聞いちゃいました、ケケケッ。」
思わず冷や汗が流れ、イシケンさんが何を言っていたのか問いただす。
「もう、言えません。とにかく楽しかったですよ、ねっ、す~まん」
……。
僕はなぜか編集長の椎名が狂っている浮き球三角ベースで「す~まん」と呼ばれているのだ。理由は一切不明だけれど、とにかくとんでもないあだ名を付けられてしまって心外していた。もちろん会社ではそんなことは教えていない。一応これでも社内では厳しい営業として生きているのだ。仕事をしていく上でイメージはとても大切で、「す~まん」なんてどこか気の抜けたあだ名がバレてしまったら、やりにくくなるのは間違いない。
そこに電話が入る。浜田が電話に出る。僕宛の書店さんからの電話だった。浜田が叫ぶ。
「す~まん、1番に注文で~す」
酔っぱらいのイシケンさんのせいで、僕が今まで社内で築いてきたイメージがあっけなく崩れ落ちてしまった。
ああ。
追)な!なんと本日、関東地方の朝日新聞夕刊にウエちゃんの『笑う運転手』の広告が載ることになった。これで勢いがついてくれれば、本当に笑う運転手が出来上がるのだが、いかがなものか? 本の雑誌社としては初めての新聞広告なので、どれほど効果があるものなのか正直言ってよくわからない。とにかく来週会社に来るのが楽しみ。