WEB本の雑誌

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6月29日(金)

 助っ人の宇津野さんが、永田町から半蔵門線に乗り込んだところ、本誌執筆者のTさんとバッタリ。といってもTさんはうちの助っ人と面識があるわけではないので、まったくの他人だからわかるわけはない。宇津野さんが一方的に知っているだけの話。そしてその宇津野さんのお母さんがTさんの大ファンだということ。

 どうにかしてその大ファンのお母さんのためにサインが欲しいと思った宇津野さん。廻りを見渡すと電車も空いている。彼女はついに勇気を振り絞って「すみません、Tさんですよね、私、本の雑誌で助っ人をしている者で…」と声をかけたそうだ。

 するとTさん、とても優しく応対してくれ、その後、彼女の行き先が同じ神保町だったということを知ると、なんとそのまま東京堂書店に向い、本を購入して、サインまでしてくれたというではないですか。

 Tさん、助っ人がご迷惑をおかけしすみませんでした。それからとても優しい応対に、宇津野はもとより我が社一同感激しております。ありがとうございました。

6月25日(月)

 暑い。とにかく蒸し暑い。営業マンにとって一番つらい季節がやってきた。梅雨と夏。どちらかというと暑さには強い僕も、さすがにこの湿度の高さにはうんざり。この時期だけは、ほんとに営業がつらい。スーツなんて誰が思いついたのだろう?

 午前中から外へ飛び出し、夕方会社に戻るまで、ほとんど炎天下の外にいざる得ない仕事。外に出ればあっという間に汗がだらだらとながれ、時間とともに気分がささくれ出す。電車と書店さんの中だけがせめてもの救いだけれど、むやみやたらに長居はできない。ほんとこの暑さからの逃げ場はない。

 そして今日はその蒸し暑さにプラスして、なぜか妙に街が白く霞んでいるではないか。これはいったい何なんだ。僕自身の目の病気かと心配になったけれど、事務の浜田も同じようなことを言っていたので、東京中が霞んでいるということだろう。これは編集長の椎名がよく言っている「東京のスモッグ」という奴なのだろうか。それとも何か薬品が撒布されているのか、よくわからない。

 新宿、新橋、浜松町、田町と廻り、さあ、これからというところで、気分が悪くなってしまった。頭がぼんやりするのはいつものこととしても、舌先が妙にピリピリする。三半規管もおかしいような気がするし、ちょっと気持ちが悪い。暑さのせいなのか、それともこの霞のせいなのか…。

 よくわからないけれど、とにかくこのままだと危ないので会社に戻ることにした。ああ、情けない。

6月23日(土)

『炎のサッカー日誌』

<午前9時45分> 起床。パンを焼いて目玉焼きとソーセージで朝食。

<午前10時> チェックしておいたケーブルテレビのイングランドVSギリシャのW杯予選を観戦。我が愛しのベッカムの怪しげなモヒカン姿を初めて見る。良い男はどんな髪型をしてもカッコイイという当たり前の論理に気づく。そのベッカムの鋭く曲がり落ちるフリーキックなどでイングランドが2対0の快勝!2002年にイングランド、スペイン、ポルトガル、フランス、アルゼンチンが日本で闘ってくれることを祈る。韓国にはブラジルとイタリアとドイツをあげる…。ああ、わがまま過ぎるか。

<午後12時> やきそばを食いながら引き続きケーブルテレビを見る。セリエAダイジェストのような番組で、ローマの優勝シーン。もし我が浦和レッズが優勝したら、同じようなことになるんじゃないか。もちろん僕も試合終了のホイッスルと同時にスタジアムに飛び込み、選手のユニフォームを奪い取りにいくだろう。そのためには今からダッシュの練習をしておこうと思う。

<午後1時> 対コンサドーレ戦。試合は7時キックオフ。しかしそろそろ並ばないとまずいので自転車に乗って出陣。

<午後1時15分> なんと駒場競技場を目前にして、ペダルを強く踏み込んだ瞬間「ガッチーン」という音を発して自転車のチェーンが切れる!競技場はすぐそこなのだ。いったいどうしたらいいん、としばし呆然となる。帰りのことを考えると、ここは兄貴に先に並ばせ自転車を直した方が良いと決断。確かここから数分のところに自転車屋があったはず。兄貴に電話し、自分は自転車を押して今来た道を戻る。

<午後1時30分> 自転車で数分も歩けば15分の距離だった。そしてなんと最悪なことに自転車屋はつぶれているではないか!ここまで来たら引き返せない。自転車屋を求めて駅方面に戻る。

<午後2時30分> 1時間ほどうろつき、結局駅の反対側で自転車屋を発見。自転車屋というのは意外とないものと初めて知る。店員にコトを話すと最悪の場合3000円の修理費がかかると言われ、店頭に並んでいる9800円の自転車を見つめしばし悩む。今乗っている自転車は高校時代に買ったもので、すでに10数年乗っているから相当ボロボロなのだ。しかし、なぜか僕は自転車に愛を感じる人間で、なかなか買い替える決断ができない。自転車ほど思い出のつまっている物はないんじゃないか…と考え込んでいると、チェーンカバーを外した店員が「ああ、これなら大丈夫です。チェーンを一つ付け替えるだけで済みますから1200円です。」良かった、良かった。

<午後3時> 再度仕切り直しで出陣。タイヤに空気を入れてもらい、おまけにオイルも塗ってもらった自転車は快調。

<午後3時30分> やっと駒場スタジアムに到着する。先に来ていた兄貴と合流し「申し訳ない」とジュースを渡したところで、O社のKさんから電話。「見えるよ、こっちに来なよ、一緒に応援しよう」とありがたきお言葉。Kさんは午前中から並んでいて、かなり前方にいる。申し訳ないと思いつつ甘えることにした。
 実はサッカーを一緒に応援するというのは考えている以上に難しいもので、それはなぜかというと、ひとつひとつのプレーに対して感じるところがそれぞれ千差万別だからだ。簡単に言えば、ミスを追究するのか、ちょっとした良さを誉めるのか。他にもいろいろとあるのだが、このKさんと僕の観戦スタイルは非常に似ていて気持ちが良い。どちらもとにかくミスにはじっとこらえ、選手やチームのコールをして応援するというスタンス。そして力の限り声を張り上げるということ。

<午後4時> 開門と同時に一気に人がなだれ込む。本日、敵のコンサドーレ札幌も凄まじい数のサポーターがやってきており敵に不足はない。おまけだけれど、今サポーターがすごいのは札幌と仙台。この2チームは闘っていて気持ちが良い。しかし浦和サポの評判は良くないらしい。淋しいかぎり。

<午後7時> キックオフ。本日は久しぶりのJリーグということもあって、かなりの興奮状態に突入。燃えるぜ!

<午後9時> 強い浦和レッズを久しぶりに堪能。浦和が誇る美男子永井の2ゴールで危なげない勝利。守備も安定してきており、これはこの先が楽しみだ…。ところが我らが誇る天才小野伸二のオランダ移籍の噂アリ。一難去ってまた一難。これだからサッカーファンはやめられない。

<午後9時30分> 夕飯、親子丼を食べながら、再度ビデオ観戦。僕は勝った日にはその夜に幸せを噛み締めながらすぐさまビデオをチェックし、翌日冷静になってもう一度ノートを取りながらチェックすることにしている。負けたときは、その夜に見ると眠れなくなるので、翌日の1回だけ。それでもかなり悔しいが。

<午後11時> ゲーム機ドリームキャストの「プロサッカークラブを作ろう」を1時間ばかりやって眠る。

 サッカーバカの幸せな休日はこのようにして終る。ちなみにtotoは2等と3等をゲット!ナベ式必勝法出版の日は近い。ああ、良か一日。

6月8日(金)

 僕は、はまるとそのことばっかり考えてしまうので、今は頭のなかがまるきり時代小説になっている。社内の会話も時代小説や歴史のことばかりとなり、事務の浜田が仕事のミスをすると、思わず「領地没収」などとほざき、またまた浮いた状態に。まあ、これ以上浮いてしまったら忍びに頼んで不在中の会話を探ろう…などと考えている次第。

 その時代小説の話を社内でしていてビックリしたのは、みんなよく歴史を知っているということ。僕はただただ、戦(いくさ)とサッカーが似ているので興奮していたのだが、どうも時代小説の奥深さはそんなものじゃないらしい。

 武士のカッコ良さを延々語っていた僕に、編集の松村は「杉江さん、全然わかってないですよ、わたしは小学生のときに『カムイ伝』を読んであまりの恐ろしさに泣いたんです。ちゃんと読んで下さい。」と言われ、金子からは歴代将軍の功績を次から次ぎに話される。この金子は理科系の人間のはずなのに…。
 そして発行人浜本も話に加わり、実は城マニアだったことを披露して「オレの夢は、姫路城を見ることなんだよなあ」と。

 うーん、どうしてみんなこんなにいろんなことを知っているのだろうか。僕自身、高校時代「日本史選択」だったはずなのに何も覚えていないし、習った記憶すらない。おかしいなあと思って高校時代の同級生に確認したところ、「お前、教科書も買ってないし、授業にも出てなかっただろ」と言われる。

 ああ、いまさら取り返しのつかない深い後悔の念を覚える。
 学生の皆さん、授業はまともに受けましょう。いつか役立つときがあります。

6月7日(木)

『本の業界 真空とびひざ蹴り』の事前注文短冊を持って、取次店さん廻り。御茶ノ水のN社を訪問し、その後は飯田橋のT社へ。暑くてつらい。

 ちょうど昼どきだったので深夜プラス1の浅沼さんを訪問し、昼メシへ。

 最近僕は急激に今までまったく読んでいなかった時代小説にのめり込んでしまい、今は隆慶一郎の著作にはまっている。この後はいったい何を読んだらいいのかわからなかったので、パスタを頬張りながら浅沼さんに質問。

 すると僕にとってピカイチの読書相談員浅沼さんは、「山風はまずコレから始めて、柴練はコレとコレ、藤周はコレで、司馬遼はドーンと…」といった感じで一気に教えてくれる。ああ、ほんと助かる。

 おまけに待ちに待ったフロストシリーズ最新作『夜のフロスト』(東京創元社)が並んでいたので、すぐさま購入。こちらに手がつくのはいつのことかわからないけれど、とにかく首を長くして待っていたシリーズの最新作ほどうれしいことはない。

 その後、地方小出版流通センターのKさんを訪問。Kさんは仕事上の大先輩なので業界の動きを教わる。

 その地方小出版流通センターから市ヶ谷駅に帰る道すがら、突如黒雲が頭上を覆う。そしてどしゃ降りの雨。傘は持っていたけれど、駅までもう少しだったので思い切り走る。走りながら、僕はほんとに周りの人に恵まれているなと深く実感する。
びしょびしょだけれど、こんな日ならいくら濡れてもいいや。

6月6日(水)

 なんと!今度はパートの石山のパソコンが壊れた。これで現在本の雑誌社内で、故障中の物は、営業用パソコン一台、編集用パソコン一台、冷蔵庫。あとは忙し過ぎる単行本編集の金子自身か…。

 まあ、金子自身は本人の問題だから仕方ないとして、ここまで連続していろんなものが壊れるととても不吉な予感がする。発行人浜本もいじけてしまい「オレがさ…今年厄年だからさ…」と嘆く始末。

 さて、壊れた順で行くと僕のパソコンが一番最初なのに、なぜか冷蔵庫はすぐさま購入検討委員会が発足され、すでにビックカメラで買って来た。今日壊れた編集用パソコンも、即日発行人浜本の号令で購入することに決まった。

 なぜだ!なぜなのだ!なぜ僕のパソコンは買ってくれないのだ。やっぱり僕はこの会社で嫌われているようだぁ。ああ。

 とにかく僕はこのおんぼろパソコンを使いつづけることにしよう。もういいんだ。それよりも、会社としては浜本が厄払いに行ってくれることが先決だ。

6月5日(火)

 営業マンにとって難しいのは、初対面の訪問。担当者が変ったお店や初めて訪問するお店だと、今度はどんな人と仕事をすることになるのだろうか?とかうまくかみ合うことができるだろうか?…などと思わず緊張と不安を抱える。

 これは逆に言えば、書店さんも一緒で、出版社の営業担当が替わった途端、注文の入りが良くなったり悪くなったりすることもあるし、今まで利いていた融通が利かなくなることもあったりして、書店さん側も出版社の営業担当次第…といったところがあるのだ。それにもちろん人間的に合わない人もいるだろう。

 ただ、僕が今まで経験してきた書店さんとの出会いを考えてみると、初めから仲良く(意思疎通)出来るなんてことはほとんどなく、何度も訪問しているうちにふっとしたキッカケで、うまく会話できるようになることが多い。その瞬間が訪れたときは、たまらなくうれしいもの。

 だから僕は第一印象をあまり信じない。書店員さんが笑っているからといって余裕を持つこともないし、相手にされないからといって不平を感じることもない。何度も何度も通って、そのうち何となく意思疎通ができるようになることを信じて営業している。それに書店員さんの第一印象というのも、その人を見るより、棚を見た方がわかるような気がする。

 今日もとある書店さんでそんなことがあった。先々月、担当者が変り、その後名刺交換も含めて3度新しい担当者に会っていた。棚もしっかりしているし、注文ももらえる。でも何か噛み合わない。どこかしっくり来ないでいつも背中を丸めてお店を後にしていた。

 ところが本日訪問中、ふっとした会話のなかで、互いにサッカー好きということがわかって、その後は一気に盛り上がってしまった。

 営業を終え、その書店さんを出たところで僕は小躍りしそうになった。これだから、営業マンはやめられないのだ。

6月4日(月)

 横浜を営業。ひと月ほど前にこの日記で書いたS書店のHさんはすでに退社しており、お店を覗いてもいるわけがない。しかし、つい店内を探してしまう…。その前の文芸担当Kさんも出産で退社しており、もう顔見知りの方がひとりもいない。
 こうなるとまたいちからやり直し。しかし新文芸担当の方がお休みでお会い出来ず残念無念。

 地下街のM書店に行き、Yさんと話しているとK書店の営業マンが新人作家を連れて挨拶廻りにやってきた。
 最近こうやって作家さん自身が書店を廻ることが多く、それはそれで作家さんとしても自分の本がどのように扱われているのか知ることは良いことだと思うし、書店さんにしてもどんな人が書いたのかわかるのは気持ちの面で違うと思う。

 ただ問題なのは、この話のなかで「サイン本を作りましょうか?」という話になったときで、これが絶対売れる作家ならとてもうれしい提案になるが、それがわからない場合は書店さんとして非常に難しい問題になるのだ。なぜならこの業界、サイン本は返品できない取り決めになっているので、その場で在庫分全部、例えば10冊なら10冊すべてサインされてしまうとそのすべてを売らないといけなくなってしまう。

 もちろん売れればこれほど良いことはないわけで、サイン本というのは書店さんにとって両刃の剣であるのだ。

 本の雑誌社では今のところ作家を連れ立って営業したことがない。いや、連れ立つ勇気がない。なぜなら、そのままサッカー場へ連れていくわけにもいかないし…。

6月1日(金)

 カレンダーを眺めながら今月の予定を考える。新刊のスケジュールや雑誌の配本日などを書き込んで行くと、どんどん日付の下の余白が埋まっていく。
 なんだ!今月はクソ忙しいじゃないか!と気づき、こんなスケジュールを立てた発行人浜本をにらむ。が、その浜本はワープロをバシバシ打っていて、まさに暖簾に腕おし。くやしいのでひと腐れしようかと思ったけれど、どうも最近僕は会社で浮いているような気がしているので、それは控えた。

 浮いている原因を考えてみると
1.僕だけ外廻りでほとんど会社にいないため社内の会話に
  ついていけないから。
2.いわゆる出版社ならではの編集と営業の争い
3.僕個人の人間的な欠陥

 事務の浜田にそのことを質問するとあっさり
「別にそんな仕事中におしゃべりしていないし、編集も営業もこんな小さい会社に争いはないし、どうみても3番以外に思い当たる理由がないと思うんですけど!」と言われてしまった。ああ。

 僕の愛する中田英寿的思想でいけば、社内でどれだけ浮いていようと嫌われていようが、とにかく社会人は仕事をすればいいわけで、気を取り直して今月18日搬入の新刊『本の業界 真空とびひざ蹴り』の〆作業をする。この本は僕が入社して以来、というかこの本を営業するために僕はこの会社に入社したんじゃないかと錯覚するほどお気に入りの新刊なのだ。内容はもちろん、装丁もバッチリ。売れて欲しい。いや売りたい1冊。

 それと平行して行なう仕事は、7月の新刊の注文取り。
 なんとこれが本の雑誌社お得意の無計画さによって2点もある。これは営業マンひとり、単行本編集者ひとりの会社では、とてつもなく大変なこと。

 この2点の内容は、ひとつ、この「WEB本の雑誌」からの初単行本化、大人気エッセイ『ウエちゃんのタクシー日記』(仮題)。そしてもう1点は、今までの本の雑誌単行本とちょっと毛色が違う外文インタビュー集『One author,One book』(仮題)新元良一著。あまりの両極端さに単行本編集の金子は狂いだし、最近、怪しげな関西弁と横文字を喋っていたりする。うーん、可哀相…。

 ちなみに本の雑誌社の本は、書店さんから注文が来ない限り出荷していない。これは他の業界なら当たり前のことなのかもしれないけれど、出版業界では異端な方で、普通の出版社はいわゆる「パターン配本」という、取次店さん(問屋)が書店さんの規模や過去の実績に基づいて配本する方法を取っている。

 この利点はそれほど注文をとらなくても配本部数が取れるということ。(最近はそうでもないらしい)。そして欠点は返品が増える可能性が高いことと支払条件が悪いこと。

 本の雑誌社のようなチビ会社では予想外に多量の返品があるととても対応しきれないので、基本的に買切り注文制というのを取っている。この利点は注文部数=売上部数になること。欠点は書店さんが買切りを怖がって部数が伸びないことか。

 まあ、全国にくまなく配本したところで、どれほど売れるのかわからないし、なるべく営業をしながら書店さんと密に繋がっていたいのもあって、いまのところ後者を選択しているのが現状。

 本の雑誌社の本が並んでいる書店さんはある意味勇気のある書店さんでもあり、また並んでいる本があるということは、本の雑誌社のチラシが行っているか、僕がうろついているかの証明なのだ。これは非常にわかりやすいが、逆に並んでいないお店は僕の力不足であるということ。社内で浮いてもいいから、もっと頑張って営業しないといけないなあ。

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