WEB本の雑誌

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12月27日(木)

 本の雑誌社は、本日が仕事納め。と言っても大掃除をするわけでも、大忘年会が開かれるわけでもなく、それぞれたんたんと日常業務をこなしていくだけ。まあ、年賀状書きが、唯一年末行事らしいことか。

 先日、とある書店さんに「うちは会社の忘年会がないんですよ」と話したところ「そんなに仲が悪いんですか!」と驚かれた。いや、そういうわけではなく、あまりに少人数でいつも顔を合わせ、互いに「ああだ、こうだ」と好き勝手言っているので、わざわざ年末の忙しい時期に、改まって飲む必要がないだけ。

 昨夜、大量に薬を飲み早寝をしたおかげでいくらか体調が回復する。本日は大事な打ち合わせがあり、どうしても外に出なくてはならない。こうなったら気合いで乗り越えるしかない。

 午後から浜本とふたり出かける。浜本も風邪を引いているらしく、打ち合わせの前に揃って鼻をかむ。こういうのは、「鼻かむ仲」とでもいうのだろうかと思いつつ、しっかり打ち合わせを済ませ、今年最後の仕事を終える。

 とにかく早く風邪が治り、レッズの選手が元旦に国立競技場に立っていることを願いつつ(もちろんそこで勝つ!!)、2001年最後の日記を終える。

 皆様、来年も『本の雑誌』及び「炎の営業日誌」をよろしくお願いします。

12月26日(水)

 僕は、ファックスや電話、あるいはメールというものが苦手だ。なんだか相手の表情が見えないと、相手がどう感じているのがわからず、不安になってしまうのだ。だから営業活動もなるべく面と向かって会話をし、そのなかで判断していくことを心がけていた。(首都圏に限ってだけれど…)

 しかし、ここまで風邪がひどくなると、外廻りが非常につらい。それに書店さんも、こんな風邪ひきが廻ってくるのではとても迷惑だろう。しかし、新刊営業には期限があり、どうにかしなければならない。本の雑誌社のような完全注文制の出版社は、書店さんから注文を頂かない限り店頭に本が並ばない。これは、非常にわかりやすいシステムだけれど、このようにひとり営業マンがダウンしてしまうと2重の意味でどうにもならない状況になってしまう。

 仕方なく謝り文を書き、書店さんにファックスを送った。言い訳がましい原稿を読み返しつつ、とても悲しい気持ちになってしまう。ああ、情けない。

 しばらくして、ファックスを送った書店さんから返信が届いた。そこには暖かいメッセージが書き添えられていて、僕はそれを読みながら思わず泣きそうになった。ありがたい限り…。

12月25日(火)

 3連休をすっかり睡眠にあてたが、風邪は治らず。のど、鼻水、熱と一段とひどくなってしまった。やっぱり単行本編集の金子の言うとおり自然治癒力が年齢とともに弱くなっているということか…。しかし、とにかく1月22日搬入の新刊『ケ・マンボ食堂の午後』の営業をしなくては、とても時間的に間に合わず、フラフラと中央線に乗り、立川まで揺られていく。

 これは風邪とは関係なく、僕のバカ頭のせいだけど、3連休で曜日がずれていることをすっかり忘れてしまっていた。おかげで、駅ビルルミネの0書店Tさんの定休日に当たってしまう。おぉ、これで2ヶ月連続バカ頭炸裂だと落ち込む。こうなるとひとり営業はつらい。次に訪問するのは早くて翌月になってしまい、ズルズルと会えない時間が延びていってしまう。ああ。

 その後は、気を取り直して中央線沿線を営業して廻る。しかし日が暮れる頃には、鼻水が止まらなくなり、風邪の状況は一段と悪化。鼻のかみ過ぎで、耳がよく聞こえず、書店さんとの会話もままならない。もうダメだと危ない足取りで会社に戻った。

12月21日(金)

 数日前からノドがヒリヒリと痛み、これは風邪の前兆ではないかと、先手必勝と「イソジン」でうがいをしていた。ところが12月は忘年会シーズンで、週に2度も3度も遅くまで痛飲せざるえない。今週もすでに2度忘年会があり、早寝することも出来ず、結局、本格的な風邪ひきに。

 机に座ってデスクワークをしつつ「ゲホン、ゲホン」と何度もせき込んでいると、単行本編集者の金子が寄ってきて「もう30歳なんだから、薬に頼ることも必要だよ」とうるさい忠告。余計なお世話だと思いつつも、とてもツライので薬局に走る。

 風邪薬を飲んだらとたんに眠くなる。営業にも出られる状況ではなくなり、そのまま社内で療養することにした。

 ああ、このクソ忙しい時期にこんなことになるなんて、最悪だ!

追)本日、ウエちゃんはしっかりくっきり朝日新聞に掲載されました。ちなみに、タクシー運転手と本の雑誌顧問の運動量は、本の雑誌顧問に軍配が上がるようです。

12月20日(木)

 ウエちゃんが朝日新聞の夕刊(関西版)に登場すると言っていたので期待を込めて待っていたところ、その本人からメールが入る。何と急な記事が入ってしまい明日になってしまったとか…。特設電話回線まで用意し注文に備えていたのに、思い切り肩すかしをくらってしまった。(ウソですけど…)

 残念そうなウエちゃんのメールを見ながら、もしやこのままお流れになるんじゃないかと不安になる。ああ、大丈夫なんだろうか?

12月19日(水)

 池袋のL書店を訪問すると、担当のAさんがとっておきの情報があるという。「それは何ですか?」と耳をそばだてると、おおスゴイ! 思わず声をあげてしまうほど驚きの情報で、僕はあまりに興奮してしまって、Aさんに「喜び過ぎですよ」と言われてしまった。

 さて、とっておきの情報とは、業界騒然の盛り上がりを見せた(って勝手に思っているだけですが…)あの書店員ボーイズラブ小説『キスよりもその口唇で』『一緒にいたねをたくさん』花川戸菖蒲著(二見シャレード文庫)の第3弾目が1月に発売になるらしいということ。

 これは確かにボーイズラブ小説ということで色物扱いされているけれど、なかで語られている書店業の実体はかなりリアルで真っ当だ。僕はそこが読みたくて買っている…。「いやマジですよ」と疑う目つきのAさんの誤解を解きつつ、しっかりメモ。

 それにしても、ボーイズラブ小説って誰が読むだろうか?と思わず首を捻ってしまう。男と男の恋なんてそんなに興味をそそるものなの?と疑問を感じつつも、書店店頭の棚を見れば一目瞭然。かなりの量が出版されているわけで、それは商売になるほど売れるということだろう。

 ああ、そういえば…。以前とあるデパート内の書店さんでこのことを質問したとき
「何を言ってるんですか杉江さん! 新刊発売日には母娘の親子で山のように抱えて買っていく姿が普通なんですよ!」

 うーん、世の中スゴイことになっているんだなあ…と僕はただただ感心するばかり。

12月18日(火)

 六本木のA書店を訪問するが、担当のTさん、Mさんに会えず残念無念。気を取り直して、芋洗坂に出来たばかりの新規書店を訪問。こちらは『本の雑誌』10月号の書店特集で登場していただいた「東京ランダムウォーク」初の支店。インタビューした渡辺さんがいらっしゃる。

 挨拶もそこそこに、まずは棚を徘徊。すでに営業マンではなく、お客さんに早変わり。ここはやっぱり仕事じゃなくて、休みの日に遊びに来たいと思わされる本屋さんだ。とにかく、センスが良くて、カッコ良い。もちろん見た目もさることながら、並べられている本もどれも面白そうな本ばかり。こんな本屋さん、僕は今まで見たことがない。是非、今度は休みの日に来よう。渡辺さんの成功を願いつつ、恵比寿、渋谷、青山と慌ただしく営業。

 年末はどうしても駆け足の営業になってしまい、気が滅入る。

12月17日(月)

 『おすすめ文庫王国2001年度版』の搬入日。雨は降らず、くっきりと晴れた空を眺めつつ、この本の売行きに不安を覚える。まあ、ジンクスなんて気にしない、気にしない…。早速、御茶ノ水の茗渓堂と東京駅Y書店さんへ直納。ところが、またもや僕はアホなことをやってしまう。

 会社を出るとき、一緒に直納に向かう助っ人の吉田さんに対して「電車賃持ってる?」なんていらぬおせっかいをしておきながら、笹塚駅で切符を購入しようとしたところ、僕自身が財布を忘れてきてしまったことに気づく。ああ、完全なるアホ。

 吉田さん、世間のサラリーマンはもっとみんなしっかりしているから、安心して就職するんだよ…なんて無理矢理人生訓に結びつけつつ、会社に電話を入れ、浜田に持ってきてもらった。そういえば、前もこんなことがあったけ…。あれ? あのときも吉田さんが相手だったんじゃないか?

 Y書店さんの直納を終え、その後は銀座へ。銀座はクリスマスを前にして人の出が激しい。K書店のKさん、Yさんを訪問し、年末の挨拶。A書店のOさんには、本の雑誌ベストの売れ行きを確認。1位の『翼はいつまでも』同様、3位の『素晴らしい一日』が売れているとのこと。趣味丸出しで、無理矢理押し込んだ10位『サッカーの敵』はどうですか?と聞きそうになるが、怖いので辞めた。

 その後Y書店のOさんを訪問すると、ちょうどP・コーンウェルの『女性署長ハマー』(講談社文庫)を並べているところだった。ここ数日、年末なのに何か物足りない気がしていたのは、この文庫が出ていなかったからなのかと納得。ついでに、塩野七生も今年はまだだったと思い出す。こちらも数日後には発売になるとか。

 Oさん曰く「このお店は、他のお店に比べてハードカバーの本が売れないんですよ。その分、文庫はめちゃくちゃいいんですけどね…。まあ、うちの立地だと銀座に遊びにくる人が来店するんで、やっぱりそういう人にとって、単行本は重いんですよね。」との話。

 うーん、本は高い!の次は重いか…。ツライなあ。

12月14日(金)

 昨日は私用で休ませてもらった。でも、よくよく考えてみると、本の雑誌社に有給休暇なんてあるんだろうか? それよりも、そもそも社内規定や就業規則なんていうのも見たことがないような気がする。何となく前任者から口伝えで聞いていることをただただ守っているだけで、事務の浜田にそのことを確認すると
「えっ、杉江さん貰ってないですか? 就業規則。あそこにいっぱい書いてありましたよ」とビックリすることを言われてしまった。僕が入社したときに渡された物は名刺2箱だけで、あとは確か何も渡されていない。思わず「ウソ」と大声で聞き返す、がどうも本当のようで、机のなかからその社内規定や就業規則を引っ張り出し、手渡される。どれもこれも僕にとっては初めて見るものばかり。おお、出張宿泊費なんていうのまで決まっているではないか! ああ、入社時から僕は社員扱いされていなかったということなのか…。

 まあ、就業規則を読んだところで現実には、仕事に変わりはないわけで、結局毎日今までどおり働くしかない。

 夕方、当HPに関する打ち合わせに参加。年明け早々に新設されるコーナーが、どちらかという僕よりのコーナーなので、いろいろと考えや意見を伝える。余計なことを言えば、余計な仕事が増える…というサラリーマンの鉄則を知っていつつも、また余計なことを口走っている自分がいる。ああ、来年が恐ろしい。

12月12日(水)

 二日続けて直納をしていたら、本格的に肩と首が痛い。朝、満員電車のなかで肩を揉んでいると、周りの人々に怪しい人間だと思われ、ジロジロ見つめられてしまった。いや、僕は自分の身体を揉んでいるんだ…。

 会社に着くと、すぐ大日本印刷から『おすすめ文庫王国2001年度版』の見本が届く。取次店見本分6冊なんて昨日までに比べたら楽チン楽チンと、早速、持っていこうと用意していると事務の浜田が
「杉江さん、T社に行きますか?」と聞いて来るではないか。見本出しといったら、T社とN社しかないわけで、当然のこととして「行くよ!」と答える。

 すると浜田がなにやら机の下から持ち出し、
「じゃあ、ちょうど良かった、『ケ・マンボ食堂の午後』のチラシが出来たんで、ついでに持っていってください。」とドーンと置く。チラシ2000枚。これが意外と重く、筋肉痛の僕にはとてもつらい。出来ることなら勘弁させてもらいたいと涙目で浜田に訴える。

「助っ人は?」
「いや、どうせ同じところに行くんですから。その分交通費も得ですし」
「……。」

 本の雑誌社営業部「何でもやらされます課」課長の辞書には、「それはオレの仕事じゃない!」という文字が、誤植によって「それもオレの仕事ですね、ヘヘ」に書き変えられている。無言のまま、トボトボと今日も重い荷物を持って、都内をうろつくことになってしまった。
 ああ、つらい。早く偉くなりたいな…。

12月11日(火)

 昨日、どうしても間に合わなかった書店さんが何件か出てしまい、申し訳なく思いつつも、本日に延期。だから今日も『本の雑誌』の直納だ。

 冷たい風がビルとビルの間を吹き抜け、身体に突き刺さる。それでも銀座のK書店さん、日比谷のM書店さんと立て続けに納品し終える頃には、額から汗が流れ落ちる。何だかもう寒いんだか熱いんだかわからない。

 都営線を乗り継いで、いったん会社に戻る。電車の中で『犬を飼う』谷口ジロー著(小学館文庫)を読んでちょっと泣いてしまった。犬は嫌いだけれど20年も生き続けている飼い猫小鉄を思い出し、何だか切なくなってしまったのだ。ああ、週末は小鉄に会いに行こう。

 昨日の直納で、首と肩が筋肉痛になってしまっている。だから今日は30冊程度の直納でも非常につらい。首を振ったらゴキゴキ音が鳴る。そうはいっても届けなくては話にならないので、最終直納書店・川口のS書店さんへ向かった。

 夕暮れ時にそのS書店へたどり着き、担当のOさんへ『本の雑誌』を渡す。するとOさんが
「ちょうど電話をしようと思っていたところなんだ。急だったから困っていて、ほんとありがとう。」とお礼を言ってくれた。何だかこの言葉で今回の直納部隊全ての疲れが飛んでしまった。うれしい限り。

 それにしても『本の雑誌風雲録』目黒考二著(角川文庫)には、直納時代のことが記述されているけれど、こんなに重くて翌日筋肉痛になったなんて一言も書いていなかったような気がする。もしかして、僕が非力なんだろうか…。

12月10日(月)

『本の雑誌』1月特大号搬入日。しかし、いつもの搬入日と違って、今日は約10年ぶりに配本部隊を結成する。そう鈴木書店さんの倒産を受けて、500冊を越える『本の雑誌』を直接書店さんに届けなくてはならないのだ。

 いつもお世話になっている書店さんに営業マンとして出来ることといったら、こういうときに素早く確実に納品することくらいしかないだろう。他の取次店に切り替え、通常流通で流せないことはない。けれど、それでは時間が掛かりすぎる。こうなったら、やっぱり直納が一番手っ取り早く、間違いがない。とにかく面倒だろうが、大変だろうがやるしかないと先週金曜日に決意し、選抜助っ人5名とともに都内書店と会社を何度も往復することにした。

 それにしても重い。通常号なら両手に50冊ずつ、計100冊くらいはどうにか運べるけれど、特大号は増ページのためやたらに重い。おかげで、両腕に40冊づつ持ったら、途中笹塚10号通りでひっくり返りそうになってしまった。女の子に30冊も持たせたことを後悔するが時すでに遅し。おまけに無茶苦茶寒いはずなのにジワジワと汗が噴き出し、それをハンカチで拭いたいものの、両腕が塞がっていて垂れる一方。「本の雑誌」に垂れないよう首を左右に振る。これじゃ犬だ。

 会社と書店さんを往復しているうちにあっという間に夜6時。本日の最終直納、東京駅のY書店さんへ納品し、一息ついたときには、もう両手の握力がほとんどなくなっていた。とにかく疲れた一日。

 手伝ってくれた助っ人さんたち、どうもありがとう。君たちのおかげで、『本の雑誌』は、無事本屋さんに届きました。

12月9日(日)

『炎のサッカー日誌 天皇杯篇』

 サッカーバカ(僕のことですが)にとって天皇杯は大切な年末行事。いや、本来であれば年明け行事にもなるわけで、毎年、元旦国立を夢見、いっさい予定をいれずレッズの連勝街道を願っているけれど、今のところそのような初夢がに当たった試しはない。我がレッズ、ここ数年3回戦もしくは4回戦で惜しくも敗北を機し、僕らサポーターは人様より先に一年を終えてしまうのだ。

 さて今年の3回戦はJ2ヴァンフォーレ甲府戦。場所は大宮サッカー場。ここはスタンドがピッチに近いため迫力満点の素晴らしいスタジアム。やっぱりスタジアムは、どれだけピッチに近いかが大切な要因だと思う。いつもの観戦仲間、KさんやOさんとともに寒さに身を捩らせつつ開門を待ち、そして、いち早く最適な場所を確保する。なんと、ベンチ真裏一列目!!

 この日、この席を確保した瞬間から、僕の頭のなかにレッズの試合に対する執念は薄らぐ。なぜなら僕の目の前1メートルに選手たちがいるのだ!井原とトゥットとアリソンと啓太がリフティングをしながら日本語&ブラジル語(ポルトガル語?)で遊んでいるし、城定と永井はドリブル合戦をしている。これはもうミーハーモードがスイッチオンにならぜるえない。

 試合とベンチを交互に見つつ、そのミーハーモードが最高潮に達したのは、後半開始早々。僕がこの世で一番愛する男・福田正博が、目の前でアップし出した時だった。小気味よく駆ける足音、徐々に強くなっていく呼吸音、控えメンバーに話しかけている勝利を願う言葉。すべてが僕の耳に伝わってくるではないか。これはもう何と言っていいのかわからないけれど、いわゆる失禁寸前の大興奮。

 最高だ! 福田がそこにいる。声をかければきっと聞こえる。何か言わなくてと思いつつも、そう考えれば考えるほど何も浮かばない。どうも僕は、あまりに福田が近くにいすぎて、あがってしまっているらしい。

 しばらくするとコーチが福田に歩み寄り、そして交代の合図を送った。ジャージを脱ぎ捨て、レッズの苦労と得点王の栄光を背負った9番が露わになる。今しか声をかける瞬間はない。僕は思いつくままに大声を出し、福田に言葉を投げつけた。

「福田! もう1点入れて来い! そして来年もオレ達と闘ってくれ!」

 福田は振り向かなかった。けれど聞こえはしたと思う。いや、そう思いたい。

 とりあえずレッズは2対0で勝利した。まだ今年は終わっていない。

12月7日(金)

 かつて僕が書店でアルバイトをしていたとき、ベテラン社員の方から在庫の残りが少なくなった売行良好書の注文発注を任された。出版社に電話を入れ、その本のタイトルと注文部数を伝えたところ、「今、品切れで増刷中なんです、出来上がりは2週間後になります」と言われたので、そのまま保留注文としてお願いした。

 その後、他の仕事していたベテラン社員が戻ってきて「あの注文は搬入いつになった?」と聞かれた。電話で確認した理由を述べ、「2週間後になる」と伝えたところ、いきなりそのベテラン社員の顔が真っ赤になり、「あんたスズキに確認した?」と問いつめられた。

 まだ書店に入って間もない僕には何のことだかさっぱりわからず「?」マークいっぱいの顔を浮かべていると、ベテラン社員は電話に駆けていき、奪い取るように受話器を持ち上げ、どこかへ連絡していた。

 翌日、バイトに行くと、その本がドーンと平台に積まれていた。


 また別のある日。カウンターに立ってお客さんの対応をしていた。お客さんの探している本が、運悪く店頭に在庫がなく、取り寄せになるところだった。
「どれくらい時間がかかるかな?」と聞かれたので、マニュアル通りに
「1週間から10日くらいかかると思います」と答えた。
するとそれを聞いたお客さんが
「どうしても3日後に使う用事があるんだけど、どうにかならないかなあ」と困り果てている。
そう困られても、それが出版の流通事情なのだからどうしようもないと僕も一緒に困っていた。

 その経緯を隣で聞いていたベテラン社員が、
「杉江くん、何の本?」とメモを覗き込んできた。
そしてまたそのベテラン社員はどこかへ電話をいれ、「あっ、ありますか! じゃあ、お願いします」と電話を置き、振り返ると満面の笑みを浮かべ、困り果てていたお客さんに
「大丈夫です!明日の午後には入荷しますので、入荷次第連絡をいれます」と答えた。
お客さんはとても大喜びし、「助かった」と安堵の顔を浮かべて帰っていた。

 その後、数日して、僕はバックヤードに呼び出された。
 ベテラン社員が、小さなメモをくれ、「ここに書き出した出版社はスズキに在庫がある可能性が高い。出版社に在庫がなくても店売在庫として持っていることもあるし、それからスズキは主帳合いじゃないけれど、取引があるから、×時までに連絡を入れれば、翌日に届けてくれるのよ」と教えてくれた。

 その後、僕は何度も何度もスズキにお世話になり、お客さんに感謝されたことがたくさんあったし、そして売り逃しも防げた。

 ここに書いたスズキというのが、本日自己破産をした取次店(問屋)鈴木書店のことである。とても小回りの利く親身な取次店として僕は記憶している。何だか無性に悲しくやるせない気持ちでいっぱいだ。

12月6日(木)

『おすすめ文庫王国2001年度版』の事前注文短冊を持って取次店を廻る。御茶ノ水のN社を終え、飯田橋に移動する。時間的に空白が出来たので、深夜プラス1の浅沼さんと近くにあるT出版社のIさんとともに昼飯へ。いろいろと業界の情報を聞き、大いに助かる。僕のようにチビ出版社のひとり営業は、どうも業界の話題に疎く、こうやって情報交換(交換というよりは一方的に教わる)することが非常に大切。

 その後、T社、O社と短冊を提出し、市ヶ谷の地方小出版流通センターへ移動。ここでも担当のTさんに教えを乞う。どうも僕は営業マンの割に自分で話すというよりは、人から話を聞く方が断然多い。それは知識があまりに乏しいからで、本当はこんなんじゃいけないんだろうなと思いつつも、知らないことを知った顔で話すことも出来ず、とにかく聞き入る。

 本日はそういう意味で、大変有意義な一日。

12月5日(水)

 事前注文の〆日。前日に引き続き、慌ただしく営業する。僕はどうしてこうも無計画なんだろう…と後悔するが、これは毎月のこと。年末だけに来年こそは!と神保町を歩きながら決意をするが、よくよく思い出してみると、またこれも毎年のこと。ガックリ。

 夜、『なまこのひとりごと』の出版記念パーティに参加。著者の佐藤敬太さんの友人知人が大勢集まり、とても盛況でアットホームな会となる。佐藤さんの飾りのない挨拶に浜本とふたり思わず涙が出そうになった。佐藤さんのためにも営業を頑張ろう。

12月4日(火)

 朝、今日の営業ルートを想い、暗い気持ちになっていた。これは主に体力的な理由で、とにかく細かい移動を繰り返さなくてはならなかったからだ。これは大変だろうなと。そして、もうひとつ、この日を逃すと初回の搬入に間に合わなくなるという切迫感があった。

 ところが、初めの訪問先、藤沢のY書店Iさんを訪問し、会話をしているうちに何だかわからないけれど、突然やる気が漲る。それはきっとこのお店のしっかりした本の売れ方とIさんのやる気に感化されたのだろう。Y書店を後にしたとき、僕のちっぽけな脳味噌にアドレナリンが噴出してしまったようで、一気に営業魂が燃えたぎる。

 その後は駆け足で、横浜、関内、目黒、恵比寿、渋谷と営業爆裂。この業界の人ならきっとわかるが、これはほとんどある系列の書店さんを廻ったことになる。しかし実はその系列に意味があるわけでなく、本日は『おすすめ文庫王国2001年度版』の事前注文の〆切前日で、まだ注文が取れていないお店を廻っただけのこと。我ながら情けない。

 やる気が漲ると幸せが転がり込んでくるものなのか…。
 本日なんと100%の確率で担当者に会え、事前注文もしっかり頂ける。

 クタクタになって会社に戻ったけれど、ものすごい充実感が僕を包んだ。

12月3日(月)

 年末を控え、猛烈な忙しさに身を任せているうちに日記の更新が滞ってしまった。11月20日以降今日まで、手帳を覗き込めば思い出せるものの、それを書いていると延々現実の時間まで辿り着きそうにないので、とりあえず今日から復活にします。本業の営業にいそしんでいたわけなのでお許し下さい。

 年末の忙しさ…というものを一番受けているのは単行本の金子である。何がキツイかといえば『増刊 おすすめ文庫王国』の編集作業で、金子はこれをほとんどひとりで作っている。去年も書いたが、この増刊。編集会議の際に僕と金子の間の暗黙の了解として「本の雑誌」編集部が作る物だと考えていた。ところがその雑誌編集部は1月、2月号をほぼ同時に作っているため、それどころではなく、気づいたら毎年金子の前に「おすすめ文庫王国」の仕事が積まれるようになっていた。原稿依頼・催促・レイアウトなどなど、ここ数日金子の机の上には、ユンケルが何本も転がっていて、目玉は真っ赤に充血し、絞り出すような声で「杉江く~ん、発売日動かせない?」なんてつぶく始末。

 その姿を見ていると、つい「仕方ないから1週間ずらしましょうか?」などと優しい言葉をかけたくなるが、年末で物流が止まってしまうことを考えると、それもできない。人として情けはかけたいものの、こればかりは営業として動かせない現実で、そのことを頑なに主張すると金子は黙ってユンケルを飲み干した。

 編集者…というものを身近に見つつ考えるのは、やっぱりこの人達は異常な人間だということ。このクソ忙しい状況の金子にしても、こちらから見ればと「いい加減少しは手を抜けば良いのに」と感じるほど、細部の細部までこだわり作業している。物づくり人の狂気としか思えない。
 そのことは尊敬しつつも、仕事は仕事。ぶっ倒れる寸前の金子にトドメの釘を打つ!
「あの~、1月の新刊チラシも作ってくれないと、僕、営業に出られないんですけど…」
 営業マンもまた、期日にとらわれた狂人である。

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