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2月27日(火)

 Aさんは、入社3年目を迎えたばかりの、まだ若い書店員さんだ。いつ訪問しても一生懸命で必死に仕事をしているその姿に僕はとても共感していた。

 今日もそんなAさんを訪問して、いろいろと話をしていた。するとこんな言葉がポロリとこぼれ落ちたのである。

「入社して2年が過ぎて、やっと少し『ゆとり』が出来たというか、周りを見る余裕が生まれたんですね。そしたら何か、いきなりひとり担当だったのもあるんですけど、書店員の基本が全然わかっていないんじゃないかと思えて、すごい不安なんですよ。仕事を教わるような先輩もいなかったし…。いろいろと他の書店さんを見て勉強しようとは思うんですけど、どうしたらいいんでしょうかね。」

 気持ちのこもった言葉だった。いつも一生懸命なAさんがこんな不安を抱えながら仕事をしているなんて思いもしなかった。いや一生懸命だからこそ、感じ始めてめてきたのか。僕に何か出来ることはないかな…と考えていたら、いきなりBさんの顔が浮かんだ。

 BさんはこのAさんと同じ系列の別支店で働いているスゴ腕書店員さんだ。そのBさんから何か教わることができれば、Aさんにとって、ものすごいプラスになるのではないかと閃いた。

 ただ、書店さんのチェーンというのは、不思議なものでお店が違えば、別会社みたいな感じがあって交流がほとんどないのが現状で、これはこの系列の書店さんに限ったことではなく、僕が廻っている書店の多くで感じることである。もったいないなあ…というのが僕の想いだった。

 今ここにやる気になっている若い人がいて、書店員としていろいろなものを吸収しようとしている。そこへBさんの書店員としての血が受け継がれることになれば、とてもうれしいことなのではないか。

 他の仕事もそうだけれど、書店員というのはやはり経験がモノをいう仕事だと思う。覚えることは山のようにあるし、出版社とのつながりも大きい。また、その人本人の感覚も大切だし、まさに職人的な仕事だと僕は考えている。最近ものすごい勢いで普及し始めた自動発注やポスという機械では、到底代替できる仕事ではないのだ。

 その職人的な仕事の全てを教えることは難しいかもしれないけれど、書店員としての面白さやヒントを伝えることはできるのではないか。そして、ひとつの面白さ(方法論)がわかれば、Aさんももっともっと本や本屋について興味を持ってくれるのではないか。

 出しゃばっている自分がものすごく恥ずかしかったけれど、Aさんにそのことを伝えた。するとAさんも実はBさんのお店を覗きに行こうと考えていたらしい。

「でも同じ会社とはいえ、全然面識がないんですよ。すごい迷惑になるんじゃないかって。」
「それなら僕に任せてもらえませんか。僕は両方知っているわけだし、Bさんにちゃんと話すこともできますから。」

 もう僕は完全に恥を捨てた。ここにひとりの自覚ある書店員が生まれるなら何でもいいやと思った。とにかくAさんに頑張って欲しい。

 その後、Bさんに連絡をいれ、事情を話した。Bさんは快く引き受けてくれ、連絡してくれるように伝えて欲しいと言ってくれた。まだ二人の交流は始まったばかり。でも、何か絶対に受け継がれる物があるはず。それは今後のAさんが作る棚を見れば一目瞭然。時間はかかると思うけれど、ものすごく楽しみだ。