7月30日(月)
会社に出社すると、なぜか僕の机の上にドラえもんのぬいぐるみが置いてあった。確かにこの世で一番欲しいものはドラえもんだけれど、それはポケットの中身だけのこと。あんな口うるさいロボットにつきまとわれたらたまらない。それよりも、僕にぬいぐるみを集める趣味はない。
いったい何なんだ?誰か社員の新たな嫌がらせなのか、それとも小学館に取材に行ってそのおまけなのか。うーん、やっぱりわからない。
先に出社していた事務の浜田に「このドラえもんは何?」と質問すると
「それは、タケコプターの部分を引っこ抜くと電報が入っているんですよ。杉江さん知らないんですか?信じられない!!とにかく杉江さんに電報が届いたんです。」と言う。これが電報?それに誰から?そして何?
「?」マークだらけで、そのタケコプターを引っこ抜くと、浜田の言うとおり小さな紙片が挿入されていた。
「お祝い
東京都中野区南台4-52-14
中野南台ビル 1階
株式会社 本の雑誌社
炎の営業 杉江課長 様
三十路おめでとうございます。今度飲みに行きましょう。
火曜助っ人4人娘より」
そうだったのだ。すっかり忘れていたが、僕は今日で30回目の誕生日を迎えたのだった。文面を目で追いながらも、何だか紙片を持つ手が震え、文字がにじんでよく読めない。いつもは憎まれ口を叩いている助っ人達の粋なやり方に思わず涙。
でもきっと、僕はもの凄くシャイなので、面と向かって御礼を言えないだろう。多分「お前ら、こんなことをしても時給は上げないぞ」とか「ドラえもんは目黒さんの愛称だから縁起が悪い」とかとにかく悪態をつくだろう。
この場を借りて素直に御礼を言わせてもらいます。
武田さん、高橋さん、吉田さん、大塚さん、ありがとう。
今度、ドーンと飲ませてやろうじゃないか。
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この電報を読みながら、では、30歳になってみて実際どうなのか?ということを少しだけ考えた。しかし別に昨日までの自分と何かが変わるわけもなく、あまり意味がないように思えた。じゃあ、20代を迎えたときは、どうだったのか?その頃の気持ちなんてほとんど覚えていないけれど、10年後にこのようにして働いているとはまったく想像していなかったことだけは確か。ということは、40代を迎える10年後もまったく何をしているのかわからないということ。
何だか面白そうだと思った。