第154回:越智月子さん

作家の読書道 第154回:越智月子さん

2006年に小説家デビュー、その後『モンスターU子の嘘』や『スーパー女優A子の叫び』で注目度を高めてきた越智月子さん。作家志望だったわけではなく、知人の勧めで小説を書き始めたという珍しいパターンの彼女は、どんな本を読んで、どんな経験を経て作家となったのでしょう? 新作のお話などもあわせておうかがいしました。

その5「新作はアラカン女性たちが主人公」 (5/5)

――さて、新作『帰ってきたエンジェルス』はかつて名門女子校に通っていた仲良し五人組で、現在は還暦に近い、いわゆるアラカンの女性たちが主人公の連作短編集。越智さんよりも上の世代の話ですよね。

越智:ちょうど姉の世代の人たちの話です。昔から姉にいろいろ話を聞いているので、この世代のことは得意なんです。あと、書く前に藤田宜永さんの『夢で逢いましょう』を読みました。数十年前に再開した幼馴染みの男たちの話ですが、60年代、70年代のノスタルジックな感じがすごく参考になりました。ひとつ思っているのは、老いることは誰もが受け入れなければいけないということ。デビュー作で書いた40歳ぐらいというのは初めて本格的な衰えを感じる年代ですよね。本人たちはすごく嫌だと思うだろうけれど、現実は受け入れたほうがいいと思って突き放す感じで書きました。でも今回は、もうここまで来たんだからいじめたくないよな、いい話にしたいよなと思っていました。生きていてよかったよという話にしようとはひっそりと決めていました。

――グループサウンズに夢中だった彼女たちは、大好きなアイドルグループが再結成すると知って浮足立っていて、パワフルで可愛い。これはどのグループがモデルかな、などと想像しながら読みました。

越智:これは『オール讀物』で連載したものなんですが、読者層がわりと姉の世代の女性が多いと聞いたんです。それで、昔取材で氷川きよしさんのコンサートに行った時の、おばさんたちの楽しそうな姿を思い出して。タイガースのメンバーのトークイベントに行った時も、ファンの方々がみんな赤い服を着て来て、ものすごく生き生きとしていたので、ああいう瞬間を書きたいと思いました。

――作中の詞とそれぞれの話がうまく絡んでいるなと思いました。彼女たちは、義理のお父さんに振りまわされたり、パート先の若い店長になつかれたり、周囲からは美魔女と見られているけど本人は悩みがあったり、子供が引きこもりだったり...。それぞれの事情があるんですよね。仲良し五人組のうちの一人に関するわだかまりも、ずっと心の中にある。

越智:その年になるまで何か気がかりを残している人たちの話にしたいとは思いました。彼女たちが応援しているグループをツインボーカルにしたのも、仲間割れを象徴するようなことを書きたいと思ったからなんです。

――今後は先ほどの夫婦もののほかに、どんな作品の刊行を予定していますか。

越智:今は四姉妹ものを書き下ろしでやっています。それがいつ出るかは私の心がけ次第です(笑)。他に、母娘ものを祥伝社のWEBマガジン「コフレ」で書き始めたところです。これを書く時に佐野洋子さんの『シズコさん』を読み返したり水村美苗さんの『母の遺産』なを読んでやっぱり面白かったですね。

(了)