書店員矢部潤子に訊く/第2回 注文について(2)売れる前に追加注文を出す

第2話 売れる前に追加注文を出す

── そうすると一番最初の作業は、前回伺った返品ですよね。もしくは棚から本を抜いたり平台から本を外すこと。外さなきゃ届いた本は並べられないんですから。

矢部 そのどれを抜くかということに頭を使います。それを面倒と思うと、パターン配本の本屋になっちゃう。実は各書店があまり注文しなかった本とか、いい本かもしれないけども自分の店には合わないっていう本も、単純な刷り部数や配本の論理で届くわけです。

── 仕入にも意思がまったくなくなってしまう。

矢部 配本で入ってきた本を置くことは悪いことじゃないけど、本を置くときはよく考えて置かないとね。平台にしても、今どーんと入荷したけれども、まず、これを積むかどうかっていう判断がまずありますよね。こんなに来たけれど、今、厳選した平台の30点をひっくり返してまで置くべきか。新たに来たから絶対そこに置かなきゃいけないわけではない。ましてや売れて2冊になっちゃった本の、その売れる可能性の高い2冊を棚に入れてしまって、売れるかどうかわからないこの本を積んでいいのかと。

── 本来だったら10冊入ってきて1冊も売れてないのを外せばいいんだけど。

矢部 でもそれを見るには、データを見なければならないし、奥にある10冊の本を動かすには平台を全面的に積み直す必要がある。そうすると手前の2冊の本を外すほうがずっと楽なのよ。概してそちらに流れがちですね。

── 売れてる本がどんどん平台から外れていってしまって、こちらも結局売れ残りの平台になってしまうんですね。

矢部 30点積める平台があって、今日ここに平積みしようと思う本が3点あったら、3点外す必要がありますよね。で、3点外したら、外したところにその3点を並べて終わりってことじゃない。より売れるようにするためには、隣や前後の本との関連から並べ替えないとね。もしかしたら平台30点全部並べ替えた方がいい場合もある。その3点が来たことで、残した27点も更に売れるようになるかもって。

── ああ、外したところに置き換えるだけでなく、面全部が変わってくるわけですね。

矢部 そうですそうです。平台というのは面で出来ているわけだから、面で表現しないといけません。平台の前に立ったお客さまの視界に入る世界を考える。だから新しい本が1点でも入ってきたら全部入れ替えた方がいいかも知れない。でもそれをものすごく手間だと思う人がいて、そのまま外したところに置いちゃう。

── そうするとミステリーの隣に時代小説があり、そのまた隣にミステリーがあったり、同じ著者なのにちょっと離れてしまったり、首を傾げる平台になってしまうわけですね。

矢部 そうそう。楽しようとするとそういう罠に気づかず、どんどん適当な平台になっていっちゃいますね。しかもそこへ2冊になっていた売行きのいい本の追加がやっと10冊届いたりして、それも積みたいと。

── また平台を替えなきゃいけなくなるわけですね。

矢部 書店員の仕事というのはこれが毎日続くわけですね。それを面白いと思うか、面倒と思うかで全然変わってくるわけ。面倒と思う人は、だんだん追加注文を出さなくなっちゃいますね。

── 矢部さんの中では、追加注文を出す出さないの基準ってあるんですか? 何日間で何冊売れたらとか何割減ったかとか。

矢部 それはお店の持つ力がそれぞれ違うから一概には言えないけど、実は文芸書なんか意外に棚下平台からは動きが鈍くて、超話題書はともかくとして3冊とか5冊とか配本で届く本は、そんなに足が早いわけじゃなかったな。でも発注するタイミングってやっぱり初日とか2日目にパパッと売れたりしたら入ってきた以上の数は出してましたね。もっと売れるかもしれないぞってわくわくしながら。

── じゃあ5冊入ってきて、1日目に2冊、2日目に1冊売れたなんて本は、5冊以上の注文を出します?

矢部 そりゃ出しますよ。もう10冊とか20冊とか出すね。初回配本って、雑貨屋さんでいうところの見本なわけじゃない? だから本当のベストなかたちでいえば、それが売れないうちに追加を出すかどうか決めたい。

── 新刊の箱を開けた時に追加注文を出すみたいな?

矢部 そうそう。仕入れに行って、朝検品して、新刊パレット4つですみたいなのを開けていって、で、1冊しか入って来てないけど売れそうっていう本は横に置いておいて、その場で電話しちゃう。

── 出版社に?

矢部 そう。もしそのとき時間がなかったら、その本は新刊だからすぐ売り場に出さないといけないし、メモしたりして、早めに出版社に電話してましたね。

── 1冊も売れてないんですよね?

矢部 それはもう判断ですよね。売れる、足りないって。新刊案内とかで気づいていれば当然事前に注文しているんだけど、案内のない本もいっぱいあるわけで、それはその実際に配本で見た瞬間に判断しないと遅いよね。

── 新刊に関しては一番の判断は営業マンの案内やダイレクトメール、FAXで届く注文書で、次に入荷してきたときにもう一回判断するわけですね?

矢部 装丁も含めてそこで判断できるわけじゃない? 案内されたときにはピンと来なかったけど思ったよりいい本だなとか。そうしたら改めて注文しますよね。それに、平台に置いた途端に動いたら、いやもう、当然だけどすぐ追加注文する。

── それは毎日、出社したら昨日どれが売れてとスリップでも見るんですか?

矢部 棚担当なら、自分の平台を見れば、昨日の今日で何冊減っているかすぐ気づくでしょ。そのためにも平台の積み方にお約束作ってるんだから。おっ、3冊も売れてると思ったらすぐ注文します。そういう追加の注文をこまめにしていかないと、結局売れてない本ばかりが並んでいる本屋さんになっちゃいますよね。今日もたくさん新刊が入荷したから、減ってラッキーにみたいな考えでいるとね。



聞き手・杉江由次@本の雑誌社


(第2回第3話に続く)


矢部潤子(やべ じゅんこ)
1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て、93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書、商品部、仕入など担当しながら2015年閉店まで勤務。その後、いろいろあって退社。現在は㈱トゥ・ディファクトで、ハイブリッド書店hontoのコンテンツ作成に携わる。