WEB本の雑誌

4月19日(木)

 横浜営業に出かける。横浜の書店さんは一件一件、切磋琢磨していてやる気もあるし、面白い人がそろっていて、営業ルートのなかで非常にやりがいのある地域。月に1度の訪問を僕は楽しみにしている。

 S書店のHさんを訪問。
「ちょうど良かったぁ、電話しようと思っていたんですよ」とうれしいことを言われる。
何だ?注文か?と喜んでいたら、続けて出てきた言葉に突き落とされる。
「実は、今月いっぱいで退職することになって…」

 その後は気が動転してしまって、Hさんとの最後の会話なのにうまく話が噛み合わない。気もそぞろというか、約1年くらいのツキアイで交わした会話、態度などが頭のなかをグルグル廻る。

 例えばこんなことがあった。
 このS書店さんのすぐ近くの地下街にあるM書店さんは同じ系列のお店で、ある日そちらの担当のYさんと話をしているとき、お店にHさんから電話が入った。僕はピーンと来て、電話に向うYさんに「在庫移動の電話だったら、僕これからHさんの所に行きますから持っていきますよ」と伝えた。

 電話に出た、Yさんが僕を見て笑う。予想通りだった。Hさんのお店で未入荷だった新刊を手に入れたくて電話してきたのだ。チェーンの書店さんでは、このような形で支店間の在庫をやりくりしているところが多い。

 移動する本を袋に詰めながら、Yさんは恐縮して「杉江さんに申し訳ないからなんか既刊の注文しようか?」と言ってくれた。でも僕はそんなつもりで申し出たわけではないと断り、10冊の本を抱えてHさんのお店に向った。

 多分、他の営業マンから見たらなんてバカなことをしている営業なんだろうと思われるかもしれないけれど、僕はものすごく楽しかった。本10冊の重さ以上に心は軽くなった。

 あの時、10冊の本を受け取り、「ありがとう、すごい助かりましたよ」と笑いながら感謝してくれたHさんが、あと数日で退職するという。個人の問題なのだから、立ち入って退職する理由なんて聞かなかったし、仕事をやめることは別に悪いことではないのだから意見することもない。

 ただただ、今までの感謝と、もし今後この業界に戻ったら絶対連絡を下さいと寂しさを隠せずに、ボロボロになって伝えた。そして元気でと…。