WEB本の雑誌

5月18日(金)

 書店さんの店頭で営業マン同士が鉢合わせすることはしょっちゅうで、そういうときは先に訪問している人が優先となり、話が終るまで在庫チェックや新刊の売行きなどを確認して待つか、近くに他のお店があれば順番を変えて訪問し直す。

 ときたま、ものすごく話しの長い人がいて、それが何か大事な打ち合わせなら仕方ないけれど、とにかく「売れてます」一辺倒の押し込み営業マンがいて、注文を貰うまで帰らないようなタイプだと、たまらない。うんざり顔の書店員さんと顔を合わせ「はまってますねぇ」と目で会話してしまうときもある。
 何となく気になってその営業マンが売り込もうとしている本を確認するとちゃんと平積されていたりするのが謎だ。

 とある飲み会でお会いした先輩営業マンの言葉が心に残っている。
「営業マンはいっぱい注文を取りたい、なるべく多く納品したい、それはすごく当然なことだけど、書店さんだって入れられない事情があるかもしれないよね。売れるか売れないかの判断はもちろん、例えば今みたいな出版不況のなかだと、本部から在庫を減らす指示が出ているとか、取次店から返品率でクレームがついているとか。そういうことを営業は気づいていくべきだと思うんだよね。初回注文部数が少なくて、しつこく食いつくくらいなら、実際に売れたときにすぐ納品できる体制を作っておいた方が、いいと思うんだよね。」

 その方は僕の尊敬する書店員さんがイチ押しする営業マンであり、他の書店さんで聞いてもとても人気のある方だった。見習うべきことはたくさんある。

 さて、出版業界の話題が出るときまって「返品ができるからいいですよね」と言われるが本当にそうなのだろうか。

 例えば車や家を売る営業マンなら、お客さんがハンコを押した瞬間に純粋な売上となり、ある種達成感があるだろうし、もちろん会社も潤う。ところが出版営業マンは、例え注文をもらったとしてもそれが実際に売れるまで、仮の売上でしかない。会社としても実際の売上が確定しない困った状態なのだ。
下手すると次に訪問した際にはすべて返品になっていることもあって、行って来いの繰り返し。ああ、いったい俺は何のために苦労したんだ…と激しい徒労感を覚えることもある。
それに在庫の把握が難しい。市場在庫がそのまま自社在庫になる可能性もあり、返品可能というのは、一見楽そうに思えて、実は苦しかったりするものなのだ。

 そして、僕が一番声を大にして言いたいことは、書店さんだって返品したくて返品しているのではない!ということ。営業も来ず、パターン配本で勝手に送られてくる本や、冒頭に書いた押し込み営業マンの本ならともかく、自分で売れると思って注文した本を返品するときの胸の痛みは大変なものなのだ。売れると思って売れない、それは自分の感覚に負けること。このストレスは、想像を以上に大きい。

 まあ、こんなことを書いてもやっぱり返品可能は「楽」だと言われるか。

 さてさて、話しを元に戻すと、僕もたまに話しが長くなって、後ろで待っている営業マンに申し訳ないなあと感じることがある。僕の場合、押し込み営業マンではなく、雑談営業マンになってしまうのだけれど…。書店さん、そして出版営業の方々、どうもすみません。