WEB本の雑誌

8月29日(水)

 夜、親友と酒を飲む。
 奴とは高校の入学式で出会ったから、かれこれ15年近いつき合いだ。お互い腐れ縁だと不満を垂れるが、黙っていても好みのつまみを頼みあえる友達はそうそういない。

 高校時代、毎日ほとんど欠かすことなく駅前の喫茶店に通っていた。高校よりも喫茶店の方が出席率が高かった。特別コーヒーが美味いわけでもなく、ランチの味も大したことがない。ただ、制服でタバコを吸っても怒られず、長居しても文句一つ言われず、ちょっとだけアルバイトの店員がかわいかっただけの平凡な店だった。

 いつもそこに仲間が10人くらいたむろっていた。朝行っても、昼行っても、放課後に行っても絶対誰かがいたし、誰もいなければ、自分がコーヒーを飲んでいるうちに誰かが来た。喫茶店に集まって、何をしていたのか? いま、思い出そうとしても、ほとんど思い出せないけれど、将来のことについてよく話していたのを覚えている。

「サラリーマンになりたくないよな」
「絶対やだね、毎日満員電車に揺られて、ペコペコ頭下げて、愛想笑い浮かべて、ああいう奴らはバカだよ」
「情けないよ、サラリーマンになるくらいなら死んだ方がましだね。」
「じゃあ、何する?」

 いつもその言葉の後、沈黙が訪れた。

 その頃から15年が過ぎ、いつも集まっていた喫茶店も僕らが高校を卒業するとほぼ同時に潰れてしまった。それでもいまだに時間を見つけて、仲間とは会い続けている。結局、どいつもこいつもあれだけ嫌がっていたスーツを着て、ネクタイ姿のサラリーマンになってしまった。待ち合わせの場所にやってくる、その姿を見て、互いに苦笑いする。

 でも…。
 どこかでみんなあの頃の想いを持ち続けている。
 そして探し続けている。

「なんかやろうぜ!」
「なんか?って何よ?」