WEB本の雑誌

10月5日(金)

 Y書店のNさんから「もしかすると辞めるかもしれない」と話されたのは7月の終わりだった。ちょっと詳しく話をしてくださいと無理矢理、喫茶店に連れ出し、アイスコーヒを頼んだが、ハンカチに吸収される汗と同じくらいのスピードで飲み干す、暑い暑い季節だった。
 Nさんは34才で、僕とほぼ同年代。そういうこともあってか、妙にウマがあい、訪問する度、仕事を離れたことでも気軽に話し合っていた。出会ったときは、渋谷店の店長で、今は水道橋店の店長に赴任し、約1ヶ月。

「なんだか本気で仕事に向かえなくなっちゃったんだよね。そういう自分がイヤだし、またそんな姿を後輩に見せるのもつらいしね。まだ気持ちも考えもハッキリしていないんだけど、辞める可能性があるってこと伝えておこうと思って。」

 「イヤ」という言葉を吐くとき、Nさんは本気で自分を憎むような顔をした。その顔を見て、僕はまたNさんを好きになった。自分にウソがつけない人なんだと。

 そのNさんからお盆明けの8月中旬、電話があった。
「急なんだけど、結局、今月いっぱいで辞めることになりました。」
「……。」

 しかし僕はいつものように悲しんだりはしない。Nさんとは仕事を越えたつき合いが出来ていると自信があったからだ。もう会えないなんてことはないという自信が…。

 延び延びになっていたそのNさんの送別会が本日飯田橋で行われた。そこにやってきた出版社の営業マンは、5社6名。これを少ないと取るのは簡単なことだが、濃さが違う。全員、Nさんと人間的なつき合いをしてきた営業マンで、50代もいれば、40代もいる。会社の大・小もバラバラだし、名刺の肩書きだってお偉いさんからヒラまでいて、全員Nさんを通じて知り合い、互いに腹を割って話せる集まりとなっていた。そしてみんなの中心にあるのが「本」であった。

 送別会の最後に一番年長のS社のAさんが言った。
「次の集まりは、12月にしよう。みんな年末で忙しいだろうけど、この集まりだからどうにかしよう。」

 そしてNさんに向かって続けた。
「Nさん、これは仕事とは関係ないんだから。オレ達とNさんのつながりだよ。ちゃんと来てくれよ。」

 Nさんは「もちろん」と大きく頷いた。

 僕は、この仕事に就けたことに、そしてこのような出会いがあったことに深く感謝した。