10月11日(木)
搬入日に雨が降るというのが定説になりつつある。
思い起こせば、『真空飛びひざ蹴り』の搬入時も大雨で、『笑う運転手』のときは、台風が直撃した。そして『日本読書株式会社』のときも雨。その間に出ている『本の雑誌』の搬入日もすべて雨だったと事務員浜田は手帳を見ながら言う。まるで僕が雨を降らせているかのような恨めしそうな顔をして…。それにしてもなぜ手帳に天気が書いてあるんだろう?
浜田といえば、先日こんなことがあった。
僕が渡した大切な伝票を紛失したと大騒ぎ。
「キィー、どこへいったの? クー、ないよ~」とお得意のカ行言葉で絶叫し、机のあっちゃこっちゃをひっくり返していた。なかなかその伝票がないと、「もしかして杉江さんが渡した気になって、ほんとはまだ持っているんじゃないですか?」なんて他人のせいにする始末。
こういうとき、普通の会社の上司というのもはどうするのだろうか?「いい加減にしろ!」などと怒鳴り、その後はぐちゃぐちゃと他のことも引っ張り出して叱るのだろうか。そういえば、前の会社でそういうことをされた記憶もある。しかし、そんな人間にはなりたくない。
でも何か言わないと示しもつかないだろう。デキた上司というのはいったいこういうときにどういう態度をとればいいのだろうか。うーん、困った。「上」になるのはなかなか面倒なことだし、おまけにこの会社は普通の会社ではないことを忘れてはいけない。
結局、妙案が浮かばず、僕は「ちゃんと見つけましょう」とおバカな一言を放ってワープロに向かった。
しばらく時間が過ぎて、それでも浜田は机のなかや足下などをひっくり返していた。まだ見つからないらしい。僕は売上管理表の打ち込みを終え、プリントアウトにかかった。
そのとき、プリンターから「ガシャガシャガシャ」という音が聞こえ、我がマッキントッシュから警告音が鳴った。「プリンターの紙詰」と表示されたので、カートリッジを引き出す。
すると、すると、なんと浜田が1時間以上も探していた伝票がくしゃくしゃになって出て来るではないか!
思わず瞬間的に怒鳴なりつけようかと思ったが、ぐっと言葉を飲み込む。「デキた上司」そして浜田のためになる一言を発しなくてはならない。うーん、どうしたら良いんだ? とにかく机の下で相変わらずガサゴソやっている浜田に発見したことを伝えか。
「浜ちゃん、これ」
「あっ、どこにありました? やっぱり杉江さんが持ってましたか?」
「違うよ、プリンターのなかに紙と一緒にまざっていたみたいなんだよ」
浜田はきょとんとして一言。
「最近、この会社に小人が多いんですよ、コロボックルって言うんですか?あれがいるんですよ。また悪さをしたんですね、ああ、困った、困った。」
凄すぎる言い訳に僕は何も言えなくなった。やっぱりここは普通の会社ではない。