不思議な生物テトラヒメナに迫る!

文=仲野徹

  • ノーベル賞に二度も輝いた不思議な生物:テトラヒメナの魅力
  • 『ノーベル賞に二度も輝いた不思議な生物:テトラヒメナの魅力』
    沼田 治
    慶應義塾大学出版会
    1,980円(税込)
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  • 民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道
  • 『民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道』
    スティーブン・レビツキー,ダニエル・ジブラット,池上 彰,濱野 大道
    新潮社
    2,750円(税込)
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  • サイエンス・ネクスト: 科学者たちの未来予測
  • 『サイエンス・ネクスト: 科学者たちの未来予測』
    アル=カリーリ,ジム,Al‐Khalili,Jim,多惠子, 鍛原
    河出書房新社
    2,200円(税込)
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  • 宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来 (中公新書)
  • 『宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来 (中公新書)』
    小泉 宏之
    中央公論新社
    1,100円(税込)
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  • 超一流のサッポロ一番の作り方
  • 『超一流のサッポロ一番の作り方』
    マッキー牧元
    ぴあ
    1,320円(税込)
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  • 終活なんてまだまだ早い! 人生は還暦から!  (ヨシモトブックス)
  • 『終活なんてまだまだ早い! 人生は還暦から! (ヨシモトブックス)』
    小山内 美江子
    ワニブックス
    1,320円(税込)
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 テトラヒメナをご存じだろうか、と聞いても、ほとんどの人にとっては「?」だろう。繊毛虫とよばれる洋梨型の単細胞生物で、体長は30~100㎛(100㎛は1㎜の十分の一)くらい。水中に棲んでいる。

 小核と大核という二つの核があって、大核には染色体がいっぱいある、というへんちくりんな生物である。しかし、その特殊性がものをいって、ほとんどの人が気づかない間に『ノーベル賞に二度も輝いた不思議な生物』(慶應義塾大学出版会)になっている。

 副題は「テトラヒメナの魅力」というだけあって、著者の沼田治先生がいかにテトラヒメナを愛しておられるかがひしひしと伝わってくる。

 ちなみに、テトラヒメナをテーマにしている研究室は世界中に30くらいしかないらしい。そのうちの二つがノーベル賞を受賞し、さらに、近い将来、もう一つ出そうな雰囲気なのである。それって、どんだけ高率なんや。素晴らしすぎるやないの。

 米国の中間選挙がワイドショーで大きく取りあげられたのには少しばかり驚いた。次期大統領選挙でトランプの再選がどうなりそうなのか。ニュースを読んでもよくわからないのだが、なんとなく米国の状況がよろしくないという印象は誰もが持っているだろう。

『民主主義の死に方』(スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット/濱野大道訳/新潮社)は、どうして今のような状況になってしまったのかを描いた本である。政治学を専門とする二人のハーバード大学教授が、米国の民主主義は歴史的にどのように守られてきたかをわかりやすく説明してくれている。

 なんとなく、トランプが特殊にいけないのだ、という印象を持っている。しかし、この本によると決してそうではない。それ以前の段階から、政治状況がトランプ的なものを受け入れるように悪化しつつあったことこそが大きな問題なのである。

 二大政党制の米国と日本では異なった点も多いが、政治信条の違う相手に対する非寛容さは同じように増大してきているのではないか。いや、世界中で、というべきかもしれない。米国のみでなく我が国の民主主義の行く末を考える上でも格好の一冊になっている。ぜひ一人でも多くの人に読んでもらいたい。

 民主主義が将来どうなっていくか、だけでなく、未来予測というのは基本的に難しい。しかし、助平根性から、つい気になってしまう。『サイエンス・ネクスト』(ジム・アル=カリーリ編/鍛原多惠子訳/河出書房新社)では、いろいろな分野の科学者が、それぞれの未来を予測している。

「地球の未来」、「人類の未来」、「オンラインの未来」、「未来をつくる」では近未来について。そして、「遠い未来」では、タイムトラベル、世界の終わり、宇宙移民といった夢のような話について書かれている。

 オムニバス形式なので、内容や書きっぷりはいろいろである。しかし、医療、遺伝学、合成生物学あたりの専門が近いところは本当にまっとうな書きっぷりで安心して読めたし、他の項目も相当に面白い。

 なかでも、地球温暖化を論じた気候変動や人工知能あたりは、立ち読みでもいいから読んでおいたほうがいい。しかし、量子コンピューティングがここまで進んでいるとは知らなんだ。

 この本ではあまり取りあげられていない宇宙旅行の未来について、わかりやすく解説してあるのが『宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来』(中公新書)である。

 著者の小泉宏之先生は、あの「はやぶさ」のイオンエンジン運用ならびに豪州カプセル回収プロジェクトに従事された宇宙推進工学の専門家だ。えらいかっこよろしい。

 まずはロケットの原理から説明が始まる。フロリダでのスペースシャトル打ち上げを見たことがある。といっても、30~40キロも離れたところからなのだが、それでも十分に迫力があった。どうして打ち上げの最初はあんなにゆっくりなのか、この本を読んで、ようわかりました。

 話は人工衛星から宇宙エレベーターへ、そして、イオンエンジンと小惑星探索へと進む。ご専門だけあって、イオンエンジンの話にはむっちゃ熱がこもってて、興奮がひしひしと伝わってきます。

 火星への有人探索となると課題は山積みだ。本当に人類が火星に立つ日はやってくるのだろうか。さらに、太陽系以外の恒星探索となると、気が遠くなってしまう。現実のロケット工学からSF的な世界まで、宇宙好きにはたまりませんで。

 ちょっと真面目系の本が並びすぎたかもしれんので、お口直しに『超一流のサッポロ一番の作り方』(ぴあ)を。著者のマッキー牧元氏は、様々なグルメを食べ歩くタベアルキストらしい。なんなんですか、そのタベアルキストいうのは。

 表題にもなっている「サッポロ一番塩らーめん」の楽しみ方は、タンメン風、ホーチミン風、ソウル風、カルボナーラ風から中野駅前平凡風まで計九通りが紹介されている。さらには卵かけご飯も九種類、インスタント焼きそばが六種類とかも。

 どれも実に旨そうな写真がついていて作りたくなる。って書きながら、まだいっこも作ってません。スミマセン。

 最後の一冊は脚本家・小山内美江子さんによる『終活なんてまだまだ早い! 人生は還暦から!』(ヨシモトブックス)を。

 60歳から海外ボランティアを始め、カンボジアなどに400もの学校を建てられた小山内さん。その話とか、金八先生に込めた想いとか、シングルマザーとしての子育て論とか。米寿になられてもむっちゃお元気です。いやぁ、パワーに脱帽。

(本の雑誌 2019年1月号掲載)

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●書評担当者● 仲野徹

1957年、大阪市生まれ。大阪大学医学部卒業、3年間の内科医として勤務の後、基礎研究の道へ。本庶佑教授の研究室などを経て、大阪大学医学部教授に。専門は「いろいろな細胞はどのようにできてくるのかだろうか」学。『本の雑誌』を卒業し、讀賣新聞の読書委員に出世(?)しました。趣味は、僻地旅行、ノンフィクション読書、義太夫語り。

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