目からウロコの身近な文化論『異教の隣人』

文=仲野徹

  • この世界で死ぬまでにしたいこと2000(ライツ社)
  • 『この世界で死ぬまでにしたいこと2000(ライツ社)』
    TABIPPO
    ライツ社
    2,640円(税込)
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  • いまどきの納骨堂: 変わりゆく供養とお墓のカタチ
  • 『いまどきの納骨堂: 変わりゆく供養とお墓のカタチ』
    理津子, 井上
    小学館
    1,320円(税込)
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  • 異教の隣人
  • 『異教の隣人』
    釈徹宗,細川貂々,毎日新聞「異教の隣人」取材班
    晶文社
    1,815円(税込)
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  • 美しき免疫の力―人体の動的ネットワークを解き明かす
  • 『美しき免疫の力―人体の動的ネットワークを解き明かす』
    ダニエル・M・デイヴィス,久保 尚子
    NHK出版
    2,530円(税込)
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  • ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義
  • 『ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義』
    髙田礼人,萱原正嗣,岡村優太
    亜紀書房
    2,035円(税込)
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  • イントロの法則80's 沢田研二から大滝詠一まで
  • 『イントロの法則80's 沢田研二から大滝詠一まで』
    スージー鈴木
    文藝春秋
    1,540円(税込)
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 旅行好き、それも僻地が好きだ。去年の夏はインドの最北部ラダックへ行った。マダガスカルとかブータン、みんなが怖がって行かないイランの旅行だって最高におもしろかった。

「死ぬまでに行きたいところリスト」があって、40ヶ所くらい書き込んである。行っても行っても、行きたいところが新たにわいてくるので、その数は減るどころか、増える一方だ。

 だから『この世界で死ぬまでにしたいこと2000』(TABIPPO/ライツ社)などという本は迷惑千万。なのに、不覚にも目を通してしまった。

 行き先が二千もある訳ではなくて、したいことが二千。186カ国にわたるその内容は、絶景あり、お祭りあり、ショッピングあり、グルメあり、博物館あり、アクティビティーあり。じつにバラエティーに富んでいる。

 日本からは、「富士山の頂でご来光を拝む」という、ベタというか鉄板というかの項目があるかと思えば、「都会に飲まれそうになったら『下灘駅』から海を眺めてリフレッシュ」とかいう、なんやねんそれは、と言いたくなるような項目まで、全部で27項目があげられている。

 ちなみに下灘駅はJR西日本予讃線の無人駅。調べてみたら、松山から約一時間で一日に11便もありますから、そこそこ行きやすい、かな。いやぁ、むっちゃそそられません?

 死ぬまでにどこへ行くかも大事だが、死んでから骨をどうするかも考える必要がある。人生は思っているほど長くない。

「さいごの色街 飛田」の著者・井上理津子さんの『いまどきの納骨堂』(小学館)にはいろいろと考えさせられた。

 少子化や都市集中をうけて、お墓の維持が難しくなっているのは間違いない。「墓じまい」とか「改葬」したとして、はたして遺骨をどうするか。

 自動搬送式あるいはカード式ともいう納骨堂がある。立体駐車場のように、厨子と呼ばれる骨壺をいれた箱が巨大な収納庫に保管されている。そして、お参りする時にはICカードをピッとすると、ウィーンと参拝室まで厨子が運ばれてくる。(擬音はイメージです)。

 なんとなくちょっとなぁという感じがするが、けっこうな人気らしい。井上さんも最初は違和感があったが、あちこち見て回っているうちにだんだん気に入ってこられたとか。

 他にも仏壇型やロッカー型、樹木葬や散骨、女性専用墓など、さまざまなスタイルが紹介されている。「送骨パック」なる、ゆうパックで骨壺を送ると永代供養してもらえるサービス(?)まであるらしい。

 死んでまで夫の家のお墓に入るのが嫌という女性が多いことには驚いた。わたしのような即物的な人間は、死んで焼いた後は単なるリン酸カルシウムやないか、と考えてしまうのだが、そうではない人が多いようだ。いやぁ、人生それぞれ、納骨もそれぞれ、であります。

 納骨も大事だが、そのための宗教儀式も重要である。世界五大宗教というけれど、その分派などをいれると、はたしてどれくらいの数になるんだろう。

『異教の隣人』(釈徹宗、細川貂々、毎日新聞「異教の隣人」取材班/晶文社)は目からウロコの一冊だ。そんなこと考えたこともなかったのだが、日本にも、外国人を中心としてじつに様々な宗教を信じる人がいて、そのための施設がある。

 浄土真宗の僧侶にして宗教学者、大学教授、さらにはNHKの「ニュース・シブ5時」の「渋護寺」コーナーでの人生相談にも出演しておられる釈徹宗師が関西地区にあるさまざまな宗教の施設などを訪問した記録、元々は毎日新聞に連載されていた記事の書籍化だ。

 もちろん、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教という五大宗教は網羅されている。他にも、非暴力・不殺生を説くインドのジャイナ教、原始キリスト教の教えを継ぐコプト教など。仏教でもベトナム仏教やら台湾仏教やらが取りあげられている。

 いやぁ、これだけの宗教が、規模は小さいとはいえ日本に根付いているのにはびっくりだ。単に宗教活動だけではない。それを通じて祖国を思うなど、心の絆にもなっている。宗教に限定されず、身近なところから考える文化論にもなっていて読み応え十分!

 死ぬこと関連が二冊の後は、バランスをとって、という訳でもないけど、医学系を二冊。まず『美しき免疫の力 人体の動的ネットワークを解き明かす』(ダニエル・M・デイヴィス/久保尚子訳/NHK出版)を。

 免疫学は、がんと並んで最も研究が進んでいる分野のひとつである。また、この二つはその発展のストーリーの面白さでも双璧である。慧眼の研究者たちがいかにして免疫学を切り拓いてきたか。感動の一冊だ。

 すこし難しいかもしれないが、免疫学研究者の著者が丁寧に解説してくれているのが嬉しい。日本からは、ノーベル賞候補、大阪大学の坂口志文先生が大きく取りあげられています。

 もう一冊はワイルドなウイルス学者、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター・髙田礼人教授の『ウイルスは悪者か お侍先生のウイルス学講義』(亜紀書房 )。

 インフルエンザやエボラ出血熱を専門にする髙田先生が、研究内容だけでなく、ウイルスとは何かなどについて、楽しくわかりやすく書いておられます。
 最後の一冊は、まったくうってかわって『イントロの法則 80's 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)。

 著者のスージー鈴木によると、80年代は日本音楽史上最強時代で、なかでもイントロがすごいという。この本を読みながら、YouTubeでそれぞれの曲を聴いてたら、むっちゃご機嫌になれますで。

(本の雑誌 2019年2月号掲載)

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●書評担当者● 仲野徹

1957年、大阪市生まれ。大阪大学医学部卒業、3年間の内科医として勤務の後、基礎研究の道へ。本庶佑教授の研究室などを経て、大阪大学医学部教授に。専門は「いろいろな細胞はどのようにできてくるのかだろうか」学。『本の雑誌』を卒業し、讀賣新聞の読書委員に出世(?)しました。趣味は、僻地旅行、ノンフィクション読書、義太夫語り。

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