5億年にわたる植物たちの戦争がすごい!

文=仲野徹

  • 読まずにすませる読書術 京大・鎌田流「超」理系的技法 (SB新書)
  • 『読まずにすませる読書術 京大・鎌田流「超」理系的技法 (SB新書)』
    鎌田浩毅
    SBクリエイティブ
    880円(税込)
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  • 植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース (ブルーバックス)
  • 『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース (ブルーバックス)』
    日本植物病理学会
    講談社
    1,100円(税込)
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  • 新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学
  • 『新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学』
    田淵貴大
    内外出版社
    2,420円(税込)
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  • 観光亡国論 (中公新書ラクレ)
  • 『観光亡国論 (中公新書ラクレ)』
    アレックス・カー,清野 由美
    中央公論新社
    886円(税込)
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  • 父と息子VS.母のお受験バトル 偏差値40台からの超難関中学への大挑戦
  • 『父と息子VS.母のお受験バトル 偏差値40台からの超難関中学への大挑戦』
    ジャガー横田
    祥伝社
    1,400円(税込)
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 本を読んでいて唐突に自分の名前に出くわしてびっくりした。それも、「選書に熱心な硬派の書評子」として、佐藤優、内田樹、池内了、成毛眞、斎藤美奈子らと並んでの紹介である。えらくうれしいやないの。

 だから紹介する、という訳ではない。かといって、それが全然関係してないとも言い切れないが、まずは、京都大学の鎌田浩毅教授による『読まずにすませる読書術』(SB新書)を。このタイトル、『本の雑誌』を読むほどの本好きなら、絶対に気になるはずだ。

 総務省の統計によると、年間の新刊書籍出版数は7~8万点。年間200冊を読んだとしても0・3%。ということは、日常的に99%以上の本を読まずにすませているわけだ。だから、「読まずにすませる」テクニックが大事なのである。

 いかにすれば無駄な読書をしなくてすむか、読まなくていい本をいかに見抜けるか、などが説かれていく。そのキーワードは「ストックよりもフロー」。

「『いつか読む』では永遠に読めない」とか、「『この本が人生を変えるか?』で不要な本は減らす」とか言われると、ほとんどの人がドキッとするだろう。

 そして、最後には、読書するだけではダメで、アウトプットすることの重要性が強調されている。いやぁ、勉強になりました。実践できるかどうかはわかりませんけど...

 このところ、講談社ブルーバックスの勢いがすごいような気がしている(個人の感想です)。『今日から使えるフーリエ変換』、『はじめての量子化学 量子力学が解き明かす化学の仕組み』、『不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか?』などなど。

 難しそうだが、むっちゃ賢くなれるに違いないテーマが目白押しである。そんな中の一冊、『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』(日本植物病理学会編著)を紹介したい。

 動物と植物は違う。いろんな違いがあるが、いちばん大きな違いは動けるかどうかだ。動物なら、病原微生物のある場所から移動して疫を免れることができる。しかし、植物にはそんなことできはしない。

 それだけが理由ではないが、植物は病原微生物とのバトル、より正確には軍拡競争、を5億年という気の遠くなるような年月にわたって繰り広げてきた。

 その結果、囮による倍返し、兵糧攻め、焦土戦術による心中作戦、などというさまざまな分子メカニズムを身につけた。

 動物の細胞と同じようなメカニズムもあるが、植物で独自に進化したメカニズムもたくさんある。いやぁ、進化ってホントにすごいですね。それ以上に、こういったことを次々と明らかにしてきた研究者たちはもっとすごいなぁ。

 タバコも重要な栽培植物のひとつであった。だが、いまや紙巻きタバコは世間から目の敵にされ、多くの人たちが、安全性の観点から新型タバコへと移行している。

 しかし、公衆衛生学者・田淵貴大の『新型タバコの本当のリスク』(内外出版社)によると、「現在のところ、アイコスやプルーム・テックといった加熱式タバコ製品が今までのタバコ製品よりも害が少ないという証拠はない」という。

 そういったことが、極めて科学的に論証されている。いやぁ、かなりびっくりしましたわ。でも、こんな本を出されて、JTはさぞ怒ってるやろうなぁ。

 京都や大阪はインバウンドの外国人観光客で大賑わいだ。経済的には喜ばしいことだけれど、昔からの風情が消えていくとか、なにしろうるさいとか、気になることがいくつもある。

『観光亡国論』(アレックス・カー、清野由美/中公新書ラクレ)は、このままでは日本は「観光立国」どころか「観光亡国」になってしまうのではないかと憂えている。

 インバウンド消費は四兆円を超え、トヨタの利益を超えている。観光産業はそこまで急速に伸びているのだ。日本という国が外国人に認められたようで嬉しいことではある。しかし、その魅力を切り売りするかのように日本がダメになってしまっては元も子もない。

 宿泊、オーバーキャパシティー、マナー、交通・公共工事の問題、文化保護などについて、それぞれどういった対応策が可能であるかが論じられている。

 インバウンドあふれて山河なし、といったような状態にならないように、いますぐ手を打つ必要がある。そう強く感じさせてくれる一冊だ。

 外国人観光客の受け入れには、異国の文化理解も必要である。言うに易く行うに難きことなれど、『イスラムが効く!』(ミシマ社)では、もう一歩踏み込んで、さまざまな問題の解決に「イスラムの知恵」を活かせばええんとちゃいますか、と提案している。

 著者はイスラム地域研究者の内藤正典と、ムスリムにしてイスラム法学者の中田考。貧困問題、心の病、高齢社会、世界平和、男女同権、などなど、さまざまな問題をイスラム的に考えてみましょう、という内容だ。

 そう簡単に取り入れることができるかどうかはようわからん。けれど、こういった視点があることを頭にいれておくと、なんとなく心がホッとする。

 最後は57歳の現役女子プロレスラー・ジャガー横田の『父と息子vs.母のお受験バトル』(祥伝社)を。偏差値41の子が、小六の夏から偏差値70の難関校をめざすというテレビ番組の企画が元の本だ。

 どう見てもきわもの感が強い。そう思いながら読んだのだが、どの家庭にもありそうなエピソードばかりで20年ほど前の我が家のお受験時代のことを懐かしく思い出せた。

 それに、意外にも(失礼!)ジャガー横田・木下博勝の夫婦ってむっちゃ素敵です。

(本の雑誌 2019年7月号掲載)

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●書評担当者● 仲野徹

1957年、大阪市生まれ。大阪大学医学部卒業、3年間の内科医として勤務の後、基礎研究の道へ。本庶佑教授の研究室などを経て、大阪大学医学部教授に。専門は「いろいろな細胞はどのようにできてくるのかだろうか」学。『本の雑誌』を卒業し、讀賣新聞の読書委員に出世(?)しました。趣味は、僻地旅行、ノンフィクション読書、義太夫語り。

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