「言葉」をめぐる物語『エディシオン・クリティーク』に興奮!

文=梅原いずみ

  • エディシオン・クリティーク
  • 『エディシオン・クリティーク』
    高田 大介
    文藝春秋
    2,420円(税込)
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  • 暗闇法廷
  • 『暗闇法廷』
    下村敦史
    双葉社
    1,980円(税込)
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  • 降り止まぬ雨の殺人: 京都辻占探偵六角 (ミステリ・フロンティア)
  • 『降り止まぬ雨の殺人: 京都辻占探偵六角 (ミステリ・フロンティア)』
    床品 美帆
    東京創元社
    2,420円(税込)
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  • 犯人と二人きり
  • 『犯人と二人きり』
    高野 和明
    文藝春秋
    1,980円(税込)
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  • シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和 (双葉文庫)
  • 『シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和 (双葉文庫)』
    阿津川辰海,木爾チレン,櫛木理宇,くわがきあゆ,結城真一郎
    双葉社
    781円(税込)
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〈図書館の魔女〉シリーズの高田大介が、またもや一癖二癖もある本を出した。『エディシオン・クリティーク』(文藝春秋)。原典考証を専門にする文献学者の嵯峨野修理が、古今東西の文書の謎を解く連作集である。修理が行う謎解きは"読解"だ。襖の下張りに記された奇妙なお告げから、古本の辞典に挟まっていた一行目のみ天地逆のメモ、解読不能と名高い古文書「ヴォイニッチ写本」まで、修理はあくまで「書かれた言葉」にこだわって読み解く。京極夏彦〈書楼弔堂〉シリーズに似ているように思えて、こちらは「本」ではなく、「言葉」そのものに焦点が当てられているところが特徴。文献学のあらゆる知見を結びつけながら書物の秘密に迫る趣向に、本好きはもちろん、ミステリ好きも興奮を隠せないはずだ。

 これだけでも必読に値するが、本作は「言葉」をめぐる人々の物語としても大変に秀逸。全三話の語り手は、修理の幼なじみで元妻、現在は彼の担当編集者でもある真理が務める。彼女は文献学における修理の能力を認める一方で、一度は婚姻関係にあった相手を「度し難い偏屈者で冷血漢で、甲斐性なしの社会不適合者」と言い放つ。確かに修理の言動は、「ちょっとそれは......」と思うものばかり。でも、二人の結婚生活が破綻したのは、なにも修理が「言葉になっているものにしか関心がない」からだけではない。そのことが明らかになるのは第三話。ここに来て、人間と人間が操る言葉の複雑さが改めて浮かび上がってくる。だからこの話は、「ヴォイニッチ写本」読解でなければならなかったのか!と気づいた時の衝撃ときたら。ちょっと最高すぎないか、高田大介。ちなみに著者の民俗学ミステリ『まほり』を読んでいると、嬉しいサプライズがあります。

 下村敦史『暗闇法廷』(双葉社)は、法廷ものの醍醐味が詰まった一冊。後天的な障害を抱える人々の支援をするNPO「天使の箱庭」の施設長が刺殺された。遺体の側にいたのは、血まみれになった全盲の入所者・美波優月。現場は第三者の出入りが不可で、凶器のナイフからは彼女の指紋も発見された。しかし、美波は施設長を殺していないという。彼女の弁護人となった竜ヶ崎恭介は、彼女の無罪を証明すべく真相究明に奔走する。

 全盲の美波からは視覚情報を得ることはできない。さらに竜ヶ崎は最初の接見の時点で、美波がすべてを正直に話していないと直感している。裁判になれば完全に不利な状況で、竜ヶ崎は現場の聞き取り調査や証拠の裏取りから、公判で使えるカードを増していく。彼の地道で丹念な調査は、本書の読みどころのひとつだ。そして、いよいよ幕を開ける裁判。検察官の真渕と竜ヶ崎の舌戦は緊迫感に満ちていて、ちょっとした言葉ひとつにも気が抜けない。検察官と弁護士、立場こそ異なれどお互いが「法の番人」としてのプライドを捨てていないところも素敵である。途中にはあっと驚く仕掛けもあって、そこから物語は急加速。予想外の展開が最後まで続く。デビュー作『闇に香る嘘』とはまた違う角度から全盲の人物を描く手法に、ベテランの巧さが光っていた。

 足を使った地道な調査が魅力という点では、床品美帆『降り止まぬ雨の殺人 京都辻占探偵六角』(東京創元社)もおすすめ。辻占による失せ物探しの名手で法衣店店主の六角と、駆け出しカメラマンの安見のコンビが京都を舞台に活躍するシリーズ二作目である。前作『431秒後の殺人』は連作短編集だったが、今回は長編。

 ある雨の日、六角法衣店を訪ねてきた女性。彼女の依頼は、七年前に自動車事故で死んだ妹の遺品の「本当の持ち主」を探してほしいというものだった。二人が調査に動き始めた矢先、関係者の不審死が発生、事件は連続殺人へ発展していく。現場に残された暗号、密室殺人、度々現れる白いワンピースの女"ゴースト"。京都のあちこちに足を運びながら手がかりを探し、繋ぎ合わせていく六角と安見の姿は、有栖川有栖の〈火村英生〉シリーズを彷彿とさせる。著者初の長編とは思えないくらい、二重三重に構成が練られていて、本格ミステリとしても読みごたえ抜群。すべての謎が解き明かされた後で行われる辻占の余韻が、またいい。

 高野和明『犯人と二人きり』(文藝春秋)は、スリルとサスペンスの技巧を堪能できる独立短編集。収録作は七話で、SF要素強めな異色の「ゼロ」にはじまり、小学生による本格×ジュブナイル「ハードボイルドな小学生」、昭和という時代の闇が煮詰められた「天城の山荘」などなど、怪事件と呼ばれるにふさわしい奇妙な話が並ぶ。お気に入りは、殺人犯と刑事が犯行現場に現れる幽霊の話をめぐり、車中で駆け引きを繰り広げる「死人に口あり」。オチが見事で、「拙僧!!」と言いたくなること間違いナシ。

『シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和』(双葉文庫)。阿津川辰海・木爾チレン・櫛木理宇・くわがきあゆ・結城真一郎という気鋭の作家たちによる、シリアルキラーを題材に編まれたアンソロジーである。阿津川の「シリアルキラーvs.殺し屋」はシリアルキラーに捕らえられた殺し屋が「二十の扉」というゲームで心理戦を行い、ゴトン病(クレーンゲーム依存症)に陥った主人公が堕ちていく木爾の「脳JILL」はタイトル含めインパクト大。結城の「ご乗車の際は」は、他人の生殺与奪の権利を握ることに快感を見出すタクシー運転手のとある一日が語られる。シリアルキラーたちはみな独自のルールを持っているので、運悪く遭遇してしまった場合は早めにそのパターンを見抜くと、生存率がアップし......無理か。

(本の雑誌 2026年2月号)

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●書評担当者● 梅原いずみ

ライター、ミステリ書評家。
リアルサウンドブック「道玄坂上ミステリ監視塔」、『ミステリマガジン』国内ブックレビューを担当。1997年生。

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