サバイバルから霊能力まで「館」ミステリが百花繚乱!
文=梅原いずみ
館、館、館。ここ最近、ミステリ界隈では館がたくさん建築されている。まず、綾辻行人『時計館の殺人』が実写化。それを受けて『小説現代』(二〇二六年三月号)では「Huluオリジナル「時計館の殺人」配信記念特集」が組まれ、同じくHuluで以前映像化された『十角館の殺人』は舞台化が決定、五月に上演予定である。そして、二~三月には「館」ミステリが集中して刊行された。
信国遥『未館成の殺人』(光文社)。大学ミス研のメンバーが夏合宿のために訪れた島、その館で連続殺人が──というのは館ものお馴染みの展開で、本作でもX大学推理小説研究会の面々がとある無人島を訪れる。ただし、舞台となる島に館は存在しない。正確には、建物の基礎部分しか残されておらず、X大ミス研のメンバーは当初、工事業者が使っていたプレハブ小屋で五泊六日の合宿を行う予定だった。だが、実際に訪れた島になぜか小屋はなく、乗ってきた船は炎上し沈没。X大ミス研の面々は孤島に取り残され、そのうちのひとりは翌朝死体で発見される。
館ものが手に汗握るのは、正体不明の殺人犯とともにクローズドサークルに閉じ込められるからである。しかし本作では、殺人犯以上に直接的な命の危機があった。飢えと渇きだ。館がないために、水や食料など最低限の物資もなければ、真夏の厳しい日差しを遮る屋根もない。救援はおろか、水の確保さえ困難という絶望的な状況である。夕木春央『方舟』とはまた違った極限状態のサバイバル・サスペンスで、X大ミス研のメンバーの追い詰められ方は切迫感がある。だからこそ余計に、なぜ犯人はわざわざこのタイミングで殺人を犯したのか、疑念が高まってゆくのだけれど。犯行動機と真相の衝撃もさることながら、館のない「館もの」をやってみせた著者の大胆不敵さを高く評価したい。
飛鳥部勝則『封鎖館の魔』(星海社)は、増改築の末、数多の開かずの間を抱えた「封鎖館」が舞台。本格ミステリの趣向がこれでもかと詰め込まれたうえに、飛鳥部にしか書けない怪奇と奇想に満ちた館ものである。封鎖館では、昭和に建築家が愛人の顔を切り落とす事件とサーカス団の猿が花形スターだった女の顔を切り刻み姿を消した事件が、平成には占い師が出入り自由の開かれた部屋で餓死する奇妙な事件が発生していた。異様な出来事は令和になっても続く。まるで昭和の事件をなぞるかのように、密室で顔面切断死体が発見され、連続殺人が幕を開けるのだ。
過去の事件を描く章、現在の事件を描く章が交互に切り替わりながら、館の住人と館が抱える異様な秘密が浮かび上がっていく。三〇〇頁前後と著者の作品にしては短めの長編だが、謎解き小説としての読み応えは凄まじく、特に伏線の妙技には唸ってしまった。フーダニットの伏線をそんなところに仕込むなんて、誰が想像できる......! しかもその間に、物語で一貫して描かれてきた「運命の女」という主題までもが反転する。唯一無二の世界観と癖の強すぎる登場人物たち、高密度の謎解きにやられる傑作である。
三作目は井上悠宇『予言館の殺人』(KADOKAWA)。十三年前に「予言館」で起きた三つの迷宮入り事件──通称「予言館の殺人」で両親を亡くした大学生の相馬慎司が主人公である。そんな彼の前に、同じく「予言館の殺人」で父親を失った花蓮が現れ、現在予言館を所有する推理作家にして花蓮の養父・赤城蘭堂からの招待状を渡す。事件後、予言館では怪奇現象が頻発していた。そこで蘭堂は関係者と霊能者を予言館に集め、霊視によって真相を究明するのだという。
過去の事件の謎を証言などから推理する「回想の殺人」ものと、後からあらゆる解釈が可能な「予言」は少々相性が悪い。そこに霊能力まで出てくるため、本作では事件の解決以前に、予言や霊能力は本物かインチキか、本物ならばどう解釈するのが正しいのかを考えなければならないのである。だが、著者はこの制約を逆手に取り、霊能者たちの多重推理によって予言や霊能力に「共通の解釈」を設ける。そこで決められたルールを前提に事件を検証し、大変鮮やかな謎解きが展開する終盤は見事としか言いようがない。特殊設定ミステリを得意とする著者ならではの、技アリな一作だ。
最後は館もの以外で、今月ベストに推したい阿津川辰海『犯人はキミが好きなひと』(ポプラ社)。『怪盗うみねこの事件簿』ではジュブナイルを、『ルーカスのいうとおり』ではホラーを本格ミステリと組み合わせ読者を驚かせてきた阿津川が、今作ではラブコメ×本格ミステリに挑んだ。「好きになった相手が必ず犯人」というなんとも悲しき体質を持つ幣原隆一郎と、名探偵に憧れる瀧花林、幼馴染の高校生コンビが主人公の全六話を収録した連作短編集である。
花林は隆一郎の特異体質を「悪女レーダー」と呼んでおり、彼を便利なセンサーとして扱うことで事件を解決していく。「好きになった相手が犯人」の縛りがあるうえで、ダイイングメッセージにアリバイ崩し、クローズドサークルなど、バリエーション豊かな謎解きを行い、かつ真相が明らかになった時の意外性を損なわない手腕は流石である。隆一郎と花林のやり取り、隆一郎に想いを寄せるお嬢様の千棘など、ラブコメ要素もバッチリで、それ自体も謎解きに取り込むのだからたまらない。連作の仕掛けが炸裂する最終話では、フーダニットの捻りと誰に感情移入すべきかというラブコメの醍醐味に翻弄された。隆一郎の好きな相手が分かる=犯行方法よりも先に犯人が分かるので、変則的な倒叙ものとしても楽しめる。
(本の雑誌 2026年5月号)
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- ●書評担当者● 梅原いずみ
ライター、ミステリ書評家。
リアルサウンドブック「道玄坂上ミステリ監視塔」、『ミステリマガジン』国内ブックレビューを担当。1997年生。- 梅原いずみ 記事一覧 »




