新創刊から電子書籍まで新春アンソロジー祭り!

文=大森望

  • Genesis 一万年の午後 (創元日本SFアンソロジー) (創元日本SFアンソロジー 1)
  • 『Genesis 一万年の午後 (創元日本SFアンソロジー) (創元日本SFアンソロジー 1)』
    堀 晃ほか
    東京創元社
    1,980円(税込)
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  • 万象
  • 『万象』
    北野勇作、南條竹則、藤田雅矢、井村恭一、山之口洋、沢村凜、涼元悠一、森青花、斉藤直子、粕谷知世、西崎憲、渡辺球、仁木英之、堀川アサコ、久保寺健彦、小田雅久仁、石野晶、勝山海百合、日野俊太郎、三國青葉、冴崎伸
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  • 温泉と城壁
  • 『温泉と城壁』
    北野勇作
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  • エンゼルフレンチ
  • 『エンゼルフレンチ』
    藤田 雅矢
    アドレナライズ
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  • 植物標本集(ハーバリウム)
  • 『植物標本集(ハーバリウム)』
    藤田 雅矢
    アドレナライズ
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  • グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行 (Kindle Single)
  • 『グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行 (Kindle Single)』
    高野 史緒
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  • おうむの夢と操り人形 (Kindle Single)
  • 『おうむの夢と操り人形 (Kindle Single)』
    藤井 太洋
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  • チュートリアル (Kindle Single)
  • 『チュートリアル (Kindle Single)』
    円城 塔
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  • トム・ハザードの止まらない時間 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
  • 『トム・ハザードの止まらない時間 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)』
    マット ヘイグ,青井 秋,大谷 真弓
    早川書房
    2,310円(税込)
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 東京創元社が日本SF専門誌をついに創刊! ってこれ、副題に「創元日本SFアンソロジー」とついてるし、だいいち単行本じゃん! ──と思うでしょうが、〈ミステリーズ!〉の前身の〈創元推理〉だって5号目までは四六判だったのである。というわけで、記念すべき創刊号『Genesis 一万年の午後』★★★★は、創元SF短編賞の受賞者と選考委員を軸に8人の新作を掲載する。久永実木彦の表題作は、第8回の同賞受賞作「七十四秒の旋律と孤独」の続編。「神々の歩法」で第6回を受賞した宮澤伊織も、その続編を寄稿。ともにハイレベルな本格SFで、書籍化が待ち遠しいが、インパクトでは、倉田タカシのなんとも形容しがたいストレンジ・フィクション「生首」と、謎の怪獣挙げ競技を描く高山羽根子の架空スポーツSFが双璧か。トリの堀晃は、大阪北部地震から語り起こして2018年の天災の記憶を私小説風にたどりながら、やがて......という円熟の短編。他に、宮内悠介、秋永真琴、松崎有理が寄稿。加藤直之と吉田隆一の美術&音楽エッセイも掲載されている。

 手前ミソながら、それより2週間早く、〝小さなSF専門誌〟の謳い文句で出たのが、3年ぶりに復活した第3期《NOVA》創刊号となる『NOVA2019年春号』(大森望責任編集/河出文庫)。新井素子の日常系神様ファンタジーに始まり、佐藤究と小川哲、赤野工作と柞刈湯葉、片瀬二郎と高島雄哉(ともに〝猫SF〟公募枠)のほか、小林泰三の《メルヘン殺し》スピンオフ、宮部みゆきの近未来親子もの、そして飛浩隆が新境地を拓いた「流下の日」の全10編を収録。

 アンソロジー祭りはまだ終わらない。西崎憲率いる電子書籍レーベルの惑星と口笛ブックスからは、日本ファンタジーノベル大賞受賞作家21人が参加する合計千枚の(ほぼ全作)書き下ろし巨大アンソロジー『万象』★★★½が登場。作品の傾向は様々だが(タイトルに合わせてか、象ネタが最多)、ジャンルを超えて圧倒的に凄いのは小田雅久仁「よぎりの船」。この1編を読むためだけに1冊買っても損はない。あとは、ぼんやりしたヒロインがビルの屋上でアドバルーン監視員とともにスカイフィッシュに遭遇する斉藤直子「リヴァイアさん」と、西崎憲のジョン・クロウリー風の謎めいた掌編「東京の鈴木」が印象的。配列は作者の同賞受賞順で、他に、北野勇作、南條竹則、藤田雅矢、井村恭一、山之口洋、沢村凜、涼元悠一、森青花、粕谷知世、渡辺球、仁木英之、堀川アサコ、久保寺健彦、石野晶、勝山海百合、日野俊太郎、三國青葉、冴崎伸が参加している。

 以上3冊で39人の短編が読めるが、電子書籍ではこれ以外にも、日本SF短編の刊行ラッシュ。惑星と口笛ブックスでスタートした〈北野勇作2本立て〉の第1巻『温泉と城壁』★★★½は、SFマガジン初出の「路面電車で行く王宮と温泉の旅一泊二日」と小説宝石初出の「壁の中の街」を収録。アドレナライズからは、傾向別に編集された藤田雅矢の短編集が3冊出ている。宇宙編の『エンゼルフレンチ』★★★½は、宇宙探査機ものの表題作ほか、SFマガジン読者賞受賞の「奇跡の石」に「飛行螺子」、「地球の裏側」、書き下ろしのバカSF「SHS88」を加えた全7編。植物編の『植物標本集』★★★½は、植物園学芸員・大河原が登場する「世界玉」「口紅桜」「トキノフウセンカズラ」の3作と、SFマガジン初登場作(96年6月号)の「計算の季節」、同誌読者賞受賞の「ダーフの島」など全8編。怪奇編の『鬼になる』★★★は、《異形コレクション》初出の4編を含め、全12編を収録する。

 新作では、中短編を単体で売るAmazonのKindle Singleから3作が同時リリース。高野史緒『グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行』★★★★½は、ライバー「あの飛行船をつかまえろ」の日本版、いや現代SF版とも言うべき叙情的な中編。年間ベスト級の傑作なのでお見逃しなく。藤井太洋『おうむの夢と操り人形』★★★★は、Pepperをモデルに、ロボットの未来とコミュニケーションの本質について考察する。円城塔『チュートリアル』★★★½は、データのセーブとロードが可能になった現実世界を通じて人生の意味とか物語についていろいろ考える。

 紙の本に戻ると、櫻木みわのデビュー単行本となる『うつくしい繭』(講談社)★★★★は、東ティモール、ラオス、南インド、南西諸島を舞台にした4編を収録。SF的アイテムで切った人生の断面がうつくしく魅力的な文章で描かれる。プリースト《夢幻諸島》連作を思わせるエキゾチシズムと身体性の融合が特徴。表題作は、世界のセレブが自家用ジェットとヘリで通う施設(コクーンと呼ばれる記憶整理装置がある)で働く日本人女性の物語。他に、東ティモールの少女を描く「苦い花と甘い花」、自分の記憶を他人に体験させられる結晶を生成する貝をめぐる百合SF「夏光結晶」(第1回ゲンロンSF新人賞最終候補作を大幅改稿)など、粒ぞろいの作品集。

 最後に翻訳SFを1冊だけ。マット・ヘイグ『トム・ハザードの止まらない時間』(大谷真弓訳/新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)★★★は、ハインライン『メトセラの子ら』系列の長命もの。1581年生まれの主人公(外見は40歳くらい)が437年の人生を振り返りつつ、同じ体質(遅老症)を持つ人々の秘密組織との関わりを語る。シェイクスピアやフィッツジェラルドも登場するが、クレア・ノースの『ハリー・オーガスト、15回目の人生』や『接触』と比べると、アイディア不足の感は否めない。

(本の雑誌 2019年2月号掲載)

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●書評担当者● 大森望

書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。

http://twitter.com/nzm

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